This American Life "Batman" 愛されることを拒否することで得られること

英語圏のエンタメが好きです。
YouTube、映画、音楽、オーディオブック... 日本語のものよりも、英語のエンタメ消費量の方が多いと思います。

その中でも、私好みのトピックが多く、クオリティーの高いエンタメを提供してくれていると思うのが、This American Lifeというポッドキャスト。

TALを聴き始めて、かれこれ7年ぐらいになります。
お気に入りのエピソードは何度も繰り返し聴いていて、そのうちの一つが、エピソード544 "Batman"。
最近久しぶりに聴き直したのですが、初めて聴いた時と同じぐらい印象的だったので、マジメに感想文を書いてみようと思います。


《 盲目の人は、見ることが出来るのか? 》

こう問われたら、どう答えますか?
普通に考えて、答えは"No"だと思います。
でも、『バットマン』というあだ名がついているダニエル・キーシュ氏の話を聴くと、その常識は覆されるでしょう。

ダニエル・キーシュ氏は、生まれつき両眼性網膜芽細胞腫(網膜がん)を患い、1歳の頃には両目を摘出し、完全に盲目になりました。

それでも、幼きダニエルの好奇心は留まることを知らず、何度も柱に顔面からぶつかって前歯が欠けたり、大怪我を負ったりしながら、「エコロケーション」という特殊な方法で、物理的な空間を「見る」能力を身に着けました。

それは、コウモリが暗闇を自由に飛び回るのと同じような能力です。
舌を「チッ、チッ」と鳴らしながら、自分が発した音の反響を受け取り、身の回りにある物との距離や大きさ、動きなどを感知する事ができます。

ダニエルは完全に盲目でありながら、その能力を使って森の中を自由に散歩したり、木に登ったり、自転車に乗ったりすることができます。

このポッドキャストは、その彼がどのようにしてその能力を発達させたのか、そしてそれは社会的にどのような意味があるのかを検証していきます。


《 必ず出来るマインドセット 》

プロローグでは始めに、アメリカの有名な心理学者であるキャロル・ドゥエックの【必ず出来るマインドセット】を取り上げ、「出来ると信じて子供に接することが、その子供の無限大の可能性を引き出す大きなカギを握っている」という理論が紹介されます。

その上で、ダニエルが育った環境が【必ず出来るマインドセット】を完全に体現化していたことがよくわかります。
ダニエルが盲目でも『出来る』と信じて疑わずに挑戦し続けた事、そしてそれを止めなかった母親の勇気と覚悟が、眼球がなくても『見える』ようになる要因であったのです。
逆にそれが明るみにしたのは、自立困難な盲目の人たちを育む社会全体の【出来ないマインドセット】。『ハンディキャップがあるから出来ない』という前提で接するが故、困ったときには手を差し伸べ、危険な時には守る社会的習慣が当たり前になり、それが盲目の人たちが自立できるようになる可能性を奪ってしまっている、とダニエルは強く主張します。

つまり、困っている人たちに対して抱く、助けたいと思う「愛」こそが、進化の妨げになっていると。


《 愛に身を委ねることができない 》

そしてラスト5分のシーンが、一番ズシンとくるんです。

物心ついた頃から、触られたり抱っこされたりするのが「苦手」だったダニエル。他人が広げた両腕に身を委ねることが出来ず、現在も独身で、「愛」や「スキンシップ」を欲さないタイプだと語っています。

インタビューワーから母親への質問で、「ダニエル育てている時、放任しすぎたとか、あまりにも自由にさせすぎたと思うことはない?」と聞くと、少し間を置いて、「ないわね。彼、幸せだもの」と答えます。
でも私にはそれが、何だか自分自身に言い聞かせているような、そうだと願っているようにさえ聞こえます。

ダニエルも、「僕は幸せなんだ」と夕暮れを見ながら静かにつぶやきます。その声からも、遠く先の夕暮れを見つめながら思っている「何か」を感じずにはいられません。

愛が障害になることで妨げられる【進化の道】。
愛されることを拒否することで得られる【自立】と【自由】。


正解なんてどこにもありません。
本人が納得していて、幸せであれば、それでいいと思います。

心から幸せであれば。







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