何のための比喩表現なのか

何かを別の何かにたとえることを、比喩といいます。でも何か別のものにたとえることに、意味があるでしょうか?
白い雪のような肌といった表現がありますが、雪はたいてい青白い。しかも「青白い肌」ですと、かえって病的な感じがします。ここは「雪のような」を省いて、白い肌と言った方が直接的でわかりやすい気がします。

そこでこの記事では何のために比喩表現が使われるのか、考えていきたいと思います。

・比喩表現の役割
・名作から学ぶさまざまな比喩表現
・ない方がいい比喩

比喩表現の役割

創作上の存在であったり、一般的ではない固有名詞を描写する時、書き手は読者が想像しやすいように他の事物にたとえて表現することになるでしょう。
比喩には、読者の想像を助けたり、促す役割があります。逆にどんな想像を呼び起こすかも比喩表現ひとつで違ってきます。ここでは「巨人」を例にいくつか比喩を見てみましょう。

巨人
1.瓦屋根に届くぐらいの背丈の~
2.ゲームのボスで出て来そうな~
3.ビル一つぐらいならこかしてしまいそうな~

1は人との距離を意識しました。2は途方もなく大きかったり、特別な存在であることを意識しています。3は映画のキングコングを意識しました。比喩によって、大きさはもちろん、巨人の性格など、読者に与える印象が違ってくるのがわかると思います。

名作から学ぶさまざまな比喩表現

過去の名作の比喩表現をいくつか見てみます。ストーリーの前後に着目しながら、どうしてこの比喩表現なのか、考えてみると色々とわかることがあるかもしれません。

「手袋を買いに」新美南吉

初めて雪を見た子狐が遊びまわるシーンです。そこでかわいい子狐の手に霜焼ができないように、母狐は町で手袋を買うことを思いつきます。人間の住む町が怖い母狐は、仕方なく子狐ひとり、町まで行かせることになります。

真綿のように柔らかい雪の上を駆け回ると、雪の粉が、しぶきのように飛び散って小さい虹がすっと移るのでした。すると突然、うしろで、「どたどた、ざーっ」と物凄い音がして、パン粉のような粉雪が、ふわーっと子狐におっかぶさってきました。
まだ枝と枝の間から白い絹糸のように雪がこぼれていました。~
暗いくらい夜が風呂敷のような影をひろげて野原や森を包みにやってきましたが~

表現として出てくる単語は、ほとんどが日常生活の中で見かけるものです。
真綿、しぶき、パン粉、絹糸、風呂敷
雪景色を、日常生活の中で見かけるもので描写しています。雪景色を見たことがない人でも、初めて雪を見た子狐のような気持ちで楽しめる工夫が施されています。
また、動詞に注目すると
おっかぶさってきました、包みにやってきました
また文の節々でも「包む」ということが強調されています。母狐の子狐を思う気持ちを表しているのでしょうか。比喩表現が物語のテーマと調和しているようです。
町の描写からは一切、比喩表現が出てこなくなります。

ない方がいい比喩

元太は走るようにして部屋を出た
のぞきこむようにして、部屋の中を見た

上の二つの文は簡単に

元太は走って部屋を出た
部屋の中をのぞきこんだ

の方がダイレクトに意味が伝わるかもしれません。

まとめ

・比喩表現には「読者の想像を助けたり、促す役割」がある
・テーマや文全体の雰囲気にあった比喩表現を使うとよい
・逆に文全体を複雑にしてしまう比喩表現もある

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?