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小学生オニダルマオコゼ刺傷事故の経緯

2020年6月、小学生がオニダルマオコゼに刺されて救急搬送される事故に遭遇したので、危険情報を共有するために詳細を記録しておきます。

事故発生

 沖縄本島北部の岩が多い海岸で、事故は起きました。
 午前11時ごろ、私の子供も含む4、5人の小学生が、水深50cm前後の平らな岩盤が続くリーフ内の浅瀬で、波とたわむれて遊んでいました(上写真の環境)。私は子どもたちの横からスノーケリングを始めると、沖へ5〜10mほど進んだ浅瀬で、オニダルマオコゼ(20cm弱の小ぶりな個体)が海底を泳いでいるのを見つけたのです。

「オニダルマオコゼがいるよ!」と、私は大声で叫んで子どもたちに伝えました。

 すると、小学高学年の一人が、「そのオニダルマオコゼに刺された!」と騒ぎ始めて、ひっくり返って両足を水面に出し、おぼれそうになったのです。

オニダルマオコゼ水中
魚類最強の毒をもつといわれるオニダルマオコゼは、海底でじっとして石と同化しており、その存在に気付きにくい。(捕獲された個体を筆者撮影)

 後から聞くと、その子は当時裸足で、何かが足に刺さって血が出たけど、原因が分からずにいたところ、オニダルマオコゼがいたと聞き、痛みも増し始めてパニックになったのだそうです(オニダルマオコゼの毒には精神的錯乱、全身性の麻痺、ショックなどの症状もあるとされるので、パニックは毒による症状の可能性もあります)。

 恐らく私が見たのは、踏まれて逃げていくオニダルマオコゼだったのです。

 近くにいた大人2、3人がすぐに駆け寄り、その子を抱えて陸に引き揚げました。一人がオニダルマオコゼの応急処置をスマホで調べたところ、口などで毒を吸い出すという情報があったので、すぐにその子の保護者が口で毒を数回吸いました。この前後から激痛が増したらしく、お子さんは「痛い痛い!」と泣いて絶叫し続け、現場は緊迫した空気に包まれました。

 お子さんがおんぶされて車に運ばれる時に、足裏を見せてもらうと、太いトゲ状の刺し傷が5カ所、ほぼ列状に並んでおり、出血が比較的多くて、少し紫色や白色に腫れていました。初めて見ましたが、確かにオニダルマオコゼの特徴(背ビレのトゲの間隔)と一致すると思いました。かなりまともに刺された印象でした。

 私は数年前に、本島中部で小学生が刺されて入院したことも知っていたので、すぐ救急車を呼ぼうとしたのですが、ぬれてスマホがうまく操作できず、電波が悪かったのか、動揺もしていたのか、119番に何度かダイヤルしてもなぜか繋がりませんでした。
 そこで、その子の保護者に携帯電話で救急車を呼ぶよう勧めました。

救急搬送

 事故発生から10分後ぐらいに119番通報。電話口では、そのまま安静にするよう言われたそうです。

 救急車を待つ間に、私は車に積んでいたポイズンリムーバーで毒の吸引を傷口3カ所で行いましたが、本人が泣いて痛がるので中断しました。オニダルマオコゼの毒は40〜50℃のお湯で不活性化するという情報も把握していましたが、お湯は誰も持っていませんでした。

 間もなく救急車が近づいて来たので、私が車で誘導し、事故から20分後ぐらいに現場に到着しました。救急隊員は冷静に対応してくれて、焦っていた私たちも少し落ち着いた気がします。すぐにお湯の入ったバケツが用意され、その子は足をつけてそのまま運ばれました。

 救急車の中では、血中酸素飽和度、脈拍、血圧、皮膚症状などをチェックしていたそうです。アナフィラキシーショックが起これば命を落とすこともあるので、予断を許さなかったはずです。
(→2010年の名護市での死亡事故例

 病院での治療は、痛み止めとして最初カロナール、痛みが引かなかったので追加でロキソニンを服用したぐらいで、あとはひたすらお湯に足をつけ続けたそうです。

 毒の量が多い場合などは、切開手術や高気圧酸素治療などの高度な治療が必要になり、組織の壊死や生命の危険もあるといいます。刺された直後の毒の吸引はとても有効(→自分で毒を吸い出して無症状だったブログ記事)という情報があるので、今回は刺傷直後に保護者が毒を吸い出したことが、効果が大きかったのかもしれません(口内に傷や虫歯があった場合、毒が吸収される恐れがあるので、すぐに口をゆすぐなどの対処が必要です)。

 そして刺傷から約3時間後、痛みが引くと帰途につくことができたそうです。 とはいえ、写真を見せてもらうと、土踏まずや足の甲まで全体がパンパンに腫れ上がっていました。刺傷から約6時間後には、傷口6カ所(うち1カ所は足の側面)が赤い斑点となって残り、周囲が紫色に変色してはれている状態でした。帰宅後も、呼吸や皮膚症状に気をつけ、異常があれば救急車を呼ぶよう言われたそうです。完治まで数ヶ月かかる例も多いようです。

 刺傷した日は37℃台の熱があったそうですが、2日後には、本人の意思で学校に登校することができ、上靴は履けなくても、運動靴は履いて歩けるようになったとのことで、その後は元気に回復されたそうです。

反省

 今回は、海岸の清掃活動で複数の親子が参加していましたが、とても暑かったので、子どもたちが次々と勝手に海に入り始めてしまったことが、事故原因の一つです。 刺された子や私の息子もそうですが、海用のシューズを持ってきていたのに、裸足やビーチサンダル(オニダルマオコゼのトゲが貫通することも多い)で海に入っていた子が多かったようです。

 オニダルマオコゼのことは知っていても、今までこの近辺で見ていなかったこともあり、油断していたのは否めません。複数の子が刺されてもおかしくなかった状況で、さらに原因がオニダルマオコゼと気づくのが遅れたら、近くに大人がいなかったら、と考えると、ぞっとします。

 ケガに最初に気づいた大人の一人は、サンゴで切ったのを大げさに騒いでるのかと思ったと言うし、毒が回ると今回のように歩けないほどの激痛や意識障害に襲われることがあるので、すぐに助けが来なければ水深10cmでもおぼれる危険性があると言われます。その一例として、私の記事にコメントを下さった人から、壮絶な体験談を伺ったのでシェアします。

 忘れもしない9月23日曜秋分の日。5年前に宜野湾マリーナ横の無人ビーチに200〜300人、イベントで人が集まっていました。
 唯一、オニダルマオコゼに刺されたのが私でした。私も最初、ガラスの破片でも踏んで足が切れたかなと思い、海水で血を流していました。知人が私のその行動を見ていたら、私は激痛が走りその場に倒れ込んで、もがき苦しんでいたそうです。半分、意識が飛び、気付いた時には救急隊員と話をしながら搬送されて市立病院へ。その時は毒を抜いていなかったので病院で処置を受けました。かなり熱いお湯を刺された脚に流されていました。毒がタンパク質だからお湯で固めると聞いたような…
 私は全身が腫れトイレも1人でできない状況で30代にオムツ姿に。あと数分で死に至るところだったと聞かされゾッとしました。今回の記事を読んであの時の悪夢が蘇りコメントしました。沖縄の自然の海はかなり気を付けないといけないですね。

 驚くべき内容です。たぶん、トロピカルビーチ周辺だと思うのですが、そんな観光客向けの砂浜にもオニダルマオコゼがいて、今回と同じように、刺された直後は痛くなかったのに、その後に意識が飛ぶほど激痛に襲われて倒れ込んでいるのです。しかも、すぐに毒を吸引しなければ事後の症状もかなり重いようで、応急処置(ファーストエイド)の重要さを感じます。

 後で聞いた地元猟師からの情報によると、このあたり恩納村の水の綺麗な浅瀬には、オニダルマオコゼが多いのだとか。読谷村のリゾートホテル周辺でも、クルージングから帰ってきて、ヨットから浅瀬に降りた瞬間にオニダルマオコゼに刺されたという話も聞きました。つまり、どこにでもいると思った方がよさそうです。

 この年はコロナの影響で、海に遊びに行く地元の人も増えました。
 オニダルマオコゼは、ひざ丈以下の浅い岩場や砂地にもいて、石とそっくりで、砂に潜ることもあり、見つけにくい危険生物です。追加取材で撮影した写真を以下に載せるので、どうぞ皆さんもオニダルマオコゼの姿をよく覚え、丈夫な靴をはくなどして、十分に気をつけて海を楽しんで下さい。

オニダルマコゼ脚
左は小ぶりなオニダルマオコゼ、中央は大ぶりなオニダルマオコゼ。右は筆者の足(27cm)
オニダルマオコゼ背鰭
背びれを立てたオニダルマオコゼ。背びれの13棘をはじめ、尻びれの3棘、腹びれの各1棘に毒器官がある
オニダルマオコゼ棘
背びれを起こして毒のトゲを出したところ。注射器状の構造になっており、多量の毒が注入される

参考文献:小川賢一, 篠永哲, 野口玉雄監修『学研の大図鑑 危険・有毒生物』学研教育出版, 2003-2011年9刷., NPO法人武蔵野自然塾『危険生物ファーストエイドハンドブック 海編』文一総合出版, 2017  ほか

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