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麻里府のセンダン巨木 地上2mで伐採する方針に、ちょっと待った!

 今年5月23日の記事に書いた、山口県田布施町にある麻里府のセンダン巨木の伐採計画。その1週間後、筆者らの呼びかけが実って田布施町は伐採を中止し、センダンは残されることになりました(6月4日付 中国新聞6月16日付 朝日新聞)。ただし、この時に中国新聞のインタビューに答えた田布施町長さんの表現は、「一部保存」でした。その言葉通りに、田布施町では10月現在、地上約2mの高さで幹を伐採する方針が検討されています。実質的に切り株だけを残す形です。

 8月初め、センダンの幹に、白いひもが巻かれていました。しめ縄と見間違いそうな低い位置ですが、よく見るとビニールテープ。「まさかこの位置で伐採?!」と田布施町に確認すると、まさに伐採予定位置との回答でした。町職員と南敦さん(このセンダンを「田布施の名木」に選定した町文化財審議会委員さん)で決めたとのことで、今冬に予想される伐採作業も南さんの現場監督下で行うと聞いています。ちょっと待って下さい。

伐採位置を示すテープと筆者。見事な大木をこの位置で伐採して残したことになるだろうか?

 私たちは6月に、有志で「センダンの会」という市民グループをつくり、巨木の価値や景観を考慮し、なるべく大きなサイズでセンダンを残し、切断方法や根回りの処置などについて樹木医の助言も仰ぐように、田布施町に要望書や提案図面を提出してきました。また、南さんにも会いに行き、景観に配慮して幹や大枝を7〜10m以上は残すようお願いしました。しかし、受け入れられなかったようです。(9月に南さんに再度お話を伺ったところ、「私も本当はもっと大きく残したい」と発言されていました。)

 ではなぜ町は、「田布施の名木」で、県内5本の指に入るセンダンの巨木で、環境省の「巨樹」に登録される立派な木を、こうも小さくしたいのでしょう? 考えられる主な理由は、

  • 公民館移設計画の期限や予算があるので、既に決まっていた建物や敷地の設計をなるべく変更したくない。

  • 大きな木があると管理が大変なので、公民館の職員が1人で管理できる小さなサイズにしたい。

  • 公民館長や地域の代表者からも伐採してほしいと要望があった。

  • 台風などで枝や幹が折れて事故が発生する危険性がある。

  • 有毒の実がなるので危険という意見がある。(←実際には日本で食中毒事故等の記録はありません)

などでしょう。実際に、田布施町が7月下旬に開いた住民代表者向け説明会でも、上記のような悲観的な意見が住民から多くあがり、飛び入り参加した私たちは驚いたものです。(ただし、町に指名された約30名の参加者のうち、50代以下は2人、女性は1人、発言者はすべて60代以上の男性のようでした。)

 そこでセンダンの会では、センダンとはどういう木か? 樹木や巨木の価値は何か? センダンに対する疑問を解決できるのか? といったことから住民の皆さんに知ってもらうことが大切と考え、公民館移設計画の経緯(※町からはほとんど公表されていない)と合わせ、この問題をわかりやすく説明したパンフレットを作成し、麻里府地区全戸や関係者に配布しました。その内容を4ページに分けて掲載します(印刷用PDFファイルは以下)。

 パンフレットにも書きましたが、田布施町には「美しいまちづくり推進条例」という素晴らしい条例があります。その第8条には、「町は、公共施設等を新たに設置し、又は、改築等を行う場合は、周辺の環境との調和を図るとともに、美しい景観等の保持、形成に努めなければならない。」とあります。
 まさに、今回の件がピタリと当てはまります。このセンダンは、麻里府地区の美しい景観を構成する重要な要素でありながら、公民館という公共施設の設置のために、切り株状態にされようとしているからです。筆者は、この条例の存在をあげて、町職員にセンダンを最大限残すよう訴えましたが、「それとこれは関係がない」などと言われ、相手にしてもらえませんでした。条例は、地方自治体の秩序を維持するための基本的なルールであり、まず第一に守られるべきはずなのですが・・・。

 そんな中、お隣の柳井市で、よく似た伐採・枯死事例があることを知りました。「やないの名木」に選定されていた岩政翁屋敷跡のクスノキとクロガネモチが、新庄公民館の第二駐車場の造成にあたり、幹の高さ4mと3mで伐採され、その後数年で枯れたのです。複数の近隣住民に話を聞いたところ、この伐採計画もやはり地元住民には知らされておらず、行政と一部の関係者のみで決定されたようで、「突然伐採されて驚いた」「まさかあの木が伐採されるとは」といったコメントが聞かれました。1年目こそ芽が出たものの、その芽もまた取り除かれ、2〜3年で枯れたそうです。

枯死したクロガネモチ(左)とクスノキ(右)。周囲は空き地と広い駐車場で、そもそも伐採の必要性も感じられない

 実際にその木を見ると、チェーンソーによる荒い切断面の凸凹がそのまま残り、薬剤塗布や排水対策も行われていません。現場を知る樹木医さんは、「とても残すために切ったとは思えない」と述べていました。柳井市役所の担当者に確認したところ、「残してほしいという意見もあったが、伐採してほしいという意見との折衷案で、あの位置で伐採した。失敗でも成功でもない」と述べていました。「庭木が大きくなって邪魔だから切る」ぐらいの感覚で、田舎の人は公共の巨木も安易に伐採してしまう風潮を感じざるを得ません。

クスノキは幹周535cmというかなりの巨木。伐採は2017年。2023年9月撮影

 麻里府のセンダンは、このような無残な姿になってほしくありません。低い位置で伐採すると、小さくなるばかりか、枯れてしまう恐れも高まるし、それ以前に木が生き残るように配慮した設計・施工(土壌基盤、排水対策、伐採方法など)が重要です。しかし、田布施町は基本設計の図面や資料を見せてくれないので、私個人だけでは事態は改善しません。多くの地元住民の意見を届ける必要があるのです。私の周囲では「あのセンダンは残した方がいい」という意見がずっと多いのですが、住民代表者である7地区の自治会長さんが集まると「伐採はやむを得ない」という意見が強いらしいです。どちらが本当の住民の総意なのでしょう?

 そんな疑問に対して、センダンが一番よく見える見田団地地区(私も住んでいます)の自治会長さんが、全約80戸を訪問してアンケートを取ってくれたことを知りました。センダンを「残す」「残さない」の二択で各世帯1名に尋ねたところ、66%の人が「残す」と回答したことがわかりました。約3分の2の住民が木を残してほしいと思っているのです。一方で、「残さない」と回答した人の多くが、管理の大変さを理由にあげており、「残す」と回答した人でも「管理をさせられるなら残さなくていい」という意見が多かったそうです。なお、回答者の多くは世帯主である高齢の男性と聞いています。

 なるほど。残せるなら残してほしいけど、やはり最大の現実問題は管理なのでしょう。これは、65歳以上の高齢者人口が55%の麻里府地区(限界集落に当てはまる)の現実を表しているとも言えます。確かに、私がこの問題に関わってから話す相手の大半が高齢者で、若い世代の声がなかなか聞こえないという疑問を感じています。自治会や地域のことは高齢者に任せて、若い人は仕事や家庭に専念、というのも違う気がします。45%の現役世代がもっと地域に関わらないと、ますます地域の魅力も活気も下がると思うのです。

10月現在の麻里府のセンダン。敷地の造成工事が始まっており、低い枝の一部が切られている

 管理してくれる人がいるなら、センダンを小さくすることを住民が望んでいるわけではない。副町長さんも、2mでの伐採にこだわっているのではなく、麻里府の住民の意見が最優先だと話してくれています。それならば、麻里府のセンダン巨木を支えて応援する「センダンサポーター」を集めようと、私たちは今、チラシを作って地元住民を中心に呼びかけ始めています。もちろん、私個人も喜んで管理作業などをしたいと思っています。
 住民のみなさん、自治会長や田布施町職員のみなさん、地域の魅力を高めるために、どうか私たちの取り組みにご理解とご協力をよろしくお願いしますm(__)m

センダンサポーター募集のチラシの一部。私は呼びかけ人の筆頭です

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