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眺めるだけにしたい、かぶれる木 ハゼノキ

 沖縄の新聞「琉球新報」に毎週木曜日に折り込まれる副読紙「週刊レキオ」にて、連載「葉っぱで分かる木々明解」を書いています。第3回目にしてはや最終回ですが、2020年10月30日号に掲載されたハゼノキの記事をアップします。本土でも紅葉が綺麗な木、かぶれる木として有名ですが、もともとは沖縄原産の木。沖縄でも紅葉するの? 沖縄でも名は知られている? そんな素朴な疑問を紹介します。

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眺めるだけにしたい、かぶれる木・ハゼノキ

 沖縄に来る前、ぜひ知りたかったことがある。沖縄では紅葉が見られるのか? という疑問だ。

 その答えを真っ先に教えてくれたのが、ハゼノキだ。9〜10月にもなると、あちこちでハゼノキが真っ赤に紅葉して目につく。この風景は私の郷里・山口県でも同じで、「沖縄にも秋があるんだぁ」と実感させてくれた。

 ところが驚きはそこからだった。紅葉すると同時に、若葉を出すハゼノキも多く、そのような若葉は2月頃に紅葉のピークを迎えるのだ。2月といえば内地では真冬だから、やっぱりここは亜熱帯だ!

 ハゼノキといえば、紅葉以外に二つの特徴がある。一つは、果実からはロウが採れること。そのため、沖縄原産のハゼノキは、江戸時代から西日本各地に持ち込まれて栽培され、ろうそくをほとんど使わなくなった今でも、野生化したハゼノキが広く見られる。「リュウキュウハゼ」の別名もあるのはそのためだ。

 もう一つは、樹液が肌につくと、ひどくかぶれること。私の郷里では、子どもの頃からハゼノキだけは教え込まれるのが普通だった。それでも、小学生の時に森で遊び回り、翌日に顔がかぶれてパンパンにはれあがったことがある。知らないうちにハゼノキの葉をにぎってしまい、その手で顔をかいたのだろう。病院で薬をもらったが、治るまで1週間かかった記憶がある。

 沖縄で植物観察会をしていて気になるのが、ハゼノキを知らない人が案外多いことだ。沖縄県全域で普通に見られ、道ばたのヤブにも、那覇市内の林にも生えている。だから、今の子が森で遊び回らないとしても、かぶれる木として、沖縄が誇れる木として、ハゼノキぐらい知っておいていい。

 ハゼノキの葉の特徴は、小さな葉が鳥の羽のように並ぶ形で、ふちにギザギザがないことだ。よく似たニガキは、ふちにギザギザがあり、紅葉は黄色なので見分けられる。

<写真キャプション>
●紅葉の盛りを迎えたハゼノキ。本部半島や大宜味村の森は特にハゼノキが目立つ(本部町・2月)
●果実は長さ約1cmの楕円形で、房になってつく(本部町・8月)
●紅葉した葉と若葉が同時に見られるのは、沖縄ならではの光景(名護市・3月)
●ハゼノキは4〜8対の小さな葉(小葉)が並んで1枚の葉を作る羽状複葉。ちぎると白い乳液が出て、やがて黒く変色する。

<プロフィール>
林 将之(はやし まさゆき)
樹木図鑑作家。1976年山口県生まれ。2012年に読谷村に移住し、沖縄の樹木全種を紹介した『琉球の樹木』(文一総合出版)を出版。現在は恩納村在住。葉を集めてスキャンしながら各地の森を巡る。

※沖縄の木ついてより詳しく知りたい方は、拙著『琉球の樹木』(文一総合出版、共著)をぜひご覧ください。

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