アメリカからの一時帰国 コロナ水際対策(強制隔離)について考える
2021年3月19日以降、海外から日本に帰国する際の水際対策が強化されています。新型コロナウイルス変異株流行国・地域に過去14日以内の滞在歴がある人は、検疫所の確保する宿泊施設等で入国後3日間の待機をし、3日目(場合によっては6日目)に検査を実施することになっておりますが、4月17日現在、アメリカは対象国となっておりません。
ただし、全ての国、地域から入国する人は、新型コロナウィルスの検査を受け、政府指定のフォーマットに適合した陰性証明書を提示することが求められます。そして、アメリカを出国する72時間前以内に受けた検査結果と、到着後の日本の空港での検査結果が両方とも陰性であれば、公共交通機関を使わずに、14日間の”自主隔離”を開始することとなります。
本来であれば、検疫所の確保する宿泊施設での待機は必須ではないにもかかわらず、私を含め少なからぬ人が、陰性証明書の不備によって、隔離施設に3日間の滞在が必要となるケースが多く発生しているようです。
日本の空港でのチェックが甘いという世論もあってか、陰性証明書が政府指定の要件とフォーマットから少しでも逸脱していれば、厳しく対処するというのが3月19日以降の状況であると、空港にて説明を受けました。(そして不備のある場合は、検疫所の確保する宿泊施設に3日間入所することとなります。)
結果として言えることは、「渡航前に必ずこちらを確認して、要件を確実に満たすよう準備する」ということに尽きます。それ以上でも、それ以下でもありません。
海外に在住されている日本人の方は基本的には日本への帰国を控えておられるかと思います。私もそうしておりましたが、緊急の家族の事情により一時帰国をする必要があり、日本に一時帰国しました。しかし、陰性証明書の不備から政府指定の隔離施設に入所することになりました。この経験を、アメリカからの帰国を検討されている方に共有し、お役に立てればと思います。
日本政府の実施する水際対策の内容は刻一刻と変わっていますので、こうすれば確実に入国できるということを指南する記事ではありませんのでご了承ください。コロナの拡散を抑えるため水際対策は重要です。一方で、人権を尊重するとはどういうことなのか。日本人としてはあまり考えることがないことを改めて考えさせられる機会となりました。
本記事では、米国空港出発から、政府指定隔離施設への入所決定、そして退所までの流れについてまとめています。
(1) 出発72時間前の米国内でのPCR検査
米国では日本と比べてPCR検査は比較的簡単に受けられます。私の住む州では、ドライブスルー、かつ無料で受けられる場所があります。結果としてこちらで検査を受けました。大規模に検査をしているので、およそ24時間程度で検査結果がわかることが調べて分かったのと、日本政府が有効と認めるRealtime RT PCR検査であることが確認できたからです。また、ハワイ州の認定するテスト機関であったことも安心材料でした。
ほかにも、プライマリーケアの診療所含め、何件か医療機関に問い合わせをしましたが、「72時間程度」で検査結果と陰性証明書を発行できるというところが多く、72時間以内に間に合わなければ飛行機に乗れなくなってしまうので除外しました。
実際に、私のとなりにいた人は、72時間程度かかるかもしれないので、72時間より30分くらい前にテストを受けてしまい、要件を満たせずに隔離施設送りとなった人がいました。
もうひとつ、旅行者を対象にしている医療機関があったのですが、一人200ドル程度の検査費用がかかるのと、無料の機関と比較しての違いが不明だったので、除外してしまいました。
結果:Realtime RT PCRは、問題なかったのですが、検体(Specimen)が、Nasopharyngeal swab(鼻咽頭ぬぐい液)ではなく、Nasal swab(鼻ぬぐい 液)であったために、不適合と判断されました。
同じ理由で入国が許されなかったアメリカ人らしき人(着ている服には、Italyと書いてあったのでイタリア系の人なのかもしれません:))は、「Nasalも一緒だ」と2時間以上反論していましたが、検疫の職員と「Nasalでは鼻のどこだかわかりません」と押し問答していました。結局その人が、隔離施設送りになったのかどうか興味があったものの、今となっては確認するすべはありません。
(2)米国出発空港でのチェックインと検査結果提示
おそらく皆さんが予想されるとおり、搭乗ゲートで陰性証明書のチェックはするものの、Nasopharyngeal じゃないととか言われることはなく、20-30秒でOKとなりました。
まずは、第一関門突破ということで、ほっと一息して飛行機に乗り込みました。
(3)日本の空港での入国の流れ
3月19日以降に入国する際に追加になったのが、OLE - Overseas Entrants Locator(位置情報報告のためのアプリ) 、Skype(保健所が14日間の自己隔離期間中に連絡するためのビデオ通話アプリ)です。以前からCOCOA(感染者接触確認アプリ)のインストールはあったとおもいますが、毎日GPSを使って位置情報を報告するというのと、ビデオ通話でどこにいるのかを隠せないようにし、自宅での隔離をしっかりとしてもらおうということだと思います。
驚いたのは、上記アプリがインストールされているのを確認し、もしわからなければインストールを手伝ってくれる人が、大量に動員されていたことです。
COCOAの開発費が3億9千万円ということなので、人件費がどれだけ払われているのか気になりましたが、航空会社の職員等の一時的な雇用先という側面もあるのだろうと思います。飛行機の乗客より、待ち構えている職員のほうが多いのではないかと思うほどでした。
空港でのPCR検査は、唾液を検体としたPCR検査で、比較的スムーズに進みます。(PCR検査を受けた後に、上記アプリ設定コーナー?に行きます)
そして、最後に陰性証明書の提示を行います。若手の職員が、英語のカンペと照らし合わせながら必要事項が記載されているか確認していきます。
最初は、ちょっと時間がかかっているなー くらいに思っていたのですが、なかなか返事をいただけず、2-3分してから、「ちょっと確認してきます」と上司らしき人へ相談に行ってしまいました。
そして、その方が私のところに来ると、なんとも申し訳なさそうな雰囲気が伝わり、一気に嫌な雰囲気が漂ってきました。
「いままで曖昧な判断でご迷惑をおかけしていたこともあり、3月19日以降は、ここに記載されているとおり、検体としては、Nasopharyngeal Swab (鼻咽頭ぬぐい液)か、Saliva(唾液)しか認められないことになっております。お持ちいただいた証明書にはNasal Swab (鼻ぬぐい液)としか書いてません。鼻といっても手前のほうなのか、奥のほうなのかで、結果も違いますので、明確に示していただく必要があります。もうしわけございませんが、政府指定の隔離施設に宿泊いただき3日目の朝に再度検査を受けていただき、陰性であれば、またこちらに戻ってきていただき、残りの期間を自主隔離いただくことになります。ご了承お願いできますか。」とのこと。
青天の霹靂というほど、晴れてもいませんでしたが、まったく予定になかった3泊4日の強制収容を申し付けられ、呆然としてしまいました。
救いだったのは、「もし、アメリカで行ったPCR検査の検体が、Nasopharyngeal Swab によるものだったのであれば、証明書を書き直してもらってください。それをPDFでご提示いただければ、3日を待たずして宿泊施設を出ていただくことができます。」ということでした。
(4)隔離施設への入所決定から、入所手続きまで。
そもそも、入所って?って思いますよね? まず、空港内で「隔離施設送り」になった人が逃げたり、わからなくなったりしないように、緑色の幅10㎝x長さ30㎝ぐらいの札?(紙をパウチした短冊形のシートで、輪ゴムで腕に付けられるようになっているもの)を腕につけなくてはなりません。これが中途半端に大きくて、とっても邪魔です。どこからみても、「この人、気を付けてください」みたいな雰囲気をプンプン出すことができるという意味では目的を達成していますが、つけさせられているものとしては、とてもつらい。イギリスや、その他の変異種流行地域から帰国される方は、全員この札を腕に付けることになります。
私も自由の国アメリカでの暮らしが長くなったからか、この時点で少し息苦しさというか違和感を感じはじめました。
検査結果が出るまで3時間以上かかったような気がします。隔離施設には専用バスで移動するため、それ以外の人たちの検査結果を優先的に出していたからだと思います。検査結果が手渡されると、合わせて隔離施設への移動のバスへ案内するので、もう少し待機するようにと言われました。
(ここで、冒頭に話した、イタリア系?アメリカ人の方が、陰性証明書の有効性を訴えていました。緑の札を手に付けて、声を荒げて交渉している姿は滑稽にさえ思えましたが、アメリカ人からしたら、強制隔離など受け入れられるものではないのでしょう。結果が気になりましたが、知るすべも無く。)
滞在先は両国のアパホテルであると案内されました。そして、同じバスに乗る15名ほどの人たちと一列にならんで、ターミナル内を移動、入国審査のゲートを越えて、預入荷物を回収します。その間、先頭と最後尾には常に係員がいて監視をされながら、緑の札をぶらぶらさせながら移動します。
税関検査を出たところで、再度一列にならび、バスの止まっているところに向かって歩いていきます。そういえばバスで1時間ぐらい移動に時間がかかるから、トイレにも行っておきたいなーとおもっていたところ、大きな声が後ろから聞こえました。
「すいませーん。トイレに行きたいんですけどー。」と後ろにいた女性が叫んでいるのを聞いて、またとても嫌な気分になりました。職員の方は「はい、荷物はこちらで見てますので、皆さんお手洗いに行かれる方はこちらで行ってください」といってトイレ休憩になりましたが、考えてみたら、3時間検査結果を待っている間も、トイレに行く場合は、職員に声をかけてください みたいな感じだったし、声を荒げないとトイレに行く機会を逃してしまうかもしれないという状況に追い込まれていたのかなと後になって思いました。
バスに乗ると、やっと緑の札を外すことが許され、回収されます。
1時間ほどバスに揺られ、本日の宿、両国駅至近のアパホテルに到着です。このとき既に午後9時近く、着陸前の機内食から何も食べておらずおなかも減ってきていました。ホテルへのチェックインではなく、隔離宿泊所への入所手続きを行うのは、一度に4名(4組)づつしかできないので、最初の4人が降りると、バスのドアが閉められ、窓口が開くと、バスのドアが開き、また閉まるという運用で「脱走者」を出さないような工夫をしていました。(というか、このバス、密になってませんか?)
バスで後ろのほうに座ってしまったので、15分から20分程度待ったかもしれません。やっと自分の番が来て、係員に付き添われて特設の窓口に向かいます。極めつけに、「それでは入所手続き始めさせていただきます。」と言われ、自分の置かれている立場を再確認しました。入所ってことは、最後は、出所か?と思いつつ、話を聞きました。基本的には3泊4日(今日は0日目となる)で、最終日の朝にPCR検査を行い陰性であれば、退所できる。宿泊中は、部屋を出ることはできない。食事は、3食(弁当と水)決まった時間に提供される。体温計を貸与、毎朝熱を測ってアプリで報告する。退所の時間は、16時もしくは翌日の10時の2択で選べる。というのが大まかな説明事項。入所者IDが割り振られ、入所登録書を記入すると手続き終了。 まさに、刑務所に入所完了といった雰囲気たっぷりでした。自分では何も悪いことをした認識はないのに、なぜか犯罪者のように扱われているような気がしてなりません。えん罪の被害者か、国税庁と「意見の相違があって」追徴課税を受けた著名人と、自分を重ね合わせてしまいました。
(5)隔離施設の部屋へ
入所手続きを済ませると、弁当(夕食)と自分の荷物を受け取ってエレベーターに乗り込みます。ボビーオロゴンみたいな人に、「荷物全部ある?大丈夫?」とフレンドリーに話しかけられ、「大丈夫!」というのが精一杯でした。エレベーターから降りると、トランシーバーを持った人が、「今から何号室の人が上行きます」というような連絡を受けていました。そして、沢山の荷物を持っている私の荷物を一緒に部屋まで運んでくれました。部屋の外では常に見張りの人がいました。「あー、ほんとこれ拘置所か、刑務所だわ」と思い、つらい気持ちになりました。
弁当は、税金で賄われているので文句は言えませんが、だれがメニューを決めているのかと多くの人が気になるほど、健康的とは程遠いお弁当でした。食べるものがいただけるのは本当に有難かったですが。
予定が大幅に変更となり、頭も働かなくなってきたので、Twitterで、アパホテル、隔離 などと検索してみると、「弁当がひどい、アパホテルが中抜きしているのか、それとも委託先か、いづれにしてもひどすぎる」、「今日の弁当のメニュー ごはんと焼うどんだった、でもほかの人に指摘されるまで、ダブル炭水化物って気づかなかった」(劣悪な環境に閉じ込められて思考も停止してる?)とか、先が思いやられる投稿ばかり発見。野菜がまったくないのに、なぜかキューピードレッシングだけ毎食ついてくるとか、ドレッシングもおかず扱いか?と思ってしまうほど。
朝は6時半から全館放送がながれ、「PCR検査が配られました」、7時には「弁当が配布終わったら放送します。」、「配布しましたのでドアノブを確認してください。」と、まさに自分が囚人であるかのような感覚に陥りました。
そして、部屋に窓はあれど開かず、脱走防止なのかもしれないけど、12階から飛び降りたら死にますよね?あ、自殺防止ですか?と勘ぐってしまうほど、精神的に病んできました。
食事については、アレルギー体質等で弁当が食べられない人などのため、ネットスーパーの利用や、家族による差し入れは認められていました。しかし、中身の検閲(アルコール不可)や、取次時間の制約などもあり、完全に自由にはなりません。
(6)出所?退所?
風呂に入り、深夜0時を過ぎていたかと思います。このまま、ここに4日間いたら間違いなくおかしくなる。なんとかして明日退所したいと思い、空港で検疫の人が「もともと受けたPCR検査が、要件にあっていたのであれば、陰性証明書にそれを反映してもらって、それがメールではなくPDFとして確認できれば、その時点で隔離施設から出ていただけます」と聞いた話を思い出しました。幸いインターネットと自前のパソコンがあったので、外部との通信等はできたので、なんとかして陰性証明書をアップデートできないか試行錯誤しました。詳細は省きますが、奇跡的に翌朝に政府要件を満たした陰性証明書を提示することができ、検疫担当者の確認を経て、出所が認められました。
朝7時に、コールセンター(何か問い合わせしたいことがあるときに連絡する番号、ホテル内にあると思われる)に連絡すると、とても感じの良い方が対応してくれました。なんと今までの、チェックイン、エレベーターや廊下に立っていた人たちのホスピタリティーのかけらもない、囚人扱いとは天国と地獄ぐらいの差がある対応でした。退所手続きまで、バスの出発時間の連絡や、部屋を出るタイミング等、ことこまかにとても親切に対応してくれました。もっと早くコールセンターに電話していたらよかったと思うほどです。 そういえば、前日にTwitterで検索していたときに、コールセンターの人が感じいいって書いてる人が結構いたなと思い出しました。そのときは、「そもそもコールセンターってなんだ?」くらいにしか思っていませんでしたが、実際に話して「なるほど!こういうことか」と妙に納得してしまいました。
10時半近くになって、いよいよ退所手続きに呼ばれました。体温の報告と、自主隔離の誓約書に改めてサインをして、空港へ帰るバスに乗り込みました。昼間に見る東京の景色は、前日とはまったく違う印象でした。東京オリンピックの競技会場と思われる観戦スタンドなど、湾岸地区の景色を見ながら空港へと戻り、無事釈放されました。その後はレンタカーにて実家まで無事到着し残りの自己隔離期間を過ごしました。
今、日本に帰国するのが悪い と言われてしまえばそれまでだと思います。水際対策は国民を守るためにとても大切だとも思います。しかし、隔離施設での処遇は非常に厳しいものがあり、人権を尊重するとはどういうことなのか、そして一歩横道にそれれば、人権侵害ともなりかねない状況ととなりあわせであることが、とても怖いことだと、今回の体験を通じて学びました。
アメリカから日本への帰国を考えている方は、必ず不備のないよう万全の準備をして帰国してください。イギリスなど変異種流行国、地域から帰国を考えている方は、特に小さいお子さんがいるご家族などは、真剣に強制隔離に耐えられるかどうかを検討したうえで、帰国のタイミングを遅らせるなど、検討されることをお勧めします。
コロナ禍にあり、「政府は要請しかできないからダメなんだ、強制力をもたせるべきだ」という論調が広がっているのを見るに、自分もなんとなくそういう意見に賛同していましたが、今回の経験により「自由とは何か、人権とは何か」を改めて考え、政府が強制する力を持つことは慎重に議論すべきであると考えるに至り、反論される方がいらっしゃるのは承知で、本記事を書きました。
日本で生活をされている方、海外で生活をされていて帰国を検討されている方、すでに帰国された方、それぞれの立場の方に、何らかの役に立つ情報となっていれば幸いです。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?