徳丸一円

文字を書くのは嫌いじゃないツイッタラー俳優。 劇団Lacrimosaという大阪の劇団の…

徳丸一円

文字を書くのは嫌いじゃないツイッタラー俳優。 劇団Lacrimosaという大阪の劇団の代表をしております。 稼業の介護職と一俳優として、作家として、まとまってない僕のキャラクターをnoteって形でまとめさしてもらいやす。

マガジン

  • 劇団 Lacrimosa 3RDEYE スピンオフ作品

    登場人物の一人、脳を若いドナーの身体に移植したおじいさんの、東出を失ってから、スラムで暮らすまでの記録

最近の記事

ケース-1271364⑮

江藤は閉めた後のニューススタンドの前で日当を貰っていた。 閉め作業が終わった店主が帰ってきたのだ。 「じゃ、明日からもよろしく、朝5時にここでね」 「はい」 今は何時なんだろう、スラムに来てからは時間というものがそれ程必要でなかったので 急遽時間をいわれて自分が持っていた端末が無いのを江藤は不便に感じた 休みの日に蚤の市に行って調達する事を決めた 宿に帰ると、洞が立っていた 「もう仕事決めたんかいな」 洞は嬉しそうにサングラスの位置を直す 「はい、元締めがなんか…怖

    • 番外編⑫の後半から⑬の後半のスラム

      番外編 洞が連絡会周りを行なっている日と同日 朝8時、相変わらず日が届かない部屋で江藤は起きる。 宿のおかみさんが2階のシャワーを有料で貸すと言ってくれたので 小銭を受け付けに置いてシャワーを借りる ヒゲも剃り、風呂場で来ていた服を洗う。 ふと昨日の夜の亜城の涙や 温かくなりきらないシャワーを浴びながら 「そういうのが違うんだって」という言葉を反芻する 雑念が入ったからかひげ剃り負けが出来てしまう。 排水口に少し薄紅色の水が流れていく。 江藤は眺めながら、今朝思いつ

      • ケース-1271364⑭

        KAは車を走らせて、行きで見せた様な人間しぐさをせず6時間ぶっ通しで 大阪から東京をミッション車で貫く。 途中で綿倉から電話がかかってくる 「首尾はどうだね?」 「随分と目をかけてくださいますね」 「そうかなぁ?」 「本来であればコマンド課からしかリミット内はかかって来ませんから」 「越権だとでも言うかね」 「そうは言いません、本来であれば、という話です」 「それで、何か出たかね」 綿倉の機嫌を損ねてしまった様だ 「先程まで携帯の手掛かりを追いましたが何も出ていません」

        • ケース-1271364⑬

          次の日の朝8時、KAの携帯に電話がかかる 「東出君!総監の綿倉だが、資料送ったが見てくれたか?」 「いえ、デスクでしか確認しません」 「タイムリミットは出来るだけ伸ばしたが、君がぐっすり眠る為じゃないんだよ…この件はアーカイブ課に加筆して提出しておいたから、出勤して確認をしなさい」 「かしこまりました」 ブツッと切断音が聞こえた。 KAは東出との捜査で得た東出の音声記録に照らし合わせながら この一連の流れを整理している。 東出のホログラムがKAの視界の中に再生される 「

        ケース-1271364⑮

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        • 劇団 Lacrimosa 3RDEYE スピンオフ作品
          15本

        記事

          ケース-1271364⑫

          KAは警視庁、警視総監室に居た。 綿倉警視総監、江藤元警視総監が失踪後、すぐに内閣総理大臣より任命を受けそのポストについた。 太い眉毛と、鉤鼻、黒縁の大きなメガネが特徴の厳粛な男だった。 綿倉はため息をつきながら資料を読んでいたがキリが良いところで メガネ越しにKAをまじまじとみつめた 「東出、きみはえらく功績を上げてる様だね、資料、目を通したよ」 「ありがとうございます」 「それで、だ、これは公式な捜査では上がってない情報だが、君、江藤のヤツから連絡来てないか?」

          ケース-1271364⑫

          ケース-1271364⑪

          江藤は飲み過ぎた。 案外座っていると気づかないモノで 立ち上がった途端重力を多方面から感じた それのバランスを取る為にフラつくという様なメカニズムになっていた 「ありがと、うん」店主に介抱されながら店の外に出る とりあえずこのアーケードは迷惑なのでアーケードの出口入り口、どちらでも良いから抜けきって その付近の壁の辺りで一旦腰を下ろそう やっていない露店や、道に置いてある荷車に身体をひっかけたりぶつけたりしながら 二足と杖で歩行する 抜けた先は教会だった。 あの広場が

          ケース-1271364⑪

          ケース-1271364⑩

          助松埠頭へ向かう道、2106年 かなりツタの張っている建造物はかつて高速道路として使われていたらしい、それに覆い被さる様にして二倍は大きく広い超高速道路がある その下を這う下道を市崎の車で走る 助手席には洞、運転席に市崎、後部座席には江藤が座っている。 「かなり真っ直ぐな道ですね」 「せや、さっき通った堺っちゅう所はかなり監視がキツいから一方通行グネグネ行くしかなかったけど もうさっきの所越えたら安全圏も安全圏」 「洞、マーキングはもう大丈夫ですか?」 「マーキング

          ケース-1271364⑩

          ケース-1271364⑨

          江藤は目を覚ました。 真っ暗な部屋、布団がどこか湿度を含んでいて重たい。 今が何時なのかもわからないがよく寝た。 部屋の密閉度合いにも慣れた、静かで良い所だ。 光が何も入らないので、部屋の電気をつけ服を着替え 何時間ぐらい寝たのか外を確認しようとドアノブを引いて開けた 昼頃だろうか 受付の入り口真ん前の部屋なので受付を確認したが おかみさんはいない 妙に静かだと気付く。 人気が無い、電気もついていない 探索型ドローンの音がすれば確実に粛清に近い何かだろう 出入り口は、

          ケース-1271364⑨

          ケース-1271364⑧

          しばらく市崎の"どうして身体を鍛えようと思ったのか"という 自己啓発本の様な内容の話を聞きながら過ごしていた。 洞が詰所に帰ってくる。 「おー、オッサン、出かけよや」 「用は済んだんでしょうか?」 「ん?おう」 出て行って20分もしないうちに帰ってきたのに江藤は驚いた。 「市は家帰るやろ」 「はい、そろそろ」 家が別にあるということを予想してなかったわけではないが 帰るのか、と江藤は市崎を見た ボケる空気をだす市崎 「そら家ぐらいありますでオッサァン!おう、ハ

          ケース-1271364⑧

          ケース-1271364⑦

          江藤の見る夢はいつも特定の場所から始まる それは何処かの通路であったり 縁側であったり オフィスであったり 自分が認識している記憶上の原風景とは少し違った ドアの配置であったり 照明であったりした。 時間は朝日や夕陽がさしていたり 昼間だったり よるだったり まばらである。 場所のみが固定されていた。 そして眠りながらも自分で 夢であると薄く認知しているのだ。 「また夢だなこれは」 今回も例に漏れず夢だと薄く認知している。 場所は街の中、 監視カメラの少なさや

          ケース-1271364⑦

          ケース-1271364⑥

          賑やかな街の行き交う人々。 来てから3時間は経ったろうか 江藤は洞(ウロ)に連れられて町のかすうどん屋に来ていた 「このスラム来てこの店寄らへんっちゅうのは、情報知らんか、誰にも歓迎されてへんかのどっちか」 言うやいなやうどんを啜る洞。 朝からカスうどんか…と元の身体の記憶上、胃がもたれてしまうことを杞憂している江藤はうどんを見ながら茫然としていた。 油カスがデカい。 刻んだモノが乗ってる様な写真としての記憶はある。 こんなにデカいのが乗ってるもんなんだろうか いなり寿

          ケース-1271364⑥

          ケース-1271364⑤

          駐車場から出て、スタスタと亜城が歩く 道は荒れ果て、ほとんどが砂利だ。一部アスファルトが残っている所もあるが道も建物も土気色だった。 廃線になった線路やツタが絡みついているアーケードのトタン屋根など、どれも制御され、監視されてる区域とは違う。 まるで異国に来た様で、江藤は嫌でも視線があらゆる所に引っ張られていた。 亜城を見失わない様にだけ急ぎ足でついていきながらも周りの視線も痛い。 杖をついていると、柄の悪そうな恰幅のいい男性や改造人間、果ては壊れかけのアンドロイドなど

          ケース-1271364⑤

          ケース-1271364④

          
全国指名手配から三日目の明朝2時
東洋電人の空輸ドローンは大阪の空域に入った 「着陸で骨を折るヤツもいる」と亜城 目についた動かなさそうなものにしがみつく江藤 ドローンの高度調整、傾き補正、の、不規則なプロペラ音が聞こえ 横風に流されながらも音が小さくなっていき 土っぽいところに着陸した。 浮遊感と衝撃音、 身体は打ったが、思った程痛くは無かった。 亜城は自分の左太ももを拳の内側で叩きながら 内側の留め金を外した。 ドアが開く 肩掛けカバンと杖を掴んで、江藤は外

          ケース-1271364④

          ケース-1271364③

          全国指名手配から二日目の深夜 江藤は謎の追跡者である亜城と共に、"スラム"へと向かっていたのだった。 息を切らせながら監視カメラやドローンのいない道をいく江藤。 「まさかとは思うんだがね」 「なんだ」歩みを止めない亜城 「歩いて大阪まで行くつもりじゃないだろうね」 警視庁がある東京からは大阪まではかなりの距離である。 亜城は立ち止まって振り返り、息の切れている江藤を足元から眺めた。 「何言ってんの」 「公共交通機関も飛行機も使えない、ましてや車も、君はそもそも

          ケース-1271364③

          ケース-1271364②

          指名手配から二日目の夕方、KAが業務から帰ってくる メモ書きに書いたリクエストの品を江藤の前に並べる 「ID認証無しの携帯、プリペイドです。 若者の着そうな格好の上下、センスはないので今日目の前を通った人を参考にしました ミセスマフィンのパイナップルマフィンとブラックコーヒー それと強心剤、ビタミン剤、包帯 抗生物質 紙幣と硬貨 以上です」 「ありがとう」 「メモに武器が書いて無かったのですが」 「武器は必要かね?」 「非常時に役に立つかと」銃を差し出すKA 「

          ケース-1271364②

          ケース-1271364

          ①日目 夜の深い闇、その輪郭を曖昧に削る様なオレンジの街灯が等間隔にならび、その光源の下の方、 一際目立つLEDを点灯させながら警備ドローンが 三体一組で見回りをしている。 その様子を、弾んだ息を押し殺しながら見届け 黒塗りの街の角から片足を引きずる青年が顔をのぞく。 「リハビリにしちゃあやりすぎだろうがね」 江藤 才四郎、元警視総監。 見た目は青年そのものだが、脳を若い肉体に移植しただけで、本人は85歳を超えている。 脳の移植後の経過が芳しくないのか、片足が動かずスーツ

          ケース-1271364