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ピアノを弾く少女の誕生 ジェンダーと近代日本の音楽文化史 玉川裕子

なぜ少女たちはピアノを習うのか

日本に西洋音楽がもたらされ普及していく中で、他の楽器に比べて一般の家庭に積極的に受け入れられていったピアノ。その習い手は、多くの場合には妻、そして娘であった。なぜ他の楽器ではなく、ピアノなのか、なぜその習い手は女性なのか。ピアノが普及していく黎明期の日本社会を丹念に追い、その背景に迫る。(オビより)

ピアノを始めて4年目に入るところで出会った本。たまたま、Amazonのおすすめに出てきたものでした。
なぜ少女たちはピアノを習うのか」というフレーズと、副題(メインの主題)ジェンダーと近代日本の音楽史というものに興味が湧いたのでした。
序章でまずは、問立てから始まります。(論文チック)

しんきん経済レポート

「なぜ、人々はピアノを所有しようとしたのだろう。なぜ、子ども、多くの場合娘にピアノを習わせようとしたのだろう。」

という問いから入ります。
そしてフォーカスを当てる時代を絞り込まれます。

ピアノは「文化資本」であり、特に女性にとっては「持参金」であった。
「中流」家庭が、「文化資本」としてのピアノを購入するという現象は、しかし、太平洋戦争後の高度経済成長期に始まったことではない。その原型は、明治末から大正、昭和初期にかけての時代に形成された。(P10-11)

 文化資本英語: cultural capital、フランス語: le capital culturel)とは、社会学における学術用語概念)の一つであり、金銭によるもの以外の、学歴や文化的素養といった個人的資産を指す。フランス社会学者ピエール・ブルデューによって提唱されて以来、現在に至るまで幅広い支持を受けている。社会階層間の流動性を高める上では、単なる経済支援よりも重視しなければならない場合もある。(Wikipedia)

西洋音楽教育の始まり

では、ピアノを題材とした、そもそも西洋音楽教育はいつがスタートなのか?

明治5年に学制が発布され、日本に近代的教育制度を導入するために欧米各国の教育事情を調査した上で作られたもので、「唱和」も初等教育時実施すべき教科として挙げられた。
これがきっかけになったということのようです。(p13)

ゼロからのことで、議論した結果、和洋折衷の方向となったが、西洋音楽に傾倒して行ったという流れを明らかにしていく内容です。

広げて行った人たちは、都市部の中間層であるその時代のエリート層であり、日本には上流階級がないため、欧米を模倣したのだという時代考証をされます。

都市中間層と西洋音楽の拡散

都市部を中心に、西洋音楽の響きが人々に一段と身近になってくるのは日露戦争後である。ー中略ー その「担い手」とは誰か。この時期に形成され始めた「都市中間層」である。
「都市中間層」とは、当時大正時代のデモクラシィと呼ばれる時代において、エリート層が存在し、「山の手階級」という人たちが庶民とは一線を画す生活様式を築いた人々であり、その人たちは日本に存在しない上流階級を手本とせず、西洋を手本とした。
「ピアノを弾く女性」というイメージは、もちろん西洋に由来する。一家揃って音楽に親しみ、家族の絆を深めるという「一家団欒」の象徴的イメージは、18世紀後半から19世紀にかけて特に英仏に遅れてこの時期に近代化の道を歩み始めたドイツで育まれ、英仏にも広まっていった。この「家庭音楽」の中心的役割を担うのは女性とされ、音楽は女性に必須の素養とされた。世界的大ヒットの「乙女の祈り」の作曲家は、女性であり大ヒットした割には批評家からは評価されていない。
・「ピアノを弾く女性という記号」大正時代の雑誌の挿絵
・楽器とジェンダー 近代ドイツの市民社会での位置付け
・箏(こと)の衰退
・ピアノとヴァイオリンのヒエラルキー
 家庭的なピアノとヴァイオリンの活発さの対比は、夏目漱石の作品にも事例がある
・三越の利益追求と社会貢献
・ドイツの家庭音楽論と日本への浸透はしなかった。それは、夫が仕事で家にいないことにある。

西洋音楽の広がりに伴い、女性職業音楽家の登場はしたもののジェンダー規範の再構築によるが行われたクロージングを迎えます。

女性職業音楽家

 音楽取調掛の設置が文科省から独立して、東京音楽学校が設立。生徒には女性も多かったことが、その後女性職業音楽家の誕生につながる。第一人者として幸田延(こうだのぶ)にフォーカスを当てている。ジャンダー規範に外れているように見えるが、非常に困難を極めたということも語っている。
・華族の学校学習院
・卒業式での合奏
・音楽会の開催
・男女共学問題
・女性教員優遇に対するバッシングとジェンダー規範の再構成
・音楽の社会的承認・良妻賢母・女性の排除

感想
よくもまあここまで資料を調べ上げたものだと感心しました。
本の5分の1は、参考資料の索引なのね・・・・・・。
「乙女の祈り」がこのようにフォーカスが当たっているのには、結構目から鱗でした。


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