Bob Mato

短編小説を書いていました。またいいアイディアがあれば書きたいな。今は風刺を書いています…

Bob Mato

短編小説を書いていました。またいいアイディアがあれば書きたいな。今は風刺を書いています。https//akitadawg.jp/akitamanegi/ 本業は英語の翻訳です

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  • ディープ・ブルー・スカイ

    連続小説です。主人公がオレゴン州で元カノとヨリを戻そうとします。その過程でのすれ違いと成長に着目しました。

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ディープ・ブルー・スカイ①

 見たことのないほどに濃い青色が、西海岸の空を懐かしく染めていた。オレゴン州で最大のポートランド国際空港をレンタカーで後にし、高速道路のI-205を目指した。南方面に合流したらすぐにバイパスの30Bに降りないといけない。  「これが俺の好きなアメリカだよ」と感傷に浸りながら、10年近く前に流行っていたロック・アンセムを大音量で聴いていた。あまり気持ちがよくて次第に窓を全開にしたくなったが、まずは標識を見逃さずに、分岐点を見逃さないようにする必要があった。 待ち合わせ場所の「パ

    • オレゴン・ワイン② 乗馬

       グイグイねじ込んだ。太い木の固まりがスポッと抜け、ドクドク溢れる液体は白かった。ソーヴィニョン・ブランをリーデルのグラスに注ぐと、玲奈先輩は優しくも悪戯な声で「乾杯」と言った。  ワイン農場の隣には馬舎があり、玲奈先輩はかねてから乗馬をしてみたいと言っていた。「せめてもう少し動きやすい恰好じゃないと」僕は言った。デニムのミニスカートでは乗馬の際に股を開きづらいだろう。しかし玲奈先輩は構わなかったようだ。  はじめは二人で馬に乗ることとした。僕が先に乗り、玲奈先輩は僕の後ろに

      • ディープ・ブルー・スカイ⑤もう一つの道

         アマンダを乗せたジェイクの車が、俺のアパートに到着した。 「先にあいつに説明してくるから、車で待っててな。大丈夫だ。」ジェイクは震えるアマンダに言った。 「よう。遅い時間に悪いな。」ジェイクが挨拶した。 「悪いのは俺だよ。わざわざありがとう。」それぐらいしか言うことが思いつかなかった。大まかな話はジェイクから聞いていたし、俺だってアマンダの異変には気づいていた。 「今は、疲れ切ってどうしたらいいかわからなくなってるみたいだな。正常な思考ができなくなっている。」  そんな状態

        • ディープ・ブルー・スカイ④アマンダ

           メーガンの経営する「ダウン・トゥ・アース・カフェ」の店内は照明がやや薄暗いなと思ったので、アマンダは窓際の明るい席を選んだ。こじんまりとしている、いかにもポートランドらしい個人経営のカフェだった。 「急にスタッフが休んじゃってさ。来てくれてありがとう。」エプロンを外したメーガンが言った。 「調子はどう?」  当初アマンダは、メーガンの家で土曜日のランチをする予定だった。しかしメーガンは、急きょ空いたシフトを埋めなければいけなくなり、待ち合わせ場所をお店に変更していた。家だと

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        ディープ・ブルー・スカイ①

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        • ディープ・ブルー・スカイ
          5本

        記事

          ディープ・ブルー・スカイ③本音

           アマンダを車に乗せて俺たちは高速道路のI-5を北上した。ポートランド市に入る手前で217号線に合流した先に、大きなショッピングモールがある。そこを右折して10分程進むと、ジェイクとメーガンの家があるらしい。以前よく訪れていた日系食料品店が近くにあるから、新日派のジェイクに日本酒のお土産でも探して買っていくことにした。もちろん、俺ではなくアマンダによる気遣いだ。日照時間が長くまだ明るかったが、夜7時には到着していたかった。並木通りにかかる夕日が綺麗だったが、少し急ぐこととした

          ディープ・ブルー・スカイ③本音

          ディープ・ブルー・スカイ②追憶

           もとを言えば、大学1年目にジェイクとアマンダが付き合っていたのだ。2人はそう長く付き合っていたわけではない。ジェイクによると、元々友達として仲がよかったから、その延長線上でお試しに付き合ってみた程度だったらしい。  俺はと言うと、千葉の高校で付き合っていた優子のことが忘れられなかった。「アメリカに行ったらもっと可愛い子がいるから、」そう背中を押されたが、アメリカに来てからも1年間は約束の指輪を外せないでいた。それが「魔除け」になっていたのだろう、大学1年目は誰とも恋愛しなか

          ディープ・ブルー・スカイ②追憶

          オレゴン・ワイン①

           週末は決まって、ブドウ園で泊りがけのアルバイトをしていた。ブドウ園があるハリス・ブリッジ市は大学から車で 20 分ほど離れている。この日もいつも通り、同じ日本人学生の玲奈先輩の車に乗せてもらいブドウ園に向かっていた。あれは大学 2 年目の夏休み終盤のことで、ウィラメット渓谷は残暑が厳しかった。  ハリス・ブリッジ市に向かう道程 (みちのり) で、玲奈先輩は決まってコーヒー・スタンドからカフェラテを買っていた。玲奈先輩は後部座席に置いてある財布を取ろうとすると、その顔が助手席

          オレゴン・ワイン①