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今は8月15日午前2時。盆休みも明けが近づき、昼には実家から職場のある福岡へ発つ。
煙草が吸いたくなったが、部屋では吸えない為、外へ出ていく。

外で煙草を吸う際は度々、少し離れた波止場へ行き、そこで吸う様にしている。
僕はこの地の夜が好きだ。
夜の波止場は、波や風の音、船と発泡スチロールの擦れる音、季節毎に違う匂いを感じられる。
近くの暗闇から、波立つリズムに合わせキュッキュッと艶やかに発泡が鳴らす。
遠くの暗闇では湿った匂いを風が運び、防波堤に叩きつけられた波が僕を呼ぶ。
水面で泳ぐ小魚達が、思考なくゆらゆらと漂っている。

僕はこの夜に会う度にただ独り、ふっと消えてしまって良いのではと考えてしまう。
緩やかに肌を撫でる風がこんな甘い考えを包み、激しく怒る波は弱々しい体を沖まで連れて行ってくれる筈だと。
この地の夜は、傷んだ独りの男を肯定し、甘えさせてくれる。
何となく理想の父性像と母性像を見出しているのだろうか。

そうして独りよがりな想像に浸っているうちに、煙草を吸い終え僕は独り踵を返し帰って行くのだ。

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