印象に残ったシャニマスのフレーズたち

美麗な日本語、語感のよさ、斬新な表現、ボイスや演出の妙、文脈のハマり具合、端的なテーマの集約……。シャニマスに触れていると、様々な理由でひときわ輝いて忘れられないフレーズに出会うことがあります。今回は、私にとってのそんなフレーズたちを紹介しつつ、それにかこつけて好きなコミュ語りをやっちゃえという感じのシンプルなやつです。

以下諸注意ですが、やはり最近の話がしたいので、今回取り上げるのはざっくりとLP編実装以降のものとします。World×CodeやノクチルGRADあたりまでは残念ながら対象外。また、できるだけいろいろなものを取り上げたいと思いつつ、私の嗜好によってそれなりに偏りのあるチョイスとなっていることをご了承ください。順位付けによる紹介も考えましたが意味のあるものになりそうになかったので、登場順に並んでいます。スクロールすると本文ですが、当然ながら各種ネタバレがあります。







「ハッピー・アイ・スクリーム」(千雪pSSRカード名)

カードタイトルはまさにフレーズ勝負というところで印象に残るものも多々ありますが、個人的に特にお気に入りなのがこれです。このカードのイラストはウェディングドレスを着た千雪が湖を沈んでいくという幻想的なものですが(冷静に見るとヤバいんだけど)、語感のよさがその多幸感を盛り立てていて美しいです。「ハッピーアイスクリーム」についてはこれで初めて知ったのですが、中点一つで意味を掛けてくるのがオシャレ。3rdの告知で見てからなかなか入手できず、4thの打ち上げで出てきたときは手を叩いてガッツポーズしました。

「どうせいつか終わるんだから、 いつ終えたっていいでしょ~って」(雨情/場面・傘)

奇しくもハッピーアイスクリームと同じガシャ。雛菜と円香がお互いにかつて交換日記を止めたことを指摘し合う場面ですが、二人が過去をよく覚えていること、相容れない価値観を持っていること、でも互いの把握精度は非常に高いこと、その辺ひっくるめた上でつるんでいること……。二人の関係の妙がこれでもかと詰め込まれている印象的なシーンです。さらにはこういう言葉が出てくる円香というところでも気に入っているフレーズで、彼女の心境は後に「オイサラバエル」にてよく言語化されることとなります。

「心があるところ」(霧子LPコミュ名)

これはLPのラストのコミュタイトルですが、実は少しズルをしていて、これの解答となるコミュ全体を通して語られる内容自体がとりわけ印象深いところとなります。「心……は―――― あってほしいな……って思う…… わたしの中に……あって……」といった言葉は、霧子の考えとしても、またシャニマス全体の哲学を象徴する言葉としても見ることができますが、その両方として非常に好きな部分です。霧子の独特な感性がこうした理知に立脚しているところに、私は安心感を覚えます。それは、世界を捉える自己を肯定するような人間讃歌であるからと言えるかもしれません。

霧子LP編全体として見ると、霧ちゃんというアクロバティックな道具を使ってシャニマスのテーマの深いところに切り込みつつ、霧子のアイドルの話としてきちんとまとまっていてとんでもない完成度だなと思います。もっとも、シャニマスのテーマである以上アイドルに接続するのはある種当然ではあるのですが。バケモン揃いのLP編の中でも、個人的に5本の指から決して外れない素晴らしいコミュです。逆に5本の指とまでしか言えないLP編全体のクオリティの高さよ(一番は決められません)。

「美しく」(ピトス・エルピス/gem)

私がこれまで触れてきたシャニマスの中で最も好きなカードです。なぜこれが限定なのか、早く全員に配布しろと常々思っており、4周年の復刻投票でもその思いを胸に(自分の未所持を差し置いて)票を入れていました。その結果無事200連天井で手に入れる機会が実装されたということで、運営も同じことを思っていたに違いありません。

カード全体を通しての完成度が非常に高く、地の文とも言うべき新たな表現法を取り入れつつ「箱」になぞらえて円香を紐解いていく過程、そしてそれが「ピトス・エルピス」というカードタイトルと完全に重なるさまは完璧と言わざるを得ません。正直好きなフレーズを全部取り上げていたらきりがないのですが、今回選んだ「美しく」という部分はこれまた斬新な特殊ギミックのクライマックスであり、土屋さんの演技が相まって今まさに羽ばたかんとする意志を感じさせてくれる最高の瞬間です。

また、ここをチョイスしたもう一つの理由として他のコミュとの関連を挙げておきます。このカードのTrueは言わずもがなLP編の前日譚となっていますが、一方ここで示された円香とPの「美」にまつわる対比は「オイサラバエル」にも続くこととなります。ピトス~LPの流れだけでもめちゃくちゃ感動したのにまだここから伸びる糸があるのかと当時慄きました。様々な文脈が集まるこの部分は、樋口円香という人物にとっても重要な一言だと思います。

「焼かれてた」(透LP/キッチンできみは火薬をまぜる)

後に出た「国道沿いに、憶光年」と合わせて名作であるのは当然として、個人的には怪作という言葉も似合うような気がする透LP。ここから始まる一連の独白は、浅倉節が遺憾なく詩情に昇華されていて絶大なインパクトを与えてくれました。和久井さんの演技から不条理さ・やるせなさが伝わってきて、最後にはそれすら呑み込んでエネルギーとしてしまう浅倉透という器の無法ぶりが印象深いです。浅倉節にはもうちょい言語化しろといいたくなるものも多々ある一方で、たまに彼女の感性がスパーンとそのまま伝わってきたときの他にはない味がなかなか好きです。ここ以外だと「faaaar」のやつとかも良い。

「すべての名もなき人たちへ」(YOUR/MY Love letter)

最近のシャニマスのコミュを語るうえでやはり外せないなとなるフレーズです。「#283をひろげよう」~「YOUR/MY Love letter」の一連のイベントはシャニマスとしての意志を感じたくなるものでした。これらは、コンテンツを作りそれを受け取るというような関係を超えて、我々にもっと多くを届けたいという試みであったように思います。

シャニマスは「アイドルとは何か」という問いかけをずっとやってきていて、その答えの一つを私が言語化しようとすると「人と人との相互作用関係が集積する場所」みたいな言い方になります。例えばアイドルがファンにパフォーマンスなどを通じて何かを与え、またファンがアイドルの存在理由となるというような関係は、これまで繰り返し描かれています(もちろんこれはシャニマスに限った話ではありません)。GRADあたりまで時が進むと、283外のアイドルとの関わりなんかも増えてきます。そうしたアイドルの可能性をさらに模索したときに、画面に向かうひとりひとりと直接に関係の糸を結べないかと考えるのは自然な拡張であると感じます。当然それは簡単なことではなくて、ひとりひとりの持つ考え方や悩みは違っているしコンテンツを作ろうとするときにその顔すら見えないわけですから、「はこぶものたち」においてイルミネが向き合ったようなある意味終わりのない作業です。それでも、シャニマスがそのひとつの完成品であるとして提示してくれたのが「YOUR/MY Love letter」であり「すべての名もなき人たちへ」というフレーズであったことは、私が確かに受け取った素晴らしい贈り物であったと思っています。

「だから それがあれば――…… それだけあれば いいと思ったんだよね」(4thDay1緋田美琴)

ライブ演出の詳細のところは省きますが、4thLIVEを配信で見ていて思わず泣き崩れてしまった瞬間です。ライブで泣くこと自体はそこそこあるのですが、ここは自分としては完全に予想外のところからのクリーンヒットで、当時の記憶としては困惑の思い出が強いです。

元々美琴はアイドル、歌、ダンスといった夢を語ることは多いものの、それが彼女のパーソナリティとどのように結びついているのかという点についてはいまいち見えてこないなという印象を抱いていました。「ステージ」に対して全てを捧げる姿勢でありながら、同じステージ上に上がるはずのにちかには意識が向けられない。彼女の呼ぶ「ステージ」という存在の範囲が恐らく一般的イメージより非常に限定的なものでありながら、具体的定義やその来歴が陽に説明されることがない。それは緋田美琴というキャラクターにおける重大な欠落と言ってよく、メタ的にも意図的に描写を避けているのだと思っています。この4thの手紙は、美琴の妄執とも見えてしまうような姿勢の裏にあるものを初めて垣間見ることができたという感動がありました。

Day1の手紙は現在から過去へという体で書かれていたはずですが、美琴の手紙だけは恐らく未来から宛てられたものとして作られています(Day2との対比からもそれが伺えます)。他の手紙がLPの内容とかも盛り盛りだったことを考えると時間軸をそこに揃えた可能性もありますが、にちかの手紙の方は遅くともモノラルダイアローグス以降であれば書けるもののように見えるので十分な判断材料とはならず、正確な意図は分かりません。いずれにせよ、今後のコミュでこの境地に至る過程が描かれるのだとすれば楽しみでなりません。6~8月のどこかでシーズGRADは来ると想定していたのですが果たしてどうなるでしょうか。

「異星人たちは、箱の正体を探ろうと鍵盤を叩きつづけた」(モノラル・ダイアローグス)

からのこれよ……と言いたくはなりますが本当に好きな場面なんです。このフレーズはシナリオ中二度出てきますが、本命は「協和的不協和」でのシーン。感謝祭まで続いてきたシーズの物語は、前述の緋田美琴の欠落が作用したのかは分かりませんが本質的問題に深く切り込むことがなされず、そこが個人的に若干不満でもありました。それが「モノラル・ダイアローグス」では一転、逃げることなど許さないと言わんばかりにカウンセラーまで使って問題がボコボコ掘り起こされていきます。なかでもカウンセリングのシーンは描写の巧みさも相まってカタルシスさえ得られるようなものでしたが、異星人のくだりは無力感と共にいよいよ本丸が見えた感慨も駆り立ててくれるもので、とてもいい役割を果たしていたなと思います。ところで、283フェスが円盤化されたとき我々はそれをどんな顔で見れば……。

「……たぶん まだ探してたんじゃないかな みんなのこと」(if(!Straylight)/HANABI)

最新のコミュより。天檻の「陸でいたい」もそうでしたが、プロデューサーの言葉がシナリオの締めや結論としてピタッとはまっていて、それだけでいいシナリオだったなと思わせてくれるようなパワーがあります。選んで、悩んで、切り捨てて、傷付いてを繰り返してきた冬優子にとって、今を肯定するこの言葉の重みは言うまでもないでしょう。
なんかストレイに出会えずまだ探してるシャニPのこと考えたらLP大成功++ Lv.5に出会えずまだ探してる自分のこと重ねちゃった。そういうアナロジーはいらない。


まだまだ紹介し足りないところではありますが、いよいよ文章力が枯れてきました。今回触れられなかったシナリオは言うに及ばず、曲の歌詞、フレーバーテキスト、キャンペーンのコピーなど、各人それぞれに心に残るフレーズがあることでしょう。そうした言葉たちとの出会いは、これからも私がシャニマスに触れる上で楽しみとするところです。

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