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障害者雇用枠で外資系企業に就職したら不当解雇されかけたので、やむを得ず人事とブレイキングダウンした

「あなたのお気持ちはどうあれ、来月末に退職していただくことは確定しているんです。それだけは間違いないんです」
他人事のように、人事は私にそう告げた。どこか遠くでゴングの音が鳴った気がした。

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「労働審判」今日はこれだけでも覚えて帰ってください。
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■"破滅の20代"を超えて、内定獲得

患っているものをすべて書くと一瞬で特定されそうなくらい、持病や障害を抱えている。20代では退職届を連発する羽目になり、キャリアが完全に崩壊した自分にとって障害者雇用はある種の救いみたいなものだった。

昨年の夏、数年間の療養を経て体調が万全となったので、障害者雇用専門の転職サイトに登録してエージェントと二人三脚で就職活動を始めた。
当初こそ順調ではなかったが、エージェントの強い支援もあって、障害者雇用月間に入ってからは続々と書類選考に通り始めた。

もともと面接が得意だったこともあり、1次面接をすべてパスしたあとは2次面接を順次消化する手筈になった。

ひとつめの2次面接が終わった直後、すぐに人事から内定の電話が来た。
外資系・超巨大コングロマリットの傘下の、誰でも名前を数度は聞いたことがあるような、超有名企業からのオファーだった。

「契約はひとまず1年で。年収は〇〇〇万円で良いですか」

特定される可能性があるから額面は明かさないが、エージェントに聞いたところ障害者雇用枠ではあまり聞いたことがないような破格の待遇だったらしい。
いま思うとどんぶり勘定もいいところのオファーだったが、求人情報の掲載額を上回る額面だったので「お願いしあふ…」と情けない声で即答した。

面接に同席していた、契約社員としてのオファーをくれた人事は「来年の正社員登用を目指しましょう!」とも言ってくれた。面接の段階でそこまで評価してくれるとは思わなかったから、とても誇らしい気持ちになった。

オファーの額面が額面だったから、他所の面接を受ける必要がなくなった。はじめこそ難航した就職活動は、実にあっさりと幕を下ろした。

しかし人事とのブレイキングダウンは、すぐに勃発した。

■同居人、完全崩壊

働き始めてすぐ、同居人が大きく体調を崩した。
ただ大きく体調を崩したというよりは「精神を完全に病んだ」と言った方が正しいのだろう。夜中になると、同居人の叫び声が繰り返し繰り返し聞こえた。共用スペースには、いつもゴミ箱をひっくり返したように物が散乱していた。

同居人が抱えるトラブルは徐々に大きくなり、しばらくすると自分も騒動に巻き込まれるようになった。

怒鳴り声が響く家の中でまともな精神を保つのは不可能だった。
職場でのルーティンワークを完全に覚える間もなく、自分も体調を崩した。朝、決まった時間にうまく起きれなくなり、職場へ行けなくなった。

事情を話すと、会社からすぐに休職の指令が下った。

■遅刻、遅刻、ミス、ミス、カイゼン

逃げるように同居人と距離を取り、新しい部屋で生活を始めて3週間ほど経ってから職場に復帰した。
いま振り返ると、このときに体調が万全な状態で復帰できていれば結果は少し変わっていたのかもしれない。

もともと遅れ気味だった業務を覚えるスケジュールが、突然の休職で完全にあと倒しになったこともあり、復帰後はハードだった。
復帰直後、仕事の疲労が抜けず2回遅刻をした。2度目の遅刻のあと、部長との面談が組まれて「絶対に遅刻しないように」と釘を刺された。

この辺りから、一緒に業務を進める同僚の目線が完全に変わった気がした。

遅刻することが怖くなり、毎日出勤時刻よりも4~50分ほど早く部署に到着して、業務の準備を進めるよう心掛けた。

繁忙期特有のヒリついた空気にビビりはしたが、体調は徐々に上向いた。

部署に早めに到着するようになってからは当日行う業務の準備を進めるようになったが、それでも注意欠陥特有のミスは度々起きた。

繁忙期に入ったあと、Excelでの資料作成やERP内での作業でトチり、メンターふたりに大きな迷惑をかけた。どちらも単純なミスではあったが、その日の部署のオペレーションが大きく狂うようなミスだった。
迷惑を被ったうちのひとりは、呆れたような口調で「このままだと何も仕事を触れなくなるよ…」と私に告げた。
ごくごく当然の叱責で、ひたすら反省するしかなかった。

その後は同じミスを犯さぬよう、そして自分の障害を言い訳にしないよう、業務遂行の精度と速さを最大限上げられるよう試みた。

作業の一部を自動化することで、業務遂行の速度自体はどんどん速くなった。その後は振られたタスクについてもミスすることなくこなせていたと思う。

周囲から「ありがとう」と言ってもらえる機会が増えてきて、少しずつ手応えが出始めたところで、私を採用した人事から招集がかかった。

■「どうして法律の話なんかするんですか!」

「来月末に退職していただきます」と、ブランドの商品名を冠した小奇麗な会議室で人事は私にそう告げた。私がぽかんとしていると、人事は淡々と「理由は能力不足です」と続けた。

思い当たる節は大いにあった。
そもそも入社直後に体調を崩して休職している時点でだいぶ分が悪い。
そのうえ復職後にも2度も遅刻をしたし、繁忙期にはトチってメンターたちに大きな迷惑をかけた。

その後は良い方向に向かっていると思い込んでいたが、どうやら自分の手応えと部署内の評価は大きく食い違っていたようだった。自分の努力は同僚と上長には一切伝わっていないらしかった。

「本当に、もう働かせてもらえないのですか」と私は尋ねた。
「はい。来月末に退職していただくことは、もう確定しているんです」と人事は首を横に振った。

このとき、同僚と上司に迷惑を掛けたことに対する申し訳なさとともに、ひとつの疑問が湧いた。

唐突に湧き出たその疑問を抑えきれず、私は人事にこう聞いた。
「そもそも、これって法律的にはどういった処遇なんですか?」
今後の身の振り方を考えるうえで、自主退職になるのか会社都合退職(解雇)になるのかは大きな問題だと考えたのだ。

「退職していただくことはもう確定しているんです」という人事の言い方も引っ掛かった。
すぐさま違和感が猛烈に噴き出した。
私がまだ認めていないのにもかかわらず、来月末に退職することが、すでに確定している…?

次の瞬間、人事が叫んだ。
「なんていうことを言うんですか。一体なんてひどいことを…!
人事はこう続けた。
「本当にひどい。どうして法律の話なんかするんですか!?!?」

私は息を整えて、「どうして法律の話なんかするんですか!?!?」というフレーズを心の中で三度唱えた。どうして法律の話なんかするんですか。どうして法律の話なんかするんですか。どうして法律の話なんかするんですか。

いや、どうしてもクソもあるか。そもそも雇用契約は法律のもとで結ばれているのだからどこまで行っても法律の話だろうが!!!!!!!!????

しかしここでそう叫ぶと分が悪くなる可能性があると察知した私は「い、いや、ちょっと、あの、気になっちゃったから、つい聞いちゃいました…」となだめすかして、そのまま人事の話を聞くことにした。

■「自主退職の届け出を提出してほしい」

人事の言い分は下記のようなものだった。

①私は職務遂行能力が低い(これは言い訳の余地がないかもしれない)
②そのため、来月末に自主退職してもらうことにした(!?)
③予定日の30日前になったので、そのことを告知しにきた(????)

机の下で「解雇 告知」「退職 勧告」といったワードで検索しつつ、人事の話を聞き続けた。
調べたところによると、どうやら私は今「退職勧奨」を受けているようだった。実際に「これは退職の勧告ですか?」と確認したところ「そうです」と返ってきた。

退職勧奨とは、会社側から退職に向けて従業員を説得し、従業員との合意によって雇用契約を終了することを目指すことを言う。

つまるところ、理由はどうあれ会社側はこの場で「私が来月、あくまで自分の都合で退職する」方向で合意を取り付けたいのである。

ここで私は自分がどのような状況に置かれているのかをようやく察した。ウッカリ「分かりました」と口にしないよう気を付けながら、そのまま人事の話を聞くことにした。

人事によると、今後の手続きとしては自主退職する旨の届け出を部署に提出してもらうとのことだった。なるほど、そういう感じか。

法律の話をするのであれば、こちらも打って出ますからね。残念です。本当に残念ですよ」人事は吐き捨てるように続けた。

解雇しようと思えば解雇することもできるんです。しかしながら我々はあえてその選択をしなかった」
「履歴書に"解雇"という大きな傷が付けば、あなたの今後のキャリア形成に間違いなく影響が出ます。だからこうして自主退職をお願いしているんです。いわばこれは温情的措置なのです
「法律の話なんかされるなら、こんな提案はせずにスッパリとクビを切ってしまえば良かった。本当に、なんてひどい人なんでしょう…。

仮に自主退職したあと、自分の暮らしがどうなるのかを考えると、むしろこうして自主退職をお願いされることが温情的な措置だとは到底思えなかった。逆に"スッパリとクビを切られた方が"有利に働くのではとも思ったが、それはあえて口には出さなかった。

その後、余計なことを言わないように口をつぐんでいたら「あなたはコミュニケーション能力が低いんです。あなたのコミュニケーションは…そう、アサーティブじゃない」とダメ出しを受けた。

「我々、正社員は全員"アサーティブ・コミュニケーション(他人を尊重する、爽やかな自己表現)"の研修を受けているんです。だから業務中に社員同士での軋轢が起きにくいんですね。そうした能力があなたには欠落している。ゆえに業務の遂行が滞って、云々…」。

アサーティブな退職勧奨というものがこの世には存在するのだろうか、という疑問が脳裏をかすめて笑いそうになりつつも、私はひとしきり人事の話を聞いて会議室を出た。

アサーティブな退職勧奨を受けたあとの、日が暮れて間もない冬の空は、吸い込まれるような深い碧で彩られていた。メンズパルファムみたいなエレガントな色をした空間に、無数の星が高級なジュエリーみたいに輝いていた。

■全国青年司法書士協議会「解雇は不可能」

帰宅後、スッと希死念慮が落ちてきて率直に「死にてェ」と思った。
また、同僚たちに迷惑を掛けていることを脇に置いて、これまでの話を法律的な視点を踏まえて対応しようとする自分勝手さも醜悪だなと思った。

とはいえ、生きていくためには人事の言う通りに自主退職するわけにはいかなかった。

そこでまずは、年末に開かれていた全国青年司法書士協議会のホットライン(LINE版)に相談してみることにした。

結論としては「解雇はできない」「退職勧奨に応じる必要はない」とのことだった。

実際に交わしたメッセージの一部。その節は大変お世話になりました…。

"解雇"は大きく分けて3種類存在する(普通解雇・懲戒解雇・整理解雇)が、いずれも実現のハードルが極めて高い。「能力が低いから」という理由で社員に会社を辞めてもらうのは、法的にはかなり難しい行為なのだ。

とりわけ、日本において"契約社員"の立場は極めて強い。
労働契約法第17条1項により、契約社員の期間途中での解雇は「やむを得ない事由」がある場合でなければ不可能だ。そして、この「やむを得ない事由」があるとして期間途中の解雇を認めた判例はほぼ存在しない。

人事が退職勧奨を行った理由もここにあるのだろう。
人事は「解雇しようと思えば解雇することもできるんです」と私に告げたが、実際にはそんなことは不可能なのだ。だからこそ私に自主退職を勧めてきた(というか解雇をチラつかせて強要してきた)のである。

そうなると、このパンチには打ち返す余地がある。
さらに調査を進めたところ、こうした事例は「労働審判」で決着をつけることが可能とのことだったので、迷惑を掛けた同僚たちには申し訳ないと思いつつも弁護士を挟んで会社と対峙することを決めたのだった。

※労働審判とは?※
…解雇や給料の不払など、労働者と事業主との労働関係上のトラブルを、その実情に即して迅速・適正かつ実効的に解決するための手続き。
要は労働トラブルを解決してくれる簡易的な裁判みたいなもの。ただし通常の訴訟手続とは異なり非公開で行われる。
平均審理期間は81.2日とのことで、66.9%の事件が申立てから3か月以内に終了する。原則として3回以内の期日で審理を終えることになっているため、労働者側にとっては迅速な解決が期待できる制度。そのため労働者には基本的に有…おっとこの先はいけねえ。

労働審判手続 | 裁判所

■弁護士「こんな杜撰なことするの…」

調査を進めるうちに、労働審判を起こせば十中八九こちらが勝つことは分かってきた。が、なにせ相手は超巨大コングロマリットの傘下の、誰でも名前を聞いたことがあるような超有名企業である。おそらく最強の弁護団みたいな奴らが後ろに控えているに違いない。

そこで私は「これが勝ち筋かな…?」と見当をつけたうえで、東京でもっとも労働問題に強そうな弁護士をインターネットで探し出して、労働審判の依頼をすることにした。

労働審判は弁護士を付けた方が解決水準が高くなるらしい。

辿り着いた事務所で、ここまでの経緯を聞いた弁護士がぽつりと一言。
「えっ、ここ超大手なのにこんな杜撰なことするの…」。

弁護士曰く「さすがにこれは勝ち確です」ということで、最大リターンをもぎ取る方法を伝授してくれた。

ロジックは下記の通りである。

a.解雇事由を会社側が合理的・客観的に示すことはまず不可能なので、こちらはまず不当解雇を主張する
b.不当解雇が労働審判で認められた場合、私は契約期間中であれば"解雇時以降も労働者であった"ことになる
c.そもそも会社側の事情で従業員が業務を行えない場合、業務の対価である給与の支払いを会社は拒むことができない。労働者はその間の給与を請求することができる(バックペイの請求!)

これが今回起きた問題の基本的な解決策で、かつ最大リターンを取る勝ち筋である。

一応、この作戦の弱点としては、
・その企業と契約していることを否認しかねないから、その間は別の企業では基本的には働けない
・したがってその間の生活費を維持することが結構難しい
・企業側としては、労働者を復職させることでバックペイ請求を回避することができる 等があった。

当時は(というか今でも)ずいぶん貧乏だったから、生活費をどうするかという課題はあったが、なにせ「勝率はほぼ100%」と弁護士のお墨付きも得ることができたから、依頼を済ませてその作戦に乗ることにした。

■会社とのブレイキングダウン、勃発

まずは弁護士の作戦どおり、人事に対して「交わした契約を守ってください!」とお願いするメールを投げたところ、会議室に呼び出された。アサーティブな人事による、アサーティブな招集。

勝ち筋は確保したので、労働審判のためにボイスレコーダーを用意して会合に臨んだところ、アサーティブな人事が今度は「給料1か月分を支払うので、退職に合意してもらえませんか」と言ってきた。

本当は解雇することだってできるんですよ!」「いわばこれは温情的措置なのです」とか言ってたくせに、やっぱり本当は解雇できねえんじゃねえか。アサーティブに嘘つきやがってこの野郎!!!なんてひどい奴なんだ。

ここまで来たら、あとは降りたら負けのポーカーである。とはいえこちらとしては勝ち筋が見えている以上、これは実質的にレイズ一択のポーカーだ。

給料1か月分での合意退職、いかがでしょうか。レイズ。
その額では応じられません。レイズ。
それでは1.5か月分でいかがでしょうか、レイズ。
話になりません。きちんと契約を守ってください。レイズ。
それではやはり、いまお示しした退職金の話はナシで、"解雇する"という元の方針で行きたいと思います(無理筋)。レイズ!!!!!

そうですか。契約を守られないことが本当に残念でなりません。レイズ。

結局、その日の話し合いは「コール!」がないまま終了した。
私は弁護士の見立てどおり「契約期間が残されているのに!まだ働きたいのに!」と叫びながら、"解雇"という形で会社から追放される運びとなったのだった。

■証拠集め、そして会社のフォールド

その後は社員証を返却するまでに、労働審判に向けてちまちまと社内で証拠を集め始めた。

この頃になると「申し訳ない」という気持ちと一緒に「この人たち、よく労働法(労働契約法)に背けるな…」という気持ちが沸いてくるようになった。

自分が悪い部分はたしかに大いにあったと思う。大いにあったけど、ああこの人たちはデカい権力をチラつかせて、労働者をビビらせて自主退職させようとするんだな、といった会社を非難する気持ちの方が大きくなり始めた。

人事の話を聞いていると、どうも退職勧奨をやり慣れている感じがしたので、系列の企業では似たような辞めさせられ方をした人も結構いるのではないだろうかとも思った(もちろん推測でしかないが)。
仮に同じ業界で働きたい人間が、私と同じように退職勧奨の場で「まあ、今後他所からウチに連絡が来ても悪く言わないであげるからさ…」みたいなことを言われたら心が折れる気がする。もちろん許可を取らない前職調査をすることは個人情報保護法で禁止されているし、自分はこの業界に二度と近寄るつもりがないけど。

あとは同時に「労働法を破ってでも解雇したくなるほど、自分は仕事ができなかったのだな」とも思うようになった。
労働審判の証拠集めで、自分が業務を進めるにあたり作成したマニュアルや当時の日報(主に業務にかかった時間を記録していた)を閲覧しているうちにそうした考えは少しずつほぐれてきたのだけれども(むしろ後半はそれほど遅滞なく業務をこなせていたことが分かってきたくらいだ)、
それでも当時はほかの社員から明らかに「問題社員として認識されていた事実」はかなり堪えた。

「もっと仕事ができれば、こんな事態にはならずに済んだのかもしれない」などと考えているうちに、会社から「復職するように」と指示が出た。
実質的に、会社が"降りた"のだ。

職場の人たちからは拒否されていることが明らかなうえに、バックペイを生活の拠り所にするつもりでいた自分としてはこれは最悪の一手だった。
一方で、会社にとってそもそも私は労働契約法を破ってでも退職させたかったはずの人材であるから、これは向こうにとっても悪手であることは間違いなかった。

会社としてはバックペイ――会社にとっては意味のない支払いだ――の請求を防ぐために復職させたのだろうが、結果的には「どちらも負け」という形で、労働審判に至ることはなく、このブレイキングダウンは幕を下ろしたのだった。

■おわりに①:そしてメンターは左遷された

復職した直後、メンターだった上司のうち一人が配置換えされた。配転先での業務内容を考えると実質的には左遷と言っても良いのかもしれない。

実は、左遷されたメンターからはミスをなすりつけられたり、ルーティンワークの成果物を受け取ってもらえなかったりしていた。このことは労働審判できっちりと話を持ち出すつもりだった。

その人が作ってくれたマニュアルに不備があることが発覚して、上長が怒っている場面にも遭遇したことがあった。業務を期限内に処理できなくて、きつく叱責される場面も見かけたこともあった。だから左遷の話を切り出されたときは「むべなるかな」という気持ちで話を聞いていた。

部署移動が行われる直前、そのメンターは私にこう尋ねた。
「私はこれから別の部署に行くことになるのだけれども」
「あなたはどうしてこの部署にいられるの?」

復職に際しては「経緯については周囲に口外しない」と宣言したから「そりゃあ弁護士に金を払って人事としばき合ったからですよ…」とは伝えられなかった。

一方で、なぜこの部署にいられるのか答えられる人間は、私と人事以外は存在しなかった。そして、私が部署にいることで喜んでくれる人間は、職場には誰一人としていなかった。

ちなみに…
復職後はさらにトラブルが起きて、結局もう一度会社とブレイキングダウンをする羽目になり、やがて「労基署の総合労働相談コーナーを活用して相手から一本もぎ取った」みたいな形で終局を迎えるのだが、
ここからは話が細かくなるうえに、本人を特定できる要素がてんこ盛りのため詳細は伏せたいと思う。とりあえずは「離職できた」とだけ書いておく。

おわりに②障害者雇用は"ガチャ"なのか

ここでもまたガチャなのか。

何もかもが落ち着いたあと、この件は一体なんだったのかと振り返って、「あいつらは結局"障害者ガチャ"をやっていたのではないか」という結論に至った。

特に外資系企業は「障害を持っている人の中でも、仕事ができる人が来てくれればいいな」と強く考えているように感じる。慈善事業じゃあないのだからそう考えるのは当然のことだとは思う。実際、こちらも面接の場ではスキルや得意なことを前面に押し出すようチューニングして臨んだわけだし。

ただ、結果として私という人材が水準に達していなかったために――彼らは労働法(労契法)を守らずに私を"廃棄処分"しようとした。これはもう障害者ガチャと言って差し支えないのではないだろうか。

合わなかったらポイ。合わなかったらポイ。私の前任者(同じく精神の障害者雇用枠だったと聞いている)も"ポイ"されたかどうかはあずかり知らぬところだが、次々とガチャを引いてSSR障害者の獲得を目指す営みを一部の企業は延々と行ってはいないか。

企業がより優れた人材を求めることが悪いことだとは全く思わない。
自分の場合は「SSRだと思ってたら全然違ったわ。ババだこれ…」みたいな感じで切り捨てようとしただけなのかもしれない。「障害者なんだしちょっと押せば辞めてくれるでしょw」くらいの気持ちで退職勧奨をしただけなのかもしれない。仕事が期待よりもできなかったことは事実だから、退職勧奨を受けるのは仕方がないことなのかもしれない。

とはいえ、自分よりももっと杜撰なやり方で退職勧奨を受けて、
自主退職に追い込まれた労働者が他にいるとしたらそれは――。

厚生労働省発行『障害者雇用のご案内』より抜粋。

障害者雇用における法定雇用率は令和6年度から2.5%、令和8年度から2.7%と段階的に引き上げられる予定である。しかしながら「障害者を企業内で戦力化する」という課題から企業は後ずさりしてはいないだろうか。

近年は農園型障害者雇用を推進する企業もあると聞く。
もちろん、障害といってもその種類や重たさから農園型雇用だからこそ就業機会を得られる方もいらっしゃるだろうから、十把一絡げに批判することは得策ではないとは感じる。

一方で、
もし今後社会全体が右に倣って「障害を持っている人はSSR以外全員農園に行ってね♡」という結論に達するのであれば、そんな社会は消えてなくなってしまえと心の底から思う。

超高齢社会に突入して労働力が足りなくなった今の日本でも、我々当事者は基本的に生きているだけで迷惑な存在なのだろう。
それでも我々は、もっと仕事ができるようにと発達し続ける努力をするし、社会に適応しようと思って労働市場に出てきているんだよ。
意義のある仕事を求めて、働き甲斐を求めて、報酬を求めて、鬱の底から這い出てきたんだよ。
市場で役に立つようなスキルを必死に磨いて飛び出てきたんだよ。

それをもし「障害者だから」という理由で、「SSRではないから」と、
採用した人材を、まるでスマホゲームのガチャ感覚で処分していくのなら、それは本当に――。

結局、障害者雇用で働くのは一旦やめにした。今回の一件で就職エージェントは向こう側についたから、離職後は専門の転職サイト利用も控えた。

今はクローズで、士業の資格を取るために新宿付近の事務所で契約社員として働いている。

「障害者ガチャ」とは言ったけれども、健常者の採用だって企業にとってはガチャみたいなもんだと思う。企業だって問題社員の存在には苦労させられているわけだし、SSRの人材獲得を目指す取り組みは決して非難されるべきではないとも思う。

今回の話も「ミスマッチだったよね」くらいで終わらせた方が良い話なのかもしれない。

それでも日本社会の根底には、農園型障害者雇用がもてはやされるくらいには"役立たず共"をどこか異次元空間に押し込みたい衝動がある気がしていてならない。

自分はそうした大きな衝動の、うねりの中で苦しんだのではと思わずにはいられない。もし人材獲得競争ガチャに"気軽なポイ"もついてくるならば、それは直ちに肯定されるような機構とは決して言えないと思う。

ということで、退職勧奨を受けたので労働審判を企てつつ、会社とブレイキングダウンをする羽目になった話をお送りして参りました。「もっとアサーティブな世の中にならねえかなあ!!?」と思わずにはいられない一連の体験でござんした。

師走の候、今年も残すところわずかとなりました。退職勧奨が幅を利かせる時期ですので、くれぐれもご自愛のうえどうか労働審判の存在意義を胸に潜めてお過ごしください。

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