『毒毒』

毒と毒は合わさっても美しくない。毒毒という字面でも美しい感じはない。毒は果物のようだ。もう一つの毒は刺々しいもの、それは毒を持って毒を制すようなものだ。それは毒毒。新たなものだった。英語で言えばnew one...。

 ドクという青年はドクトリンが好きだった。猛毒を使った安全を謳った商売、「毒化粧」の話だ。毒を摂取した人間は毒をどこまでも求めるようになる。それは体内に入り、人を酔わせる毒。

 もしくは、毒と言ってもいい毒なのかもしれない。ドクは日本語で「ポイズン」を表すとして喜んだに違いない。皮肉にも似た笑い。毒を求める者はただただ毒を残すことを考える。

 ジャクリンは17歳だった。まだ何も知らない。ドクの大学の研究室で助手をやっている話は周りの噂で来る。ジャクリンが試験管にXを入れただとか、Xに化合物をやって煙を出させたとか、色々だ。

 ドクはジャクリンに「毒を使って億万長者」になる話をまだ、5歳の頃に聴かせた。その話はジャクリンにとっては衝撃的なものだった。その話はミシガン州で起こったことを詳らかに語っており、特別な時間をジャクリンに与えた。

 ジャクリンの誕生日はあと数日。ドクは祝い酒にピザを頼んでケーキを見繕った。ジャクリンには親はいない。母は死に、父は去ったのだ。

 荒廃した街に大きな大学がある。ドクはそこで黒板を描いている。芸術と科学の一環だそうだ。女子生徒が化合物の式で尋ねたときは丁寧に化学を教えてやったし、アフリカ系の青年が「なぜアンチケミストリーじみたことをやっているんだ」と尋ねられた際は毒キノコを手に取り、「私はいつか人類が神経毒なり、化学的な毒なりを解毒できる新たな研究をしているんだ。

 いつもならアンチドクの青年団が尋ねたときは、威張って追い返した。その群れはコーラの瓶やタバコを捨て、捨て台詞は「マッドサイエンスはやめろ」と大学の近くのコミュニティセンターの掲示板に掲げられた。ジャクリンは気怠く、ビリビリに破り捨てた。

「ドク、君の研究を気に入らない輩が多くなってきたね。」

「元からさ。」

「僕の研究はノーベル賞に繋がっているんだ。」

「でも、ホルマリン漬けのラットを見ると怖くなるよ。ドクがジェフリーダーマーじゃないかって。」

「何を言っている。」とドクは自分の研究室に置かれたコーヒーメーカーでキリマンジャロを注ぐ。訝しげな顔をするジャクリンにそれを渡す。「珍しいじゃないか。ジャクリンがそんなに私を嫌うなんて。別に私の信者のように思ったことはないが、それでも君ぐらいだったよ。僕の研究に殺人野郎と言わない奴はね。」

 ジャクリンはコーヒーカップを指差し、「この中にあるのも黒い毒かい?」

 ドクは呆れた顔で「また僕を疑ってるのかい?」

 二人の関係は毒のようにどんどんと友情に蝕み始めた。ひょんなことから付き合っていたジャクリンもミシガン青年団の事件をきっかけに口を聞かなくなった。親友のラリーも居たからだ。

 ラリーとジャクリンはクリスマスの教会で出会った。お互いプロテスタントだったため、パンの耳をちぎって食べるときに目があって阿吽の呼吸で話し始めたのだ。

 ラリーは18歳の銀行員で毎日小切手を着るのに忙しいと笑窪を出して笑う、好青年なやつだ。猫背で弱気なジャクリンとは違う。

 ラリーは正義感が人一倍強く、甥っ子がドク信者だったため、部屋はホルマリンやドクが書いた科学大全など、まさにドクの脳内だった。

 ラリーはジャクリンをよく呼び出していて、こんな話を聞かせていた。

-僕らは昔から口に入るものは全て毒だと思っていない。何故なら、美味しいハンバーガーにありつけるからだ。でも、100万個のハンバーガーをそのまま食べてしまったら毒になる。如何なるものも口に入る時点で毒なんだ。口は毒と解毒の関門。考えて開口した方がいい。

 ジャクリンは口を閉じて聴いていた。ただ、毒は侵入してきたらしい。

「まるでドクみたいだ。」

ジャクリンが言う。ドクはコーヒーカップの底を眺めていたらしく、話を聞いていなかった。「なんだね。どうしたのかね?」

「ドク、僕はラリーがいるんだ。」

「聴いてはいけない。私の意見に忠実であれ」

「もう僕の口は災いを消すための吐息で溢れている。」

「何があったんだ?聞かせてくれ。」

「ドクはもう知らない。」

 そのままドクの忠告を無視した。ドクは「お前には不幸が訪れる」研究室を勇足に出たジャクリンはそのまま、ラリーの家に向かった。ジャクリンはドクの研究室を退職したと言ってもいい。

 ラリーは温かくジャクリンを受け入れた。

「やあ、ジャクリン。調子はどうだい。」

「いいよ。もう昔の話なんだけど、僕らの話さ。口は何のためにあるかの話」

「それは...。何のことだい?」

「え?ラリーが昔話した話じゃないか?」

「昔...。」

 ラリーは冷や汗をかいている。「その話ってまさか。」ラリーの家にはドクの死体があった。「とある人物が双子だって話かい?」

「違うよ」とジャクリン。玄関越しに生臭い匂いがする。「この臭いは何だい?」

そのままラリーは拳銃でジャクリンを殺した。

ラリーは取調室で語る。「ドクは二人いたんだ。ドクとドク。もう一人のドクは僕の父親なんだ。だから、殺した。でも、実際双子だからよくわからないけどね。」

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