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短い変な小説「反対言葉」

ある夕暮れの午後、大学生のタカシは部屋の外を眺めながら誕生日にもらった紅茶を飲んでいた。少し苦いが味は申し分ない。

彼は自宅でとある女性を待っていた。
その女性はユリという名前で、一般教養の授業で知り合った仲のいい女友達の1人である。
「ごめんくださーい」ユリの声が聞こえた。
彼は玄関まで迎えに行った。

「私のあげた紅茶パック飲んでくれた?」
「うん、飲んだよ。美味しかった」

そんなたわいのない話を続けて10分後くらいだっただろうか、彼女が突然言った。

「実はね・・・私ずっとタカシくんが好きだったの」

「そうだったんだね」この突然の告白にタカシは驚かなかった。というのも、タカシはユリが自分の事を好きなのかもしれないと薄々勘付いていたからだ。
「僕には・・・」
僕には他に好きな人がいる、ごめん、付き合えないと言うつもりだった。

「僕には君しかいない。付き合おう」

彼女は笑顔で言った。
「本当に!とっても嬉しいわ。それなら早速、明日デートに行きましょう」
「いいね。明日はちょうど予定が空いているんだ」

タカシは驚愕した。自分の思いとは真逆の事を言っていたからだ。

「わかったわ。じゃあマイルズ公園集合ね。時間は10時ごろでいいわよね。じゃあ、また明日ね」
彼女は上機嫌に帰っていった。

彼女が去った後、タカシは自分の身に何が起きているのかを真剣に考えた。彼女に対して恋愛感情は全くない。別に好意を寄せている人だっている・・・
タカシは長らく考えたが、この気持ちと反対のことを言ってしまう謎の症状について納得のいく結論は出なかった。
「今日は疲れていたんだ。明日になれば治ってる筈だ。また明日、断りの返事をしよう」

しかしながら、次の日も治っていなかった。
デート後、帰宅途中のタカシは、どうして気持ちと反対の言葉を言ってしまうんだと考えた。が、もちろん結論は出なかった。
しかし、これからどう行動するかは考えついた。
彼女を好きになるのだ。そうすれば彼女と別れることができる・・・


次の日もデートの予定を入れていたタカシは彼女のいいところを探すのに必死になった。実際、彼女のルックスは悪くない。笑顔は人懐っこく、元友達だけあって話もよく合う。
タカシはだんだん彼女を好きになっていった。

彼女と付き合って2ヶ月経った頃だっただろうか。
デートの帰り道でタカシは言った。「俺は君のことが好きではなくなってしまった。もうこれ以上付き合えない」

タカシの念願の言葉であった。しかし、タカシはその言葉にとても動揺した。彼は彼女のことを好きになっていたからだ。

本当は大好きなのに・・・
タカシは彼女に好きという感情を伝えられず、涙を流した。この謎の症状は涙までは止められなかったのである。

彼女はタカシの突然の告白を聞いて涙を流して言った。
「やっと好きになってくれたのね。紅茶に入れた薬が少ないかなって心配してたの」


彼女は嬉し涙を流しながらタカシの唇にそっとキスをした。

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