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田舎の人がお金を使わないのは、使うところがないからではなく、使いたくないからだ

 今住んでいるところは、カナメの実家のミニビルのワンフロアである。かつてはテナントさんも入っていたが、2年前に帰国した際には廃墟ビルとなっていた。

大阪生まれの大阪育ちで、常に都会でしか生活をしたことがなかった私。管理が行き届いていなくて使われていなかった廃墟ビルでも、リノベしたら色々と使えるんじゃないかと思い込んでいた。

地方小都市に住むようになって2年以上が経ち色々なことがわかってきた。表から見ていても全く分からないが、地元の人たちの貯蓄額がすごいのである。

都会の人から見ると、地方には高所得な仕事の選択肢があまりないのでそれほど収入は多くなく、日々慎ましやかに生活しているんだろうなと想像しがちである。慎ましやかに生活しているという意味は、「所得が少ないから贅沢できないのね」という感じである。羨ましいなどと一切思わず、都会に暮らす自分が圧倒的に勝ち組だという認識を1ミリも疑わないことだろう。

田舎の人がすっごいお金を貯め込んでいるのにそれを使わないのは、使う場所がないからだ

という仮説を立てた。

この田舎に財布のヒモを思わず緩めてしまうようなサービスや商品があったら、それは爆発的に売れるんじゃないか?

と思ったのだ。

つまり空いているテナントフロアで、そういう富裕層に向けた何らかのビジネスを自分たちがするか、または誘致すればいいんじゃないかと考え、カナメに何度もアイデアをぶつけたのだが、しかし。

カナメ「それ、誰が買うねん。」

私「えええええ、お金持ちさんがいっぱいいてはるやん!使うところがないんだから絶対流行るって!」

カナメ「そんなん買うお金あるかい。どこにそんな金持ちがいるねん。」

ここで私とカナメは、お互いに別の間違いをしていた。

カナメは、こちらの人たちの一般的なお財布事情を全く分かっていなかったのだ。海外の超ド級富裕層を見てきた彼は、日本の地方小都市の人たちの所得額を想像して、勝手に「大した資産などないだろう」と思い込んでいたわけだ。確かに香港にいるIT系中国人創業社長の資産レベルと同等のわけはないが、日本の平均的な貯蓄額からすると、上層グループに食い込むほどに貯め込んでいるのだ。

私の間違いは後述する。

私はせっせとカナメに説明をしてみた。

1、夫婦は基本ダブルインカムである。
2、じじばばが近所で子守りをするので、子供が何人いようと女性も間違いなく正社員である。
3、不動産の取得コストは親が出すので、負担ゼロ。
4、その結果、二階(または三階)建て年金を夫婦でそれぞれ受け取るので、老後も貯金額が増えまくる。
5、富裕層が派手にお金を使える場所がそもそもないので、貯金が減らない。
6、基本的に見栄を張らないお土地柄。
7、結婚するまでは実家で生活して、若いうちから貯金に勤しむ。

その結果、貯金額がすごいことになっているのだ。だからカナメのイメージと実際は大きく乖離している。

こんな記事を見つけた。こちらでは実家住まいの20代の女性なら、この記事に出てくる平均貯蓄額くらい貯めていたりするのだ。月収の半分以上を貯金に回すと、これくらい軽く行ってしまう。

私の間違いは、「彼ら彼女らは、田舎にはお金を使うところがないから結果として貯まってしまった」と思い込んでいたこと。

こちらの知人にも富裕層向けのビジネスはどうかと聞いてみたことがあったのだが、その人も「うちの両親を見てると、ほんっとにお金を使わないんですよね。なぜかというと、ただただお金を使いたくないというか。理由はないけど使わない。貯金を減らしたくないのかな。だからそういうものがあっても買わないかなぁ。」と言っていた。

また別の人にも聞いてみた。

「こちらの人はとにかく貯金が好き。で、その貯金を投資にまわそうとか、そういうことも一切ない。米国株を買うとか外貨にするとか、そんなこと一切考えてない。リスクのあるものは嫌うというか。でもなぜか農協だけは信じていて、農協の金融商品にお金を入れたりはするし、なんなら子供に農協への就職を勧めるくらい。農協が最強やと思ってる。」

円で持っているとか農協が最強とか、私が見ている世界線と違いすぎて驚く。

「ただ、そのお金をどうするかというと、子供に家を買ってあげるのにバーンと使う。私もそうやって親に家を建ててもらったから、今度は自分が子供たちに家を持たせてあげられるのかと思うと不安で不安で。だから贅沢してパーっとお金を使おうなんて微塵も考えてなくて、ただただ貯金額を増やしたい。」

なるほど..........。

田舎の人がお金を使わないのは、使う場所がないからとか、使い方が分からないという理由ではなく、そもそも使う気がなく1円でも多く貯金したいからだ。そして自分の子供の家を建ててあげたいと思っているからだ。そしてその価値観が、祖父母の代、親の代、子供の代までずっと続いているから、ポンポンと無理な出費をしてしまったり、見栄を張って不必要なものを購入したりすることがないのだ。その結果、当然の様に貯金額が膨れ上がっているにもかかわらず、それが消費に流れ込んだりしないのである。

私自身はバブル真っ只中で「24時間戦えますか」ムードの中でドーンと稼ぎ、海外にも行き、バンバン消費に使うという世界も経験した。そうやって経済が回るんだろうなぁと漫然と思っていたのだが、田舎の堅実な生き方を見ていると、「それでは経済が回らない」とか「それは正しい生き方ではない」とは思わなくなってきたのだ。だって人間の生き方としては、そちらの方が正しいというか仏教的ですらある。

自分のやるべき本分から逃げずに淡々と仕事をし、必要以上の消費はせずに、そのお金を自分自身ではなく子孫のため、利他的に使うことのどこが間違っているというのか、と思うようになったのだ。

ということで、我が家のテナント部分はビジネスに使わず、粛々と家庭内で有意義に使えるように、お金をかけずに細々とDIYリノベしていこうかなと思うようになった。

田舎の人がお金を使う気がないなら、地元の人を対象にしたビジネスも、エアビー物件にリノベすることもペイしないという結論に落ち着いた。

田舎の女性はしっかりしているなと感心する気持ちが強くなっていて、思わず口走った。

私「地方の女性ってしっかりしてるよね。自分で稼いだお金を自分に使わずに子供の不動産のために貯蓄してるなんて。そのためにデフォで働くというメンタリティがあるやん。都会の専業主婦のメンタリティたるや.........。」

カナメ「言いたいことは分かるけど、それは一面しか見てないよね。なんでこっちの人が子供に家を買ってあげるか分かる?」

私「それは、自分が親からして貰ったからでしょ。自分はそれに感謝をしているから、それを子供にもしてあげたいと......。」

カナメ「じゃぁ、お前はそれを喜ぶ?甘いな。その究極の目的は『自分と一緒に住んでほしい、自分の老後を見てほしい』、要するに自分のためなんだよ。お前、そんなので家もらって嬉しい?」

私「あっ..........。」

カナメ「俺は大学生の頃に、親に県庁や市役所に就職しろって言われてきたから分かるんだけど、そういうことだよ。結局は、家を買ってやるから帰ってこい、ここにいろってことで。だからオレは絶対に大学は都会に行きたかったし。」

私「なるほど........。」

私は生まれも育ちも都会だったから、田舎の人がわざわざ都会に出たがる気持ちが全然分からなかったのだが、そういう背景があったのか。ちなみに住んでいるエリア以前に、私の親は子供の進路について何のアドバイスもなかったので、自分で勝手に自分の好きなように決めちゃった。でも友人達はそうではなかった。親に強要されて何年も浪人して医学部に入った子もいたし、女の子には四年制大学は不要と父親に言われて泣く泣く(本当に泣いてたよ....)短大に行った子もいたからなぁ。

うちが自由すぎたのかな?

さて、話はここで終わらない。

カナメは私と同世代で、バブル景気のど真ん中で就職した。日本の「失われた○年」という時期の要所要所で、発展なうの海外にいたのでよく分かっていなかったのかもしれないが、帰国後、日本の若者たちの「将来に対する希望のなさ」に驚くとともに、この状況では希望なんて持てないという気持ちは容易に理解できた。

その状況において、田舎では、職業の選択肢は少ないが、住む家(しかもかなり広い新築戸建て)を与えられたり、実家に継ぐべき家業があったりもする。切り開ける未来が容易に想像できたり、希望の持てる時代ならいざ知らず、真面目に働いても家一軒建てられないことが確定しているような状況なら、「家を建ててやるから田舎に帰って来い」という提案が魅力的に映るようになってきているのだ。

一度は都会に就職したり、実家の家業とは関係のない仕事に就いていたが、理由は色々あれど職を失い、実家に戻って家業を継ぐようになった、または実家のツテで再就職したという人を、私の周囲にもちらほら見かけるようになった。まぁこういう人はいつの時代もいたとは思うのだが、彼らの現在が不幸に見えないどころが、気心の知れた親や親戚の下で働くことの気楽さを大いに享受しているようにしか見えないのだ。そして今時の親の世代は、みんなそこそこ寛容だ。

その親側の人の方と話す機会が多いので分かるのだが、今時の親の世代は、本当に子供達に戻ってきて欲しかったのかというと、そういうわけではないのだ。職のない子供が心配で、なんとか自分の生きているうちに手に職をつけさせたいと思っているだけだったりするのよね。

私が若い頃は、実家の家業を継げと言われているという友人がいたら、その本人も辛そうにそれを語るし、周囲も「かわいそうだよね.....」という雰囲気だったのが、今では「実家に家業があるなんて羨ましい.....」というご時世になってきたのだ。

ちなみに見栄っ張りは少ないし、貯蓄額をチャラチャラとひけらかすこともないお土地柄であるが、マウントするポイントが一点だけある。

それは、子供の学校歴である(汗)。

子供が都会のトップ国立大学や医学部に合格すると、天下を取ったも同然のポジションに躍り出る。

そのため、人口規模に比べて塾の数が多い........orz

うちのビルのテナントフロアも、英語塾ならペイするかな?w

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