第一回:ウェルビーイングって何なの?
こんにちは、ウェル・ラボラトリーズの金子迪大です。
今回は第一回目の記事なので、ウェルビーイングって何なの?という話をしたいと思います。
はじめに
あなたはウェルビーイングという言葉を聞いたことがありますか?この記事を読んでいるということは言葉自体は聞いたことがあるかもしれません。日本語では幸福という言葉が最も近いと思います。でも、ウェルビーイングにせよ幸福にせよ、よく分からないという方が多いのではないでしょうか。私自身、ウェルビーイングを理解するには何年もの時間がかかりました。特に私がウェルビーイングに興味を持ち始めた2010年頃は日本語で読める文献は稀でしたし、英語でも概念整理が出来ているとは言えない状態でした。
最初に答えを言ってしまうと、ウェルビーイングとは「その人にとって善いこと」です。その人、つまりあなたにとってのウェルビーイングは「あなたにとって善いこと」ですし、あなたの友人Aさんにとってのウェルビーイングは「友人Aさんにとって善いこと」です。
では、「あなたにとって善いこと」とは何でしょうか?これから数回分の記事を通して説明していきますが、今回はこれまでウェルビーイングとして語られてきたものを参考にしながら概略を掴んでみましょう。
ウェルビーイングは沢山ある
日本ではウェルビーイングというと、20年ほど前のアメリカ心理学会会長でありポジティブ心理学運動の提唱者であるマーティン・セリグマン博士が提唱したPERMAが人気のようです。セリグマン博士によると、ポジティブな気持ち(Positive emotion)、物事に対する積極的な関わり(Engagement)、他者との良い関係(Relationship)、人生の意味(Meaning)、達成感(Accomplishment)の5つが大切だとされています。これらの頭文字を取って、PERMAと呼ばれます。確かに、楽しさや喜びなどの感情を嫌いな人は少ないでしょうし、物事に熱中している時間は充実感を与えてくれます。友達や家族、恋人、あるいは会社の同僚や上司、部下と良い関係を築きたいと思う人は大勢いるでしょう。人生を無意味に過ごすのに耐えられず、常に意味を求めている人もいるでしょうし、目標を達成するワクワク感が大好きな人も多いでしょう。
エド・ディーナー博士の主観的ウェルビーイングも有名です。心理学におけるウェルビーイング研究の礎を築いた人で、人生に満足し、ポジティブ感情をたくさん経験し、ネガティブ感情をあまり経験しないことがウェルビーイングであると提唱しています。
あるいは、日本の産業界ではあまりなじみが無いかもしれませんが、ウェルビーイングの研究業界では誰でも知っているものの中に、キャロル・リフ博士が提唱した心理的ウェルビーイング(Psychological well-being)があります。リフ博士によると、自分の善い部分も悪い部分も受け入れられること(Self-acceptance)、他者との良い関係(Positive relations with others)、自分で自分のことを決められること(Autonomy)、自分の周りの物事を制御できていること(Environmental mastery)、自分の人生に目的があること(Purpose in life)、成長している実感を持っていること(Personal growth)の6つが大切だとされています。
しかし、ウェルビーイングの探求は二千年以上前から行われており、紀元前の時代から「これこそがウェルビーイングだ!」という主張がされてきました。プラトンやアリストテレス、あるいは善い生き方という点では孔子や老子、仏陀の教えも挙げられます。あるいは各種の民間宗教から世界宗教まで善い生き方を説いています。私が友人の哲学研究者に聞いたところ、現代哲学では健康や知識、快楽、美、道徳性、社会性、正義、自由、平和、遊び、友情、達成、子どもを持ちよい親であること、最低限必要な物を手に入れられること、など様々なものがウェルビーイングだとして提案されているようです。
この他にも、研究業界では数十年前から人気だけれども日本の産業界では(誰も広めていないから)広まっていないウェルビーイングもたくさんあります。数年前の論文では、ウェルビーイングは63個もあるとされていました(が、私は100を超えていると思います)。
権威主義に陥らない
ここまで見てくると、「ウェルビーイングって結局何なの?」って混乱してきませんか。私はウェルビーイング研究を始めた当初混乱しました。
実はこれらは、提唱者が「これが人々にとって善いものだよね」と思ったものをウェルビーイングだと言っているにすぎません。別に「真実のウェルビーイング」を表している訳ではありません。言ってしまえば、どっかの誰かが勝手に「これこそがウェルビーイングである!」と言っているだけです。勿論、その人が言っていることが多くの人に共感されるからこそ受け入れられるものではあります。しかし、そのどこかの誰かが、たまたまアメリカの大学教授だったとか、ポジティブ心理学の創始者だったために権威があるといった理由で受け入れられることも多々あります。そういう権威に基づくウェルビーイングは数十年もすれば消え去るでしょうが、それまでの数十年は持て囃されます。困ったものです。
基本に立ち返る
様々なウェルビーイングを統合的に理解するためにはどうすれば良いのでしょうか。ここで、一度研究者や提唱者の視点に立ってみましょう。もしあなたがウェルビーイングとは○○である、と提唱するとしたら、その時に基準とするものは何でしょうか。それは、最初に伝えたように「その人にとって善いこと」ではないでしょうか。研究者や提唱者は、自分の知っている範囲の多くの人々にとって善いことを挙げようと頑張ってきました。人間一人ひとりを見て、その人たちに共通する善いことをウェルビーイングとして提唱してきたのです。
人は全員同じではない
しかし、あなたにとって善いことが友人Aさんにとって善いことであるという保証はありません。
たとえば健康はとても重要です。私も大切にしています。でも健康よりもその時々の快楽を優先する人もいます。タバコや深酒などの健康に良くない行為、高い建物や崖からパラシュートなしで飛び降りたりカーチェイスのような危険運転といった命がけの遊びを好んだりする人です。これらの人にとっても健康は善いことでしょう。しかし、それよりもはるかに善いことがあるため、相対的に健康はどうでも良いことになってしまいます。こういう人に「健康のためにあなたの行動を制限します。それがあなたのウェルビーイングを高めます」と言ったら怒り出すでしょう。
あるいは一匹狼のように他者との良い関係を築きたいと思わない人もいるでしょう。孤独を愛する、とまでは言わなくとも、他人と一緒にいることに苦痛を感じる人もいます。そのような人に「他者との関係性を善くしよう!さぁ、パーティに出かけよう!」と言ったらどうなるでしょう。これまた「余計なお世話だ」と怒り出してしまうでしょう。
喜びや楽しさなどのポジティブな気持ちですら拒否する人はいます。仏教の修行をしている人たちや、最近流行のマインドフルネスが好きな人たちだったら、「喜びも悲しみも両方から距離をおいてこそ生きる上での苦悩から解放される」と言って喜びを感じることを拒否するかもしれません。
個人的に興味深かったのが人生に満足することを拒む人たちです。まだ私が大学の学部生だったころ、友人に人生満足感について話したら「満足したらそこで終わりだから満足したくない」と話していました。主観的ウェルビーイングは研究的には大変盛り上がりかなり成功している概念ですが、これでさえも普遍的では無いのかと興味を抱きました。
このように、今残っている世界的に有名なウェルビーイングは多くの人に当てはまるかもしれませんが、一部の人には当てはまりません。その一部の人があなただったら、、、きっと「ウェルビーイングになりたくない!」と思うかもしれませんね。だって、あなたにはもっと大切なことがあるのですから。
ちなみに、世界的に有名なウェルビーイングだとしても、日本人に当てはまるかは別の問題です。たとえば、アメリカ人は自分に自信を持つことをウェルビーイングだと強く感じますが、日本人はそれほどでもありません。貧しい国々では金銭的に豊かであることがウェルビーイングになりやすいですが、豊かな国々では家族関係などの人間関係が良好であることがウェルビーイングになりやすいです。
まとめ
ここまで見てきたように、多くの研究者や実践家によって様々なウェルビーイングが提唱されています。しかし、そのウェルビーイングが必ずしもあなたにとって善いこととは限りません。だからこそ、「あなたにとって善いこと」という基本の軸をぶらさないようにして欲しいのです。誰かが言ったウェルビーイングを鵜呑みにすることはやめましょう。そして常に、「これって自分にとって善いことなの?」と問い続けてください。きっと、少しずつでも自分なりのウェルビーイングに気づくことが出来ると思います。その中には、「カレーを食べる」とか「ドライブする」などの個人の趣味嗜好に該当することもあるかもしれませんし、「世界のために役に立つ」のような崇高なこともあるかもしれません。あるいは先ほど話したように、人生の意味を感じたり何かを達成したりすることかもしれません。
あなたがウェルビーイングな人生を送れることを心から願っています。
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