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第二回:善いことの質と量~ウェルビーイング観とウェルビーイング度~

こんにちは、ウェル・ラボラトリーズの金子迪大です。
 
初回に、ウェルビーイングとは「あなたにとって善いこと」だという話を様々なウェルビーイングと呼ばれるものを具体的に例に出しながら行いました。そこでは説明しきれなかったことがたくさんあるので、ここから数回で考えていきましょう。
 
今回のテーマは「ウェルビーイング観」です。


ウェルビーイング観

初回では、マーティン・セリグマン博士やエド・ディーナー博士、キャロル・リフ博士、あるいは色々な哲学者の主張をざっくりと見ることで様々なウェルビーイングが提唱されていることを話しました。その上で、各種のウェルビーイングがあなたに当てはまるかどうかは分からないので「これって自分にとって善いことなの?」ということを問い続けて欲しいとお伝えました。
 
更に詳しく知るためには、ウェルビーイング観とウェルビーイング度を区別して理解する必要があります。
 
ウェルビーイング観は価値観と似ています。価値観とは個人や社会が持つ、何が重要であるか、何が望ましいとされるかに関する信念や基準のことを指します。同様にウェルビーイング観は何がウェルビーイングかに関する信念や基準のことです。
 
たとえば、AさんとBさんはふたりとも成長している実感があることがウェルビーイングであると考えているとします。この場合、ふたりのウェルビーイング観は一致しています。
一方、Xさんは健康をウェルビーイングだと考え、Yさんは友人関係が良好であることをウェルビーイングだと考えるかもしれません。この場合、何がウェルビーイングかという点で違いが存在します。つまり、XさんとYさんのウェルビーイング観は異なるのです。ウェルビーイング観はウェルビーイングに関する質的な違いを表します。

ウェルビーイング度

一方、ウェルビーイング度はウェルビーイングの高さを表します。ウェルビーイングポイントが10点、のように数字で考えるため量的なものです。普段皆さんが「私のウェルビーイングは高いor低い」とか「ウェルビーイングを高めましょう!」と言うときはウェルビーイング度について話していると考えてください。

再びAさんとBさんについて考えます。Aさんは成長している実感を強く持っていますが、Bさんはそのような実感をあまり持っていません。この場合、Aさんのウェルビーイング度はBさんのウェルビーイング度よりも高くなります。

つまり、ウェルビーイング観がどれだけ充足されているかによってウェルビーイング度は決まってくるのです。同じウェルビーイング観を持っている場合には、たくさん充足されている人ほどウェルビーイング度は高くなります。

ウェルビーイング観が違うとき

続いてXさんとYさんです。この人たちは異なるウェルビーイング観を持っているため、ウェルビーイング度については不思議なことが起こります。たとえば、Xさんは健康度が高いけれども友人関係は劣悪で、Yさんは健康度は低いけれども友人関係には恵まれているとします。この場合、XさんもYさんも自分のウェルビーイング観に合致しているものが充足され、合致していないものが充足されていないので、ウェルビーイング度は全体的に高いことが分かります。逆に、Xさんは健康度が低いけれども友人関係には恵まれている一方、Yさんは健康度が高いけれども友人関係は劣悪だとします。この場合はXさんもYさんも自分のウェルビーイング観に合致しているものが充足されず、合致していないものが充足されているので、ウェルビーイング度は低くなります。
 
では、XさんとYさんのどちらのウェルビーイング度が高いのでしょうか。言い換えれば、両者のウェルビーイング度をどのように比較すればよいのでしょうか。AさんとBさんのように共通のウェルビーイング観を持っていれば比較は容易ですが、XさんとYさんのように異なるウェルビーイング観を持っている場合は充足度だけで比較することは出来ません。
 
ウェルビーイング研究者はこの問題に対して部分的な回答を提示しています。たとえばエド・ディーナー博士は人生全体に対する満足感を測定したり、善いことが周りでたくさん起こっている指標としてポジティブ感情の総量を測定したり、悪いことがあまり起こっていない指標としてネガティブ感情の総量を測定することを勧めています。あるいは、ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン博士は瞬間ごとのウェルビーイングを全ての時間について足し合わせればよいとの発想の元、ポジティブ感情などの善さを追跡し続けることの重要性を説いています。一般的な方法としては「あなたは幸せですか?」というような、分かったような分からないような質問をすることで測定することもあります。これらのような方法は、全体的にウェルビーイングを測定する方法として知られています。
 
とはいえ、ディーナー博士にしてもカーネマン博士にしても、彼らが測定しているものが善いものを測定できているという前提をもって語っているところには注意が必要です。前回の記事で書いた様に、仏教の修行者やマインドフルネスの実践者などによってはポジティブ感情であっても感じること自体を拒否することがあるので、ディーナー博士やカーネマン博士の前提が満たされているのかは慎重に考える必要があります。
 
他のアイディアとしては、ディーナー博士が一時期推していた領域満足感(たとえば結婚満足感や収入満足感など)を用いる方法で、領域の重要度と満足感を掛け合わせる方法です。ウェルビーイング観と充足度という言葉を使って説明するならば、ウェルビーイング観と充足度を様々なウェルビーイング観について掛け合わせることでウェルビーイング度を計算する方法です。
 
たとえば数式で表すと、Xさんにとってウェルビーイング観が健康80%、友人関係20%で、充足度が健康10点、友人関係20点だとしたら、ウェルビーイング度は0.8×10+0.2×20=12、となるということです。

ウェルビーイング観理解の重要性

ウェルビーイング観とウェルビーイング度の違いを理解することが、ウェルビーイング理解にどのように役に立つのでしょうか。それは、ウェルビーイングが高いとか低いとかいうときに、質の違うウェルビーイングについて話をしている可能性を考えるように出来るということです。先ほどのAさんとBさんの間で、「俺のウェルビーイングは最近高いんだよ!」という発言に対し「僕もだよ!」という会話があったとします。この場合、ウェルビーイング観が一致しているからふたりとも同じ内容について会話をしていることが分かります。一方、XさんとYさんの間で同じような会話があった場合はどうでしょうか。二人ともウェルビーイングと言っても異なる内容について会話をしているので、Xさんが「やっぱり規則正しい生活がウェルビーイング(この場合は健康)に役立つよね!」と言っても、Bさんは「え?外に出かけることの方が重要じゃない?(友達に会えるから)」と言うかもしれません。ウェルビーイング観が異なっているためにすれ違いが起こっているのです。
 
これをもう少しわかりやすく言うと、甘いものが大好きな人が「最近美味しいものをたくさん食べられているんだ!やっぱり美味しいものを食べられるのは善いね!」といっているのを聞いた辛いもの好きな人が、「そうだよね、今度お土産に美味しいものを買っていくね!」というようなものです。甘いもの好きな人はこれを聞いて「やったー、ケーキかな、お饅頭かな、美味しい甘味を食べられるぞ!」と思ってウキウキしながら待っていると、何故かワサビ味のお土産を買って来られてがっかりしてしまいます。
 
ウェルビーイング観も同じです。ウェルビーイング観が異なればウェルビーイングを高める方法は異なります。良かれと思って他の人に勧めるものや行為が、必ずしもその人のウェルビーイングを高めるとは限りません。しかし、ウェルビーイングという善いものを高める手伝いをしていると思っている人は、相手に善いことを勧めているのに話を聞いてもらえなかったり無下に断られたりすると「せっかくあなたにとって善いことをしてあげているのに真面目に取り組まないとはどういうことだ!」と不機嫌になったり怒り出したりしてしまいます。これはウェルビーイング観の違いが原因です。己の欲せざるところ人に施すことなかれと言われますが、ウェルビーイング観の違いを考えると、相手の欲せざるところ相手に施すことなかれとなります。

時間経過によるウェルビーイング観の変化

ウェルビーイング観の違いは人による違いだけではありません。あなた自身も、これまでの人生でウェルビーイング観に違いが生じていることに気が付いていますか?たとえば、幼少期には何が善いものだったでしょうか。10代の頃、成人してから、働き出してから、それぞれ何が善いものだったでしょうか。あるいは結婚している人や子どもを持っている人は、結婚前や子供が出来る前とは善いと思える物事が変わっているかもしれません。さらに年月を重ね、たとえば仕事をリタイヤした後、あるいは身体の機能が徐々に衰えることで何を善いと考えるかが若い頃とは異なっている可能性があります。ここで、善いということを考えるのが難しければ欲しかったものとか、喜びを感じる対象と言い換えても構いません。人生のそれぞれのステージにおいて自分を取り巻く環境が変われば、何を善いものとみなすかというウェルビーイング観も変わるものです。
 
このことは、将来のウェルビーイングを予測したりコントロールするのが難しいことを示しています。自分はいつだって今の自分の考え方(きっとその人にとっては「常識」と呼べるもの)や自分を取り巻く環境を基準に物事を考えがちです。だから自分を取り巻く環境が変わることでウェルビーイング観が変わることをイメージするのは容易ではありません。今あなたが人生のウェルビーイングを高める決意をして、今のあなたにとって必要なもの、大切なものを獲得するべく30年かけるとするならば、そのときには獲得したものを善いものとは思えなくなってしまっているかもしれません。だからこそ、科学的知見に頼ったり、自分にとって変わらないものは何なのかを考えたり、今後の社会がどのように変わるから自分にとっての善さがどのように変わるのかというウェルビーイング観変化の予想をしたりしていくことも必要かもしれません。

まとめ

今回はウェルビーイング観とウェルビーイング度の違いを説明しました。ついついウェルビーイングを高めることを考えるとウェルビーイング度を高めることだけを考えがちですが、何がウェルビーイングなのか?を考えることの方が優先されるべきです。そうしないと、間違った方向に全力で走って行って辿り着いた先で「え、ここどこ?」と迷子になってしまいます。場合によっては「全然ウェルビーイングじゃないじゃん!ウェルビーイングなんて嫌い!」ということにもなりかねません。あなたにとって最適なウェルビーイングとは何でしょうか。是非一度考えてみてください。
 

あなたがウェルビーイングな人生を送れることを心から願っています。


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