【R18小説】追想便箱・回顧録 1

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 私の中のワタシは、由美という。
 SNSの中だけの、ワタシの名前。

 私が普通の女とは違うという事を自覚したのは高校の頃だった。
 いや、正直なところ小学校高学年の頃には「なんか違うかな?」くらいは意識の端っこに引っかかっていた。

 今更ながらに振り返れば、コミュニケーション能力の乏しかった私は、1人でも楽しめるアニメや漫画を好み、ハマった映画の原作小説にまで手を伸ばした事がキッカケで小説・ラノベなどを読み耽るような学生時代を送っていた。そんな自分の世界に入り浸ってばかりいる私に、友達という貴重な存在はごく僅かしか居なかった。

 しかしながら、それは表の私の事。

 ワタシは好奇心旺盛だが、それを表に出す事をヨシとしなかった。
 自分の股間に、おしっことうんちの「出口」があるのに、その中間にナニか入れられるくらいの「入り口」がある事に気付いた幼少期のワタシは、弄るワタシと、やめさせたい親の躾けとのイタチごっこを繰り返していたからだ。
 ほどなくしてワタシは親の裁縫道具箱から編み物用かぎ針をコッソリ盗み出して、自分の宝物のように大事に机の引き出しに隠し持つようになった。クレヨンより細くて丸みのある持ち手は、ワタシの身体の中を傷付けなくて済みそうだったから。なにより金色でスベスベした金属の冷たさが、子供だった当時のワタシには「宝物」に相応しかった。当然ながら、親の目を盗んでは指でいじってみたり、宝物であるかぎ針を自分で入れてみては「このくらいの深さがある」「角度を変えたらもっと深く入った」と、密かに好奇心を満たしていった。

 小学生の頃、学校の帰り道の外れで男子達がワーワーギャーギャーと騒がしかったので、釣られて近寄ってみると路上に捨ててあった雑誌が騒ぎの種だった。「性的好奇心」と、なんの捻りも無い出会い方をしたワタシだったけど、その内容はワタシに凄まじい衝撃を与えた。
 SMというアルファベットの読み方すら碌に知らないワタシの目に映ったのは、首輪をリードで引かれて上体を仰け反らせながら後背位で悦に浸る女性や、野外のフェンスに縄で拘束されて剥き出しの股間に異物を突き立てられる姿だった。

──こうやって過去を振り返るからこそ、ワタシはハッキリと断言できる。「ワタシの倫理観が壊れたのはこの瞬間だ」と──

 路上に打ち捨てられ、風に捲り上がったであろう見開きのページに描かれていた2枚の画を目にしたのは、一瞬…とまでは言わないものの、それ程長くも無い時間、おそらく数秒程度のように思う。犬のように首輪を掛けられリードはピンと張り女性の自由を奪っていたし、野外で半裸で、しかも信じられない太さの、紫色をしたナニカが股間に突き刺さっていた。ワタシの経験では指先程度しか入れた事のない場所に、一回りも二回りも太いモノが男性の手によって押し込まれていた。

 詳細も何もわからないし、その疑問を口に出す場でも無かったのだから、ここは周りのノリに合わせて「○○クンのえっちー!」とか言っておく事でやり過ごした。

 それから、ワタシの好奇心のベクトルが変わった。「深さ」から「太さ」に。
「被虐」と「野外」も好奇心をくすぐったのだが、当時のワタシは「被虐」という言葉を知らなかった。首輪を付けられて「まるで飼い主とペットだなぁ」と漠然と考えていたくらいなので、まだワタシの理解が追いついた「野外」に傾倒していった。

 人気の無い場所を見つけてはスカートを捲り上げ、パンツをズラして指を入れたり、キャンディの棒をお尻の穴に差し込んでみたりするようになった。少しずつ性的興奮を覚え始めたのもこの頃からだったはず。
 この頃でもワタシのコミュニケーション能力は変わらずに低いままだったので、自分のクラスで過ごす休み時間はほぼ読書をしていた事は変わらなかった。しかし、周りは違う。クラスメイト達の会話に猥談がしばしば混ざってきて、聞き耳を立てながらワタシは知識を吸収していった。「あの穴の中」の事を膣と呼ぶのは性教育の授業で習ったが、女性器そのものを「おまんこ」と呼ぶんだと知ったのは、この頃の事だ。
 ワタシは聞き耳を立ててるだけで「会話」をしてた訳では無かったので、得られる知識には間違いもわずかながらにあった。
 自慰行為は女性だと「オナ」で、男性だと「マス」、と認識してた。なぜか「オナ」のほうは動詞として「オナってる」「オナった」とか言うくせに、「マス」は「マスをかく」と言う。誰も「マスった」なんて言わないのだ。「かく」とは「欠く」「掻く」「覚」どう書くのだろうか?と疑問がついて回った。
 (もちろん、「マス」とはマスターベーションの略であり、男性のみならず女性にも使える単語だったなど、誤認識の数々は社会人になってほとんど矯正できたとワタシは思ってる)

 中学に上がってすぐに初潮を迎えてたワタシは、ほんっとうに女に生まれた自分を呪ってた。周りに比べるとワタシの生理は重かったんだと思う。フラフラな状態で送迎なしに学校を早退する事も出来ず、保健室で寝て過ごす日が増えていくのに反比例して当然のように成績は落ちていった。ワタシはあまり学校に行かなくなった。

 時間を持て余すようになった私は元々少ない自宅の本を読み尽くし、手元の教科書も繰り返し読んでしまった。担任が家庭訪問に来て期末テストの日程を伝えて来たのを、暗に「登校しろ」と解釈した私は、テストの結果をどの教科もクラスの上位1桁以内に収めた。
 答案用紙の返却の際、ある先生が「俺の授業を碌に出席してないコイツより点が取れないなんて情けない」と壇上で愚痴ったせいでクラスメイトから変に注目を集める事になった私は、その授業後に早退して以降、余計に登校しなくなった。
 両親はそんな私を受け入れてくれた。学校に行かなくなり自宅で自堕落な生活をしてると思い込んでた両親は、私がむしろ成績を伸ばした事で信頼を得る事に繋がったんだと思う。
 学校には休み時間を避けるように登校して図書室に直行し、本を借りたらすぐ帰るようになった。私は登校拒否であって引き篭りでは無いのだから。

 そうして、自由を得たワタシは少しずつ解放された。まずは共働きの両親が居ない間に自炊を覚えた。母が買ったであろう一般的な「家庭料理の本」と「作り置きオカズのレシピ本」は私の腕でも難なく調理が出来る内容だった。最初はもちろん自分の為にだったが、ある程度のレパートリーを身に付けた頃には家計の中の食費に関して任されるようになった。
 登下校では制服での外出を強いられたが、買い物という名目を得たワタシは散策がてら近所の人気のないスポットをチェックしていた。そして良さげな場所を見つけたら、後日にまとまった時間を作って「オナ」を楽しみに行くのだ。
 公園の、滑り台が据えてある小山のトンネル(土管)の中で。
 水が完全に干上がった用水路の橋の下に潜り込んで。
 近所のマンションの非常階段を登り切った、屋上への柵扉(もちろん施錠されていた)の前では思い切って全裸になった事もあった。「この柵に身体を縛り付けられて、おまんこに…」と、いつぞやの雑誌の1ページに思いを馳せながら一人で耽っていた。


 中学2年になる頃、近くの幹線道路沿いに小さ目ながら商業施設が出来た。商店街の主要な店舗が共同で出資したらしく、商店街に名を連ねる店舗のほとんどは築年数が数十年と経過した店舗を置き去りに、新しい商業施設へと移転していった。残されたのは寂れたシャッター街。
 しかし、ワタシにとっては格好のオナスポットだった。中を歩く人が全く居ない訳では無かったけれども、店舗と店舗の隙間にある細い通路に入ってしまえば旧商店街を歩くまばらな人達が路地を覗き見る事なんて一度もなかった。それでも念の為に、さらに奥の角をひとつ曲がると完全に姿を隠した気分だった。
 そうやって店舗の裏手に入り込むと、プロパンガスや雑物が詰まっているであろう箱が壁に沿って積み上げられていた。
 そんな中をいつものように散策していく。ワタシが気に留めた店舗は食事処だったようで、裏口の脇には瓶ビールの詰まった黄色い箱と、瓶ジュースの詰まった緑の箱が積み上げてあった。残念ながら中身は空瓶ばかりだったが。
 当然、裏口には鍵が掛かっていたけど、その横にある窓が少し開けてあった事にワタシは気付いてしまった。持ち前の好奇心がワタシを突き動かし、黄色い箱と緑の箱をなんとか階段状に積み上げる。そこからよじ登るようにして窓に手を掛け、カラカラと音を立てながらゆっくりと窓を開けて店内を覗き込んだ。都合の良い事にこの窓はちょうどシンク台の上にあった。
(この高さなら大丈夫)
と、窓から侵入したワタシはシンク台を降りて調理場に足を踏み入れた。

 店舗の表側は全面が擦りガラスの引き戸で、シャッターが閉まっている為暗がりになっているものの、長方形の狭い店舗(子供視線からすれば十分に広いが)で、側面の天井に近い高さに採光用の小さな窓が並んでいたので、昼間であれば気にならない薄暗さであった。
 大衆食堂のような印象の潰れた店舗。冒険心も好奇心も湧き立ち、ワタシは文字通りに小躍りして喜んだ。

 ワタシだけの秘密基地

 入り口のすぐ横には2つの長ベンチと空の本棚。ワタシはこのベンチをくっつけて並べて、得意げに簡易ベッドと命名した。

 長方形のテーブルには丸椅子が3脚×2対。
 そのテーブルセットが2セットあり、それとは別にカウンター席にも椅子が4脚並んでいた。
 全部で16脚の丸椅子は、背もたれの無い丸い座面に4本のスチール脚がついた簡素な椅子で、重ねて壁際へ寄せた。長方形のテーブルも同じように壁際へと寄せる事で、飲食ブースにそれなりの広さを確保出来た。この部屋はベースと命名する事にした。

 初日から高揚した気分のままに勝手に模様替えをして居たのだから、気が付けばだいぶ時間が経っていた。今日はそろそろ帰ろうと思いながら、最後にトイレをチェックする事にした。
 ベース(飲食ブース)と調理場の境い目あたりに小さな扉があり、わかりやすくトイレの札が掛けてあったので、その扉を開けて、足が竦み、「ヒッ!」と息を呑んだ。黒い点が密集して飛び回っている光景が目に飛び込んで来て、反射的に扉をバタン!と閉じた。
 水洗トイレも長期間放置されたせいで溜まり水が蒸発し切ってしまった為、下水管から…などという理屈もわからないワタシは、考える事をやめて慌てて秘密基地を脱出したのだった。




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