【R18小説】懸崖撒手 5

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「その、綾さんは大丈夫ですか…?」

 ひと組の男女がローテーブルを挟み、対峙して座っている。微かにタバコの香りをまとった祐也は、溜め息を吐きながら問いに答えた。

アヤあの馬鹿はとりあえず黙らせてきたから問題無いですよ、生多うたさん」

 駅前で初めて会った時から薄々思っていた事だが、とうやらこの緒方おのかたは話の語尾で相手の名前を呼ぶのが癖のようだ。姿勢良くソファに腰掛け、クイと中指で眼鏡も持ち上げるのもまた、癖なのだろう。
 こうして向かい合って改めて見てみれば、実に真面目で好印象の人物なのだが…
 与子ともこの視界の外で、綾との行為を考えれば、またこの人も『あちら側の人』のような気がするのだった。
 その祐也が、ゆっくりと口を開く。

「うちのアレが過度な面接をして申し訳ありませんでした。しかし、まぁ、こう言う言い方で悪いんですが、全部が全部悪いとも言えないのが、この業界の特徴でもあるんですが…」

 与子は顔を赤らめながら、黙ってコクンと頷きを返す。

「流石に覗きまではしてませんが、それでも音は筒抜けだったのでご勘弁下さい、生多さん。
 …なので、ここからの話は事務的にお話させてもらいます」

 「事務的に」と言われたので、与子もとりあえず先程までの秘め事で緩んでいた気を引き締め、膝の上に置いていた手でギュッと拳を掴んだ。

「…まず、面接の合否という意味では『条件付き合格』と結論が出せます。容姿もよく、行為中であってもあれだけ言葉を出せるのであれば、企画モノでも十分な対応が見込めます。しかし、ウチとしても売れるモノを作らないのいけないので、ノーマルな内容では『条件に合わない』と言う事になるのです。これは、ご理解頂きたい」

 与子は黙って俯き、視線をローテーブルへ落とした。祐也は構わずに話を進める。

「事がこんな事態に発展してしまったので、正直なところを申し上げます。最初は、私は採用に反対してました。ココはAVを作る場所であって、本来なら生多さんの願望を叶える場ではありません。しかし、生多さんが抑圧された環境に身を置いていて、内に強く秘めてる気持ちも察しがつきます。それは制作現場側の都合としても求める方向性に合致する内容になります。
 一言で言えば『過激さ』です」

 自然と、与子の握りしめる拳が力強さを増した。

「私達が製作するAVというものは、非現実なモノであればある程に、特定のファンがついてきます。それはネットの口コミであったり、掲示板の書き込みであったりします。極論ですが、例えば「可愛い」と評される事の少ない女優さんであっても、過激さをウリにする事で根強いファンを獲得している方も居ます。
 生多さんは十分に平均以上の容姿を持ち、つ、内には“秘めた強い願望”を持ってるように感じました。
 …撮影内容はこれから詰めていく事になりますが『本格モノ』になる事はこの際明言しておきましょう。その上で、生多さんの願望に沿うカタチで撮影してみませんか?」


 ゾクリと肌があわ立つ。
 今、この人は何と言ったか。
 前提として既に「本格モノ」だと言う。つまりは男性器で身体からだを貫かれるという事だ。この時点で既に過激な部類に片足を突っ込んでいる上に「私の願望に沿う」と言う。

「思い悩む事は無いのですが…気持ちに整理を付けたいですか?」

 わからない。私は確かにナニカを望んでいる。
 それは、行為に溺れたいという、ナニカ。
 あまりに漠然としたソレを、願望として言語化する事がうまくいかない。

「それでは、私の質問にイエスかノーで答えてみてください」

 緒方おのかたさんが、煮え切らない私の様子に助け舟を出してくれるようだ。私のナニカとは何なのか。内に秘めてるのはわかっているのに、アウトプット言葉にして表現が出来ないでいる私は、静かに頷き肯定の意を示した。

「まず、ノーマルなAVでの出演では物足りないと感じている?」

 最初の質問から、随分と踏み込んで来る。
 たっぷり10秒ほど時間をかけて、「…イエスです」と返答した。

「与える事よりも、受け止める事の方が、自分の願望に近いか?」
 気持ちよくなりたい、「もっと」が言えないのに…言いたかった私は…確かにナニカを欲しがって居たハズだ。

「…イエス」

 緒方さんが、腕を組んだ姿勢でうーんと唸る。言葉を選んでいるのだろうか…

「…レイプ、に対しては、否定的…かな?」

「…はい、イエス。…いや、どうでしょうか…」
 正直、痛いのは嫌だ。好まない男性に身を委ねるのも。でも…そんな相手であっても、犯されてる私は悦んでしまうのではないだろうか?

「では、調教、だとどうでしょうか?」

「調教、ですか?」

「淫らな自分を晒け出せるように、快楽を押し付けられる。いわゆる、SMプレイの1つですね」

 確かに、私は自分の望みをはっきりと声に出すのは苦手だ。そんな自分のことも嫌いだ。そんな私が、本当の自分を曝け出せるのだろうか?

「正直、怖さもありますが…曝け出せるようになりたいと言うより、引き出してもらいたい気持ちの方が強い…と思います…」

「では、そこのところをもう少し詰めてみましょうか。先程、レイプについて聞いたら迷った返事でしたが、どんな事を迷ってましたか?」

 迷う。そもそも私はレイプに遭った事は無いからイメージでしかわからない。いきなり捕まって、連れ去られて、叩かれたり殴られたりして…抵抗しても無駄だと脅されて渋々犯されて…

「はい、今考えた事、言葉にしながら一緒に考えましょうか、生多さん?」

 とても恥ずかしい。しかし、そうしないと話が進まない事もわかっている。気が付けば握りしめた手に汗をかいていた。

「その…突然連れ去られたりして、抵抗したら暴力を振るわれて…抵抗しても無駄なんだって。痛い思いをするのは嫌だし、怖いです。それでも…犯され始めたら…私は気持ちよくなっちゃうのかな?って思うと、迷いました…」
「そうですね、痛いし怖い思いをするのは誰でも嫌だと思います。そうやって言葉にしてくれると、私達も嫌な事を押し付けなくて済むので助かりますよ、生多さん」

 緒方さんがそう言って、ニコリと笑ってくれた。

「こんな事考えてるって、私って変態じゃないですか…軽蔑しませんか…?」

 緒方さんは笑みを崩す事なく「そんな事無いですよ」と即答してくれた。

「んー、誤解なく聞いて欲しいんですが、差別とかではなくて個体差。男女の違いの話です。
 もう、構造上と言いますか…どうしても男性は射精を望みます。与える行為です。
 対して女性は受精する事で妊娠しますよね?受け取る行為です。理性では欲しくないと思う相手から押し付けられる行為がレイプですが、本能では受け取りたいと望んでしまうのが性欲ですから、一緒に考えると倒錯してしまうんです。よくある話ですからね。
 もしもその相手が好ましい相手であれば、抵抗もしないから暴力も必要無くなる。すると、犯される行為が残ります。和姦になりますが、どちらも犯されてますよね?」

「そう…ですね…」

「つまり、暴力や恐怖と性欲を天秤に掛けた時、それらが釣り合ってしまったから迷ってしまったのではないでしょうか、生多さん?」

 そう言われると、そうだとも思えてくる。緒方さんは、私の中のモヤモヤを一度分解して、一つ一つを精査し、解析するようにわかりやすく説明をしてくれた…ように思う。少しずつ、ゆっくりと緒方さんの言葉が私の腑に落ちてくる。それは、こんなにも嬉しいものなんだと。私はいつの間にか握りしめた拳を緩めていた。

「そっか…そうですよね。はい、たぶん緒方さんの言う通りだと思います」

 緒方さんも、その返事を聞いてゆっくり微笑んでくれた。

「さて、これで「痛い」と「怖い」はなるべく無しの方向性が見えてきましたね。では、どこで過激さを演出するか…になりますが」

 やはり、緒方さんはうーんと唸る。
 私からも何か言うべきだろうか?
 緒方さんばかりに考えさせるのが申し訳なく感じてしまう。でも、なら何を言うべきかとなると、やはり私はアウトプットが苦手なんだと再認識するばかり…。

「えーと、即興で思い付いた事を言います。拷問というシュチュエーションはどうでしょうか?」

「はい…?」

 緒方さんがまたもメガネをクィと中指で持ち上げながら、言葉を続けた。

「ああ、痛い事は無しですが、演技として少し怖いシュチュエーションにはなってしまいますね。
生多さんは…そうですね、仮にスパイという役になってもらうとしましょう。それで、私達があなたの秘密を聞き出す為に拘束し、色々といやらしい事を仕掛けます。生多さんはそれにひたすら耐えてもらう事になります。
 もう一度言いますが、痛い事は基本的に無しです。なので、はりつけにして抵抗は封じますが、愛撫や手淫しゅいん、イラマチオ、玩具などの異物挿入などで様々にエッチな事をします。何度イッてもらっても構いません。ただ、「そろそろ口を割ったらどうだ?」と詰め寄られても言葉だけで反抗して下さい。生多さんが頑張って反抗する限り、こちらも色々と気持ち良くさせましょう。
 その上で、生多さんが我慢の限界を迎えるか、AVの作成に十分な撮れ高とれだかを得られれば「もう十分だな、もうお前は用済みだ」と言う事になり、悪の組織の部下にくれてやる、と言う展開にします。生多さんにとっては、下っ端連中の役を担う男優スタッフに、散々イカされた身体を輪姦りんかんされるご褒美タイム…と言ったところでしょうか?拷問プレイで限界まで耐え切った敏感な身体のままで、複数のスタッフの慰み者になってもらいます。…まぁ、あくまで演出でしかありませんので、中出しとかは擬似性液を使用します。
 さて、いかがでしょう…?」


 時刻は13時を少し回ったところで、デリバリーのピザやサンドイッチ、チキンナゲットやジュース類などが並ぶテーブルを皆で囲っていた。
 皆、というのは、今日撮影の為に集まっていたスタッフ達も含めての事だ。
「さて、みんなしっかり食べて鋭気を養ってもらうっスよ!いっただっきまーぁあうあいてぇえっ!」
 綾がぴょんぴょん飛び跳ね、祐也がジトリと睨み、周りのスタッフはいつもの事だと笑い合う。
「勝手に仕切るな、アヤ。
 さて、久々に撮影となりました。皆さん今日は集まっていただきありがとうございます。
 本日は新規でデビューされる、こちらの愛菜まなさんの撮影になりますのでみなさんよろしくお願いしますね」
 愛菜まなと紹介されたが、もちろん与子ともこの事だ。身バレ防止も兼ねて芸名を持つ事になったのである。与子は祐也に促されて「初めまして、愛菜まなと言います。まだ呼ばれ慣れてなくて恥ずかしいのですが…みなさん、よろしくお願いします」と、挨拶をした。
「と言うことで、スタッフの自己紹介などは食べながらにしましょう。みなさんグラスは用意出来てますか?」
「はーい」と皆が返事をして片手にジュースで満たされたグラスを掲げる。
「では、アヤでは無いですが。しっかり食べて鋭気を養いましょう!かんぱーい!」
「「かんぱーい!」」

 簡易的だが昼食会を開いてもらい、綾や祐也以外のスタッフとの顔合わせになった。
 これからの撮影の事を考えると気持ちが落ち着かないのもあるが、スタッフ同士は皆楽しそうに談笑している。
 それを遠巻きに眺めるように与子もチキンをつまんでいたが、早速とばかりに綾が絡んできた。
「とも…じゃなかった、愛菜まなちゃん。これからヒィヒィ言わされるんだからしっかり食べとかないと身体がもたないっスよー?」
 言って、ニカッと笑う綾。
「そうかもですけど、そんな一度に沢山は食べれませんよ?」
 与子もだいぶ砕けた調子で綾に返事をした。
「んじゃ、少しばかりスタッフも紹介してみるっスかね〜。まずは、あっちに固まってる男性陣が男優さん達っス」
 綾がその彼らに手招きをし、男性陣が集まってきた。
「さ、自己紹介タイムっスよ?それぞれよろしくっス!」
 真っ先に前に出てきたのは40代くらいの男性だった。
「愛菜さん、初めまして。えーと、梅田って芸名ですが次の撮影にも呼ばれるかわからないので気が向いたら覚えてみてください」
 そう言ってあっはっはと笑った。
 笑う梅田を押しけるように、今度は20代くらいの男性が前に出てくる。
「この人はオッサンて呼べば振り向くから大丈夫だよ!俺はコージって言います。あとでいっぱいヒィヒィ言わせてあげるんで楽しみにしててね!」
 っとウインクをするが、またも別の男性がコージを押し除けて前に出て来た。
「初めまして、俺はシンイチです。愛菜さんのような素敵な方との撮影なので、俺も頑張りますね!」
「まてまて、そんなガッツかなくても愛菜ちゃんは逃げないだろ?俺は小鳥遊たかなしって言うんだ。コイツらよりはでっかいから、最後にお相手させてもらう事になると思うよ?いっぱい楽しませてあげるね!」
 シンイチは「なにおぅ?お前のはデカ過ぎて前の子なんか泣いてただろ!」と突っかかり、小鳥遊も「お前はすぐにイキそうになるからほぐしが足りないんだよ!」と応戦する。
「まぁまぁ、落ち着いて…」と宥めるのはコージだ。
「ほら、いきなりいっぺんに言うと愛菜ちゃんもこんがらがるっスよ!」と、綾。
 与子は改めて、梅田・コージ・シンイチ・小鳥遊の4人と順番に握手を交わした。
 4人が離れていくと、綾がテーブルから持って来たサンドイッチを勧めてくれた。
「挨拶ばかりしてたら食べる物が無くなっちゃうっスからね!はい、どーぞっス!」
与子は勧められたソレを手に取り「綾さん、ありがとうございます」とお礼を述べるが「そろそろ口調も砕けてもらいたいっスよ?これでもウチの方がちょい年下っスから!」と、ケラケラ笑う。
「じゃあ…綾ちゃん、で良いのかな?ありがとう」
 そう言って、あむっとサンドイッチを口にした。

「初めましてです。私はメイク担当で翔子しょうこと言います。えっと、衣装とかヘアメイクとかも色々やりますのでよろしくお願いしますね」
 翔子しょうこさんはそう言って手を差し出して来たので、与子も挨拶を交わす。
「初めてって事ですので緊張してますよね〜?でも撮影始まっちゃったら、後は勢いですから。心配する事は無いですよ?私達がちゃんとサポートしますからね?」
 そう言って「ふふっ」と優しく笑ってくれた。
 年も近そうな翔子は、なんだか与子には特に可愛く見えてしまう。なんでこんな人が、こんな仕事を…?と、気になるところではあるが、こんな場所だからこそ聞くのが躊躇ためらわれる。
「翔子ちゃんは事務所ウチのマスコットっスよ。可愛いし気が利くし、理想のお姉さんっス!いっぱい甘えて良いっスからね!」
 綾が言うなり翔子に抱きついて、胸の谷間に頬擦りをしている。翔子はされるがままで嫌がるどころか綾の頭を撫でながら受け止めていた。
「綾ちゃんは、今日はちゃんと監督のお仕事して下さいね?またオナニーばかりしてたらおやつ抜きにしますから」
「うわーっ!それは勘弁して欲しいっス!」
 綾がパッと離れる。「ちゃんと頑張るっスよ…」とポツリと呟いていた。
 もしかしたら翔子さんは、怒らせると怖い人かもしれない。なんて事を思う与子だった。

 その後も、音声担当さん、照明担当さんカメラ担当さん道具担当さんなどと挨拶を交わしながら食事会は進んでいった。
 一度の撮影でも、こんなに大勢の人と関わるんだという事を実感する。そんな中で、私はこれから…色々とエッチな事を…
 そう考えた途端、ぽんと肩を叩かれて振り返る。
 そこにはグラスを手にした祐也が立っていた。


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