見出し画像

【アーカイブ】夜の挿話2(雨)

夜中に雨の音で目が覚めた。
どしゃ降りの雨は遠慮もせず、ずかずかと眠りの中に入ってきて・・・、
寝ぼけた頭にそんなことがよぎった瞬間、僕はあわてて飛び起きた。
寝る前に、風を入れようと数センチほど窓を開けていたのを思い出した。
どおりで雨の音が大きいわけだ。
たった数センチの隙間でも雨の威力は凄まじく、カーテンと床は見事にびしょびしょだった。

窓を閉め、床を拭いてベッドに戻った。
さっきまでは、ザーッ、ダーッ、バーッ、ジャーッ、とあらゆる濁音が聞こえていたが、雨の音は、少しくぐもった音に変わった。
それはまるで、雨が体の表面を通り抜け、体の内側の壁に打ち付ける音みたいだった。
体の中が雨で満たされていく。
飲み終わった後のペットボトルを洗うように、体の中の汚れたものを洗い流してくれるかもしれない。
それとも、どんどん雨は体の中に溜まっていくのだろうか。

子どもの頃のことを思い出す。ベランダに広げた浅いビニールプールに体全体を浸けたくて、できるだけ平たくなって、体を動かすわけにもいかず、水面越しに空を見ていたことを。
眩しい空がゆらゆらと揺れ、すぐ近くで蝉の声がしていた。

枕元に置いた携帯電話に手を伸ばして時間を確認する。AM 4:32。
あと1時間もすれば、空は明るくなりはじめるだろう。
ついでに雨雲レーダーを確認する。
ちょうど今が雨のピークのようで、15分もしたら止むようだ。
15分後の未来を想像する。
雨の止んだこの部屋と、雨のピークをむかえる、急行で2つ先の駅の風景。
うまく想像できず、そのことに驚く。

この雨はもうすぐ止むけれど、今年の雨はもうしばらく続く。
頭は冴えてもう眠れそうもない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?