見出し画像

【書物】魅了という毒

ロマリアル中央大学教授 
オルガド・ラッシウム 著

「魅了」とは、生まれ持った才能の一つであり、その名の通り他者を魅了する恐ろしい能力である。

この能力を持つ者は、異性や同性を問わず、自らをより魅力的に見せることができ、その力は時に破壊的な影響を及ぼす。

この魅了の能力の起源は、始原祖「フィニス」にまで遡ると言われている。

フィニスは最初に性別の概念を得た存在であり、あらゆる能力の起源と到達点を司るとされている。
フィニスは全ての能力の祖であり、彼女の持つ能力の劣化版こそが、我々が今日、魔法や特殊能力として扱っているものである。

フィニスは生まれながらにして他の全ての命を魅了していた。
あらゆる生命を惹きつけてしまうこの魅了の能力は、彼女にとって当初から鬱陶しいものだった。
そのため、彼女は別の能力を用いて、自らの魅了を遮断していたと伝えられている。

能力には、種族や遺伝で先天的に決まっているものの他に、神を含む”他者からの教示、譲渡”や、”修練や研究”によって後天的に得られる場合もある。

魅了については、多くの場合、偶然生まれ持った先天的な能力だが、転生者である「牛方若矢」のように何らかの形で後天的に付与されるケースも存在する。

魅了とは、自らをより魅力的に見せるスキルであり、その強さによって魅了度合いや対象範囲が変わる。

例えば、牛方若矢は男性・女性を問わずに自らを魅力的に見せることができ、特に恋愛経験が少なかったり好意を持っている対象がいなかったりする女性には非常に効果的に作用する。
若矢の戦闘能力の高さや武勇伝、異世界での珍しい話を活かした話術などがその魅了の効果を増幅させる。

彼が複数の女性と関係を持っているにもかかわらず、女性たちがそれを気にしていないのは、彼の魅了だけでなく、転生者で魔王討伐者という肩書きによるものが大きいのである。


一方で、魅了の能力が恐ろしい極致に達した例として、「魅了のハエ」がある。

このハエは魅了のスキルが振り切って生まれたため、同族のハエを魅了するだけでなく、その他の虫、動物、生物、命ある者たちを雌雄問わずに次々と魅了した。

高い魔力で他者からの能力干渉を常時遮断していた一部の魔術師、その魔術師たちに魔法で救われた者たち、神の加護を有する者たち、生物でない者たち、高位の生物たちを除くほぼ全ての生物は、なんとこのハエを巡って1年間も争い続けたのだ。


当然ながら、この能力を悪用する者も多く存在する。
しかし、魅了の能力を磨いてその力を高めることはできないとされている。

外見を磨いたり、内面を鍛えたりして魅力的に見えることは可能だが、それは魅了の能力が上がったわけではなく、努力によって魅力がアップしたということに他ならない。

先ほどの例を元に説明した場合、牛方若矢の魅了のレベルは既に決まっており、どれだけ努力しても「魅了のハエ」レベルに到達することはない、ということになる。


魅了と魅力は異なる概念である。
魅了を持たない者でも、自らを磨き、他人との関わりの中で魅力的に見えることで、魅了の能力を持つ者を超えるほどに他者を魅了することがある。

事実、世界三大美悪女として歴史に名を遺す「ソニア=マリー・フィストレーネ」「天華麗」「メフェルシェリスV世」は絶世の美女であり、多数の異性を魅了したが、3人とも魅了の能力は持っていなかったと伝えられている。

また、他者を魅了し手懐ける幻惑系の魔法も存在しているが、これは魔法によって相手の意思を捻じ曲げ、無理矢理精神を支配している状態であり、魅了の能力とは、仕組みが大きく異なる。
幻惑系の魔法は本人の意思と関係なく他者を魅了するものであり、その影響力は強制的かつ一時的とされている。

魅了という才能は、一見魅力的でありながら、その力の影響は計り知れないほど大きく、時に破壊的な結果をもたらす。

だからこそ、その能力を持つ者には大きな責任が伴い、その力をどう使うかが試されるのである。

よろしければサポートお願いします! いただいたサポートはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!