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勇気があれば……

美しい夏の日、初老の男性オジアスは、娘と彼女の娘である孫娘を連れてサバンナ観光ツアーに出かけました。
オジアスは地元では知らない者がいないほどに好かれ、信頼されていました。

しかし、彼の幸せな日常は一変します。

ガイドの素人案内のせいで、ライオンの群れに遭遇してしまったのです。

ガイドは一目散に逃げ出し、娘と孫娘の2人はライオンの群れに包囲されました。

オジアスは勇気を振り絞って助けに入ろうとしましたが、オスライオンの一吠えとこちらを睨むライオンの群れの瞳に恐怖を感じ、動けなくなってしまいました。

そして、ガイドが人々を連れて戻ってきたときには、2人は無残にも食い殺されていました。

この事件がオジアスの心に深い傷を残し、トラウマとして永遠に彼を苦しめることになります。

「あのとき勇気があれば……」と何度も思いましたが、それと同時にいかなる勇気があっても、あの咆哮と恐ろしい眼光の前には無意味だろうとも思ったのです。
それは生物としての本能で感じた圧倒的な恐怖でした。

それから数年後のある日、オジアスは街中で少女がなぶり殺しにされそうになっている場面に遭遇し、止めに入ろうと叫び声を上げます。
なんとその叫び声は、かつてのライオンの咆哮に酷似していました。
少女を痛めつけていた人々は恐怖のあまり逃げ出しましたが、目の前の少女もまた怯えていました。

オジアスは、少女を安心させるために髪を撫でようと伸ばしていた手を引っ込め、その場を後にしました。
オジアスは、少女の恐れる瞳に自分の姿がかつてのライオンに酷似していることに気付いたのです。

さらにその数年後、彼にとある組織から声が掛かります。
"もし大切な人たちを生き返らせたいのなら、お前のその力を貸せ"と。

その組織に力を貸したからといって、娘や孫娘が戻って来る保証はない。
しかし、オジアスの心はすでに決まっていたのでした。


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