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想像力で旅をする

2021.3.14追記:
noteを開いたらこの日記が下書きに残っていたので、そのままひっそり公開

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Twitterのハッシュタグで「想像力で旅をしよう」というのを見て、思い出した旅があったのでメモをしておきたくなった。

2017年の夏、私はフランスのToulouse(トゥールーズ)という街にいた。2013年から3年半所属していた「FabCafe」という、FabLabとロフトワークの出会いによって誕生したものづくりカフェのプロジェクトでの滞在だった。
FabCafeという場所を説明するのに、「カフェ」という一言では足りなさすぎるけれど、そのFabCafeのお仕事で3ヶ月ほど滞在し現地のパートナーと一緒に「コミュニティをどう作るか」を考えたり、サービスを開発したり、ワークショップを企画したりしていた。
(「何をしていたのか」については当時WIREDでレポートを書かせていただいたのでそちらを読んでいただけると嬉しいです。)

「想像力で旅」かあ、と思いながら何気なく"toulouse_photo"というフォルダを開いた。1枚ずつスペースキーを押してプレビューするのでは足りないくらいに、全てを思い出したくなってアイコンサイズをぐいっと拡大する。

同じタイミングで、ちょうどポートフォリオをまとめようと思っていたのでこのプロジェクトについても書いておこうと思った。「Art Direction」「Design」「Planning」などと、特に迷うことなくしていた各プロジェクトのジャンル分けだが、このToulouseでの生活はジャンル分けできなかった。

日々を過ごしているとふと、この景色とか、この光とか、この香りとかをきっとずっと忘れないんだろうなあと思うような瞬間がある。Toulouseで過ごした3ヶ月はそんな日々だったと思う。

今からの文章は、なんの脈絡もなく、思い出したことを思い出したままに書いたもので、読み返して文章を整えたりもしない。

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私は、現地のスペースを運営するリンチーの知人の「アンネ・マリー」というおばちゃんの家の敷地内にある小さなスタジオを借りて住んでいた。
アンネ・マリーの家は、庭でハーブや桃、いちごなどたくさんの植物を育てており、家の中にも川が流れているとっても不思議で素敵なおうちだった。スタジオは小さかったけれど、空間の使い方が気が利いていてとても居心地がよかった。

夜に部屋をノックをされて「近所のみんなと飲んでるんだけどそのかもおいで」と誘ってもらった飲み会(の究極におしゃれでchillなやつ)は、庭が暗すぎて誰の顔も見えなかったけれど、宇宙みたいな形の高級なスピーカー(名前は忘れた)から流れてくるやたらと質のいい音楽と、庭で積んだミントを入れたモヒートの香りを今でも思い出せる。

伝統的なお酒だといって勧めてもらった液体(名前は忘れた)は衝撃的な味で鳥肌がたった。どんどん注がれるのでこっそり庭の植物にあげた。あの日が暗すぎてよかった。

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朝はスタジオから職場の途中にあるパン屋さんでフランスパンを一本買ってから出勤する。お昼に食べようと思うのに、焼きたてがおいしすぎて到着するころには全部食べてしまっている。

FabCafeにつくと、みんなに順番にビズという挨拶をする。(ほっぺたどうしをチュッチュとあわせる挨拶)FabCafeと併設しているラボにはおじちゃんがたくさんいて、その挨拶がすごく大切なのでみんなに順番にしていると朝の1時間くらいはずっとほっぺを合わせていることになる。

Toulouseはエアバスという航空会社がある街でもあり、工学系の学生やエンジニアが多かった。この場所のFabCafeはいわゆる”ギーク”な場所で、プロフェッショナルなものづくりをする人やエンジニアが多かった。東京のFabCafeのように「コーヒーやスイーツを楽しむのと同じように、レーザーカッターや3Dプリンタを使ったものづくりを楽しめる」というようなカルチャーはなかった。

その「ものづくりの場」をもう少し市民に向けてオープンな場にするというのが今回のミッションのひとつでもあった。

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▲FabCafe Toulouseはこんな場所

私は、ものづくりは誰かのためだけのものではないと思っている。
FabCafe Toulouseのスタッフはあまりものを作らなかった。オーナーのリンチーはFabマシンを一度も自分で使ったことがなかった。
私が東京のFabCafeにいたときは、閉店後にスタッフで集まって新しい加工の実験をしたり、スタッフが無料で機材を使える「Staff FAB」という制度をふんだんに利用して、とにかくいつも何かを作っていたので、Toulouseのその状況にはとてもびっくりしたし、なんだか寂しかった。

以前取材をしていただいたキャリアハックでも話しているけれど、私は「一緒にプロジェクトを進めるメンバーがまずは一番楽しんでいる」ということを大切にしたいと思っている。

そのために、いくつか意識的にやってみたことがあった。

誰かが何かを作ったときには、できるだけ綺麗な写真を撮って公開する。
機材についてお客さんに聞かれたときにだけ対応していた、スタッフのAudrinaは毎日何か新しいものを作っては見せてくれるようになった。

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「綺麗な写真を撮ってくれるひと」みたいなイメージになったのか、カフェのバリスタがやたらとポーズを決めてくれるようになった。

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とにかく、つくる

フランス語もあまりわからないし、街のどこで素材が買えるのかもわからなかった頃、毎日ラボのゴミ捨て場から材料を拾ってはひとつずつ何かを作った。気づいた頃には、「そのかこれ使う?」とメンバーのみんなが素材を捨てずに集めておいてくれるようになった。そんな日々を繰り返していると、スタッフのストレージの中に、不要になった素材を集めておく「FabCafe」というカゴが生まれた。

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そうして日々いろんなものを作ってはみんなに見せる日々を繰り返して、ついに私はカフェの入り口に掲示板スペースをゲットした。(この場所は難易度 ★★★)

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この掲示板もゴミ箱から拾ってきた素材で作った。

ある日、常連さんのひとりのおじいちゃんが家から余っている革をたくさん持ってきてくれた。お礼にその革を使ってカードケースを作ってプレゼントした。おじいちゃんが描いた絵を彫刻してプレゼントしたらすごく喜んでくれた。

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おじいちゃんが革をたくさんくれたので、カードケースとスリッパを作るワークショップを企画した。この場所で初めて開催する初心者向けのワークショップだった。フランス語を教えてもらいながらチラシを作って、ゲットした掲示板に貼っておいたら、次の日に赤ペンがたくさん入ったチラシをおじちゃんが持ってきてくれた。「フランス人は文法の間違いに厳しいんだ」と言いながらぞくぞくと人が集まってきて、みんなでチラシの文言を考えてくれた。私は文言はなんでもよかったけど、その光景は嬉しかった。

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添削してくれた紙は、ペンが太すぎて読めなかった。

初めての開催だったので、「参加者が1人でもいたら最高」とリンチーと話していた。実際には定員が6人のところ9人が集まってしまい、ワークショップは2時間押し。東京でたくさんワークショップを開催していたけれど、流石にこんなに押したことは一度もない。やばすぎる〜〜と思いながら、「本当にごめん、次に加工できるから!もうすぐだからね!」と順番に謝りながら説明したが、フランスでは誰も気にしない。リンチーは「実は誰も来ないと思ってた」らしく、開催時間にお客さんが来ただけでびっくりしていた。笑

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私も自分用に、現地で使うメトロのカードとクレジットカード、小銭が入るケースを作って使っていた。(カードケースは、私も大好きなものづくりユニット「KULUSKA」さんのオープンソースプロジェクト)

スリッパのワークショップに参加してくれたエンジニアは、仕事で使うプロトタイプを作るためにレーザーカッターを毎日使用していたけれど「レーザーカッターでこんなものが作れるなんて考えたこともなかった」と話してくれた。マシンの利用用途は、使う人の想像力によって定義されるのだと感じた。

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ちなみにレーザーカッターは、加工する対象物との焦点距離がとても重要で、それがずれると焦げたりしてしまい綺麗に加工ができない。ある日、焦点距離をはかるためのツールがなくなってしまい困っていたところ、メンバーがすぐに計測ツールを作ってくれた。さすがMaker!頼もしいなーと思って使おうとしたら全部微妙に高さが違っていて微笑ましかった。

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フランス語はわからないけど、ソフトのUIは同じなのですぐにマシンにも慣れた。レーザー用の素材を買いにくるお客さんと会話をすることが多かったので、私が最初に覚えたフランス語はダンボールやアクリルなどの素材名だった。(あとはレストランでステーキをミディアムレアで頼む時の会話)

欲しいものはつくる

リンチーは、FabCafeに飾る大きなランプシェードを探していた。インテリアショップに一緒に見に行ったけど、気に入ったものが無かったようで買わずに帰った。「どんなものを探してるの?」と聞くとPinterestで理想のランプシェードを見せてくれた。それは、麻紐でできた丸いランプシェードだった。DIYサイトで風船に麻紐を巻きつけて作るランプシェードを見たことがあったので、「それ作れるよ、作ろうよ!」ということで次の日に麻紐と、麻紐を赤くする染料を一緒に買いにいった。
IllustratorとFusion360をリンチーのMacBookに入れて、毎日ソフトの使い方を覚える時間を作った。リンチーが、Illustratorのペンツールを思ったように使えず、意図していなかった曲線ができてしまい、試しに回転させてみたら蜂の巣みたいな形になった。リンチーがその形を気に入り、プーさんみたいだからと「ランプー」という名前になった。

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なかなか大きいので、 作っているうちにいろんな人が手伝ってくれた。
ボンドを混ぜた麻紐を乾燥させてから、中の型を取り除く工程があるのだけれど、乾燥に時間がかかり帰国に間に合わなかった。飾られるところが見られれば最高だったけど、リンチーを手伝ってくれる仲間ができたので心残りもなかった。ラボのおじちゃん達が、ランプーは俺たちが完成させるから心配しないで、とあとからメールをくれた。

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ランプーはたぶん今も完成せずに、このまま残っていると思う。それでも良い。リンチーがものづくりを楽しんでいるだけで最高なのだと思う。このあとしばらくリンチーは手作りのアクリル曲げ機にハマっていて、小物入れが量産された。

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場所が人をつくる

大きな気付きもあった。「自分を変えたければ環境を変えよ」という言葉はよく聞くけれど、本当に人はいる場所によって変わると思う。
ある日作業をしていると、遊んでいた子どもが私のMacBookのケーブルを引っ張って、ケーブルがちぎれてしまった。充電器がないと仕事にならないので、いつも通りに私は「一番早く届くオンラインショップ」を検索していた。近くにApple Storeはなく、配送も日本ほど早くないので困ったなあと思っていたところ気が付いた。「ここはFabCafeだ。」
飛行機のプロトタイプまで作られている本格的なラボなのだ。私は充電器を分解し、断線したケーブルを繋ぎ直し、また断線しないよう根元を補強した。Amazon Primeよりも早く、純正品よりも頑丈な充電器をゲットしていた。東京にいたら普通にオンラインで買っていたと思う。
「思考と行動はどこにいるかによって変わる」ということと、「ツールにはアクセスしやすい方がよい」という2つのこと改めて感じた出来事だった。

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壊れたなら直せばよい。作り方がわかるということは、直し方がわかることである、という考え方が私はとても好きだ。
日本から来てくれた、PLENというロボットを開発するチームの仲間と一緒に3Dモデリングやロボットの動きをプログラミングするワークショップを開催したりもした。

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リンチーの2歳の息子エリオスはずっとPLENを怖がっていたけど、いつも一緒にいたらいつのまにか友だちとして受け入れてくれていた。

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ちなみに、フランス滞在中に友だちが遊びにきてくれた。マーケットに行ってパテやバゲットを買い、川沿いで「優しさに包まれて」を聴きながらワインを飲んだり、会いたい人に会うために弾丸でバルセロナに行ったりして、それも最高だった。

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フランスではCreativityが9ユーロで売っていた。もちろん買った。

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コロナのニュースを日々インターネットで見ながら、フランスのみんなのニューノーマルなビズが気になっている。私がいた頃も、暑い日には少し離れた場所からジェスチャーでビズをしていたので(ほっぺを合わせると汗がついてしまうため)きっと今はそうしているのだろうな、と思う。

リンチーは全然SNSを見ない。(Toulouseについた初日、泊めてくれるはずだったリンチーがMessengerを見るまでの3日間ほどAirbnbで連絡を待った)

この状況なので、「大丈夫?みんな元気にしてる?」とメッセージをしてみた。相変わらずずっと既読にはならないけれど、きっと元気にしているのだと思う。

また海外に自由にいける日々が来たら、すぐに会いに行ってビズを1時間したい。

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