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ハイテク機器からシェールまで 現代文明支える「砂」の正体|【特集】資源ウォーズの真実[PART1-2]

現代文明を支える「砂」、「土(レアアース)」、「水」――。世界ではいま、これらの戦略資源の奪い合いが起こっている。ありふれた素材の「砂」は高層ビルから半導体まであらゆるものに使われ、「土(レアアース)」は世界の自動車メーカーが参入する電気自動車(EV)に欠かせない。そして生命に欠かすことのできない「水」……。それぞれの資源ウォーズの最前線では何が起こっているのか。

資源ウォーズ看板

世界的な大反響となった『砂と人類』の著者であるヴィンス・バイザー氏に緊急インタビュー。ハイテク機器、シェール開発、そして砂浜……。現代文明を支える「砂」の正体に迫る。

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ヴィンス・バイザー(Vince Beiser)
ジャーナリスト。『WIRED』、『ハーパーズ』、『アトランティック』、『ニューヨーク・タイムズ』をはじめとする雑誌や新聞に寄稿している。カリフォルニア大学バークレー校出身。カナダ・バンクーバー在住。

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砂と人類いかにして砂が文明を変容させたか
ヴィンス・バイザー (著)、藤崎 百合(訳)
草思社 2640円(税込)

 私が資源としての砂の重要さに気がついたのは、ある日の新聞記事からだった。インドで砂の利権を巡り殺人事件が起きた、というもので、これを読んだとき率直に「砂などというどこにでもあるものでなぜ人が殺されなければならないのか」と感じた。リサーチを進めると、現代社会、特に都市生活において砂がいかに重要な要素なのか、ということに改めて驚かされた。

 取材を進める中で、砂の利権には暗黒市場が絡み、数百人規模の犠牲者が出ていることが分かった。死者の多くはインド国内だが、砂を巡るトラブルは世界中に存在し、過剰な砂の採取によって我々の生活環境が脅かされている、と感じた。そしてそれを一冊の本にまとめた。拙書『THE WORLD IN A GRAIN(邦題=砂と人類《草思社》)』は5カ国語に翻訳され、最初に新聞記事を読んだときの私と同様に多くの人に驚きを与えた。

シリコンチップの鍵を握る
ノースカロライナ産・石英

 砂はコンクリートの材料となり、アスファルト舗装にも使われ、我々の生活を支えるあらゆる場面に存在する。中でも現代生活の必需品とも言える石英の存在は大きい。純度の非常に高い石英だけがコンピュータの基盤となるシリコンチップの材料になり得るが、それは米国のノースカロライナ州にあるスプルースパインという小さな町にしか事実上存在しない。

 そしてこの特殊な石英の生産をほぼ独占しているのがユニミンという企業だ。この企業は極端な秘密主義をとっており、年間の生産量や埋蔵量などの情報を一切公開していない。我々の生活に欠かせないコンピュータや携帯電話などの心臓とも言える部分の材料を供給する会社が全く情報を出さない。これは由々しき問題だ。

 私はスプルースパインまで出かけ、ユニミン社とコンタクトを取ろうとした。しかし会社の前の道から会社を眺めていただけで、中から社員が出てきて退去を求められた。色々と試みたが、情報を得ることはできなかった。

 その後、過去にユニミン社で働いていた、という人々に話を聞くことができた。しかし、たとえ退職していても機密保持契約があり、その期間を終えて同業他社に就職した人は、ユニミン社からありもしない機密情報漏洩を疑われて提訴され、多大な時間と金銭を失うはめになるということもあったという。まさに人生そのものがユニミン社によって崩壊させられてしまった。これも砂の利権が抱える問題の一つだ。

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