見出し画像

アムステルダム・スキポール空港の発着枠削減で米/蘭が激しく対立へ

EUのオランダ政府は昨22年、同国のみならず欧州の主要な空の玄関口であるスキポール空港で生じる騒音やCO2を減らす環境対策を目的として、この23年秋から順次、同空港の発着枠を削減していく法律を成立させていました。
その内容を見ますと、23-24年の冬期スケジュールから現在の年間発着便数50万便を46万便に減らし、さらに来24年の冬期(11月)からは45万2500便にまで削減するというのです。

発着便削減で揺れるアムステルダム・スキポール空港(空港HPより)

そして実際に、今冬期に向けたスケジュールについて、EU内のみならず世界各国からスキポール空港に飛来する航空便の便数制限を始めたのです。しかし、これでおさまらないのが米国のエアラインでした。中でも激怒したのが、今夏8月にようやく長年の夢がかなってニューヨーク〜アムステルダム線、9月にボストン発の同路線を開設したばかりの米の格安航空会社ジェットブルーです。なんと同社は減便どころか、乗り入れそのものができなくなりました。

スキポール乗り入れができなくなり怒り心頭のジェットブルー、機材はA320

その理由というのが、「新興LCCについては新たな乗り入れ許可を出さない。これまで歴史的にアムステルダム・スキポール空港に乗り入れていた伝統エアラインにだけ、制限した発着枠を与える」というものですから、ジェットブルーとしてはとうてい納得できる理由ではありません。
ジェットブルーは最初にオランダ空港調整局(ACNL)が同社のスキポール乗り入れを拒否した際に、「格安航空を差別している」として米国運輸省(DOT)に訴えていたのですが、ようやく8月からの乗り入れが今春になって認められたため、DOTへの告訴をいったん取り下げていたのでした。

しかし今回の蘭ACNLの決定を受けて、再度、DOTにオランダ政府の措置は国際航空輸送の公正競争慣行法に違反すると告訴しました。これに、米国の航空会社団体であるエアラインズ・フォー・アメリカ(A4A)も同調して、「米国の航空会社はスキポール空港で339枠にのぼる発着枠を失ってしまう。中でもジェットブルーはアクセスそのものを拒否された」として、米政府・DOTに共同で訴えたのです。

そりゃ確かにひどいよねと、DOTの役人が言ったかどうかは分かりませんが、すぐにDOTは11月2日、「わが省はA4Aメンバーの共同申し立てとジェットブルー社の申し立てを承認することを決定した」と訴状を受理しました。
そのうえでDOTは、オランダ政府の騒音低減計画の実施方法に対して重大な懸念と反対意見を表明するとして、「今回のオランダ政府および同空港調整局の措置は、オランダが加盟しているEUとアメリカ間のオープンスカイ協定に違反するだけでなく、EUの規制で求められている“(課題解決への)バランスのとれたアプローチ”にも沿っていない」との主張をオランダ政府に伝えました。その結果、両政府間でのこの問題解決に向けて交渉を開始することになったのです。

蘭フラッグキャリアのKLMオランダ航空も裁判に訴えている

一方、スキポール空港は欧州の主要な航空ゲートウエーのひとつですから、この乗り入れ便数削減で損害を被るのは欧州のエアラインも一緒です。なかでも影響の度合いが大きい同国フラッグキャリアのKLMオランダ航空は「次世代航空機やSAF(持続可能な航空新燃料)の導入などにより、発着枠の削減を行わなくても騒音やCO2排出量の問題は解決できる」として、昨年、国を相手どって裁判を起こしています。一審はKLM側が勝ちましたが、二審では国側が勝って一勝一敗となり、裁判は最高裁判所まで行くことになりました。どちらが勝つのか、欧米双方の航空業界が固唾を飲んで見守るしかありません。

KLMオランダ航空が真剣にならざるを得ないのは、乗り入れを拒否されたジェットブルーが米国DOTに対して「相手が米国・EU航空運送協定に違反しているのだから、対抗措置として蘭のKLMオランダ航空に対してもニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港への出入りを禁止してほしい」と要請し、DOTも蘭政府の政策がそのまま続くのなら対抗措置を取ると明言しているため。KLMにしてみれば、自分たちも便数制限を受けたうえ、ドル箱のニューヨーク乗り入れができなくなっては泣き面に蜂ということになりますから、もう必死なんですね。

KLMのマルジャン・リンテルCEOは、蘭政府の措置がオランダ経済に大変な悪影響を与えると警告したうえで「私たちはよりクリーンで、より静かで、より効率的な計画を提出している。その中で、現在の運航便数を維持し、貿易立国オランダの地位を維持しながら、騒音低減目標を達成できるのに」と、政府の方針変更を求めています。
IATAのウィリー・ウォルシュ事務局長も蘭政府の措置には大反対で、「航空会社は騒音低減やCO2削減のための計画と投資を行っている。国際的に合意された合法的なプロセスでやらなければよくない」と述べました。

もっとも、対する蘭政府や同国議会も頑固ですからねえ。蘭議会に至っては、スキポール空港の乗り継ぎ客に課税することまで提案したそうです。そうすれば旅客がスキポール空港を敬遠するから自然に航空会社も便数を減らすだろうという、これまで世界どの国でもやったことのない案まで出てきたそうです(さすがにこれには政府が慎重な姿勢でいるようですが)。
オランダ対米国の航空紛争は、いずれ航空協定を結んでいるEUと米国との対決になるはずです。環境問題は世界中の産業の未来を複雑に変貌させようとしていますが、いま、そのひとつの現れがこの件に滲み出てきたようですね。

2023年11月14日掲載

※ジャパンプレスの発行するメールマガジン登録(無料)をすることで、最新の航空貨物ニュースを受け取ることができます。
ご登録はこちらから


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?