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<連載>国内外事例から読み解く、2023年オムニチャネル戦略論③

前回までの振り返り

  • 本レポートはここ数年間の国内外の様々な事例研究を通じ、今後のオムニチャネル戦略像を考察するものです。

  • オムニチャネル戦略の紐解き方として、まずは「今後の実店舗の存在価値とはどのようなものか」について触れ、その後そうした店舗戦略を支えつつも「小売サービス全体としての価値創造を行うためのECやWEBのあり方とは何か」という順で話を進めていきます。

  • 国内外事例から店舗戦略を読み解くと、そこには大きく4つの価値化の方向性が存在しています。

    • ニューノーマルSHOP

    • サービスSHOP

    • エクスペリエンスSHOP

    • リアルEC SHOP

  • ニューノーマルSHOPは、最先端テクノロジーを活用し、店舗業務の合理化や無人化を目指す店舗戦略であり、主に最寄品などの低単価商材を扱うSMやCVS、DSなどを中心に拡大している。

  • ニューノーマルSHOPは、4つの店舗戦略の中でも最もよく取り組まれており、これからの店舗戦略の大きな1つの方向感ではあると思われるが、この方向性の向かう先はおそらく「ECとの同質化」であり、店舗ならではの特性を活かす方向感とはやや異なる。

それでは前回の続きとして、今回は「サービスSHOP」について事例を交えながら詳しくご紹介していきます。


サービスSHOPとは

サービスSHOPは、ECまたは店舗での物販をバックアップするサービス拠点として、新たな価値提供を目指す店舗戦略で、展開するサービスの内容によって、百貨店からスーパー、小規模店舗まで幅広い業態で取り組まれています。商品販売とは異なる新たな収益化につなげるケースと、物販につなげるプロモーションとしての役割を担うケースが存在します。

サービスSHOPで展開されているサービスの内容は、大きく5種類に分類できます。
 

ライフスタイル・サービスSHOP

ライフスタイル・サービスSHOPは、ライフスタイル支援を軸に、既存事業(物販)と関連する様々なサービスを強化し、新たな収益獲得や関係構築を狙う店舗戦略です。


ケース1:Nordstrom Local / 地域密着サービス(アメリカ、百貨店)

この取り組みの代表例がノードストロームローカルです。
ノードストロームはアメリカの伝統的な百貨店になりますが、その百貨店が新コンセプト店「ノードストローム・ローカル」(Nordstrom Local)をマンハッタンにオープン。1階建てのこの店舗面積は170平方メートルで地元の商店並の広さで、店内に商品は陳列されておらず、従来の店舗とは全く異なる作りとなっています。

同店では、 「商品を売らない小売店=地元のサービスハブ」として、ネットで注文した商品の受け取りのほか、スタイリング相談、お直しコーナー、ラッピングギフトコーナー、クリーニングサービス、チャリティーコーナー、不要な中古品の寄付コーナーなど、地域顧客に対して様々なサービスを提供。

同社役員は「ノードストローム・ローカルを訪れた顧客は、平均よりも2.5倍以上のお金を費やす。また、ロサンゼルス地区におけるオンラインオーダー・ピックアップの30%を占める。」と述べ、店舗離れの進む顧客に対し、訪問の機会を提供しつつ、深い関係を構築しようとする取り組みの新たな拠点となっています。


ケース2:無印良品/ 無印良品銀座, MUJI HOTEL GINZA, MUJI DINNER, ATELIER MUJI GINZA

日本におけるこのケースの代表例は、無印良品だと思います。良品計画が展開する国内初の「MUJI HOTEL GINZA」、同じビル内に飲食業態「MUJI Diner」を併設した世界旗艦店「無印良品 銀座」が同時オープンしていて、単一ブランドビルとなっていることが大きな特徴。

「MUJI HOTEL GINZA」のフロントは6階にあり、複合的なデザイン文化の発信基地「ATELIER MUJI GINZA」として、ものづくりやデザインにまつわる様々なテーマで展示を企画する「Gallery」や、コーヒーと酒を飲みながら人が語らい集う「Salon」、デザイン・アート関連の書籍を揃える「Library」、トークイベントやワークショップを開催する「Lounge」を同フロアに導入し、交流の場を創出するための空間にもなっています。

地下1階から地上6階に入居する「無印良品 銀座」では、食に関する商品やサービスを拡充しています。1階では、東京近郊の農家との繋がりによる産地直送をテーマとした青果や、新鮮なフルーツを使ったジュースやデザートを販売し、イートインスペースも設置。グリーンティーやルイボスティーなどの茶葉と、スパイスやフルーツを組み合わせることができるお茶の量り売りサービスや、地下1階では「素の食」をテーマにするレストラン「MUJI Diner」を展開。旬の魚介、肉料理、ジビエなどを使った料理に加えてサラダカウンターを設置しています。

まさに無印の世界観で衣食住とコミュニティーが繰り広げられ、ブランドが示すライフスタイルを体験できる場となっています。

そしてこの取り組みがとても秀逸なのが、その体験施設が有料サービスとして事業展開されている点にあります。ホテル、レストラン、ギャラリー、サロン、ライブラリなどのサービスが事業として展開されながら、基幹事業である物販のプロモーションとしても成立されており、ブランド全体を底上げする拠点となっています。

 

ケース3:蔦屋家電+ / ライフスタイルショールーム

店頭に並べるプロダクトは、「万博」「美術館」「博物館」といった概念を基に、キュレーターと呼ばれる専門スタッフが選定。様々なライフスタイルの提案を行う場所となっています。

そして同店のもう1つの大きな役割は、マーケティング調査目的のショーウィンドウになっていること。
蔦屋家電+で製品を展示するメーカーは、1区画を月額20万円で契約し、全部で30区画あるので、蔦屋には月600万円の売り上げが入る仕組みになっています。坪当たりの売り上げは通常の家電店よりも高く、ここでの商品売り上げは、すべてメーカーの取り分になります。蔦屋家電+の店員は、売り上げノルマを一切持たず、リアルなお客に接して、悩みやニーズを引き出すことが主な仕事。ネット販売やPOSでは決してわからない顧客ニーズを会話から巧みに引き出していき、メーカーへフィードバックしています。


 

コンシェルジュ・サービスSHOP

コンシェルジュ・サービスSHOPは、商品販売に付随する様々なサポート・サービスを強化することで、顧客との強い関係性構築を目指す店舗戦略です。


ケース4:ビックカメラ 三越日本橋 / スーパーサポートプレミアム

ビックカメラは2020年、日本橋三越本店新館に「ビックカメラ 日本橋三越」をオープンしています。
同店舗は、単なる百貨店内に出店するテナントショップとは異なり、三越のおもてなしと、ビックカメラの家電に関する専門的品揃えを融合した「家電の新スタイルショップ」。

ビックカメラは三越が得意とする富裕層の顧客を三越の外商とも連携して取り込み、三越はインテリアとともに家電を提案メニューに加えることで、顧客満足度向上を目指すものです。同店だけの「家電コンシェルジュ」が三越のスタイリスト(販売員)と連携し、家電製品の全般的な提案を行うほか、商品搬入の立会い、アフターケアまで、サポートする仕組みとなっており、売上は好調で、オープン7カ月後には1.7倍に増床しています。

 

ケース5:資生堂 / デジタルカウンセリングミラー

資生堂は、ビューティーコンサルタント(以下BC)による、パーソナルで深いカウンセリングを可能にする「デジタルカウンセリングミラー」が体験できる次世代カウンターを導入しています。

お客さまの顔が映し出される鏡に、タッチパネルの操作で商品や使用方法、肌測定の結果などの情報が現れ、さらに、カウンセリングのデータを自宅で確認できる、国内の化粧品業界初のシステムです。

「SHISEIDO」の中心ターゲットの20代が化粧品カウンターに求める「パーソナライズド」、「トライアル機会」などのニーズを基に開発。「デジタルカウンセリングミラー」に加え、デジタルコンテンツとともに商品を楽しく自由に試せる「デジタルテスター装置」も導入しています。


ケース6:ワコール / 3D smart & try

店舗は“商品を買う場所”から“体をメンテする場所”に。ワコールの新サービス「3D smart & try」では、いつでも3Dボディスキャナー計測がセルフサービスで利用できるようになっています。

計測したデータをもとに、AI(人工知能)と会話しながら商品をチェックしたり、プロのアドバイスを受けながら下着を選ぶことだって、毎日変化する体型をしっかり管理するボディケアの新サービスです。商品だけでなく、研究データと「3Dスマート&トライ」のサービスによるデータなどのデジタルデータを活用し、ウエルネスのためのプラットフォーム作りを目指しており、新事業や他社と協業して時代に合う新しい価値を提供することを目指しています。


コミュニティ・サービスSHOP

コミュニティサービスSHOPは、ショップ=場を媒介に顧客や地域住民同士が「繋がり合う機会」を提供することで、場としての新たな価値づくりを目指す店舗戦略です。


ケース7:Rapha / 顧客交流サービス(イギリス、自転車ショップ)

自転車ショップのRaphaは、ストアとカフェのハイブリッド店舗となっていて、店内でレースのパブリックビューイングを開催したり、愛好家たちを集めてグループライドを企画したりなど、単に自転車を販売する領域を超えて、店舗がそこに集まる顧客同士をつなぐ役割を果たしています。

 

ケース8:宮崎県日南市油津商店街 / 商店街の地域活性化

商店街なのに小売店だけでなく、IT企業のオフィスなどが入っている。観光客が宿泊できるゲストハウスや、周辺には保育施設もある、この事例は1つの店舗ではなく商店街全体で新たな価値創造に取り組む事例です。

油津商店街は東洋一のマグロ漁獲高を誇った油津港にほど近い場所にあり、かつては宮崎県南地区最大の市街地としてにぎわっていました。しかし、大店法改正に人口減少、高齢化などが加わり、ついには最盛期の1/3程度まで店舗数が減少。

そんな油津商店街の再生は、当時の﨑田恭平市長による地域改革がきっかけ。油津商店街には29店舗ものテナントが誘致された。そのなかには、東京に本拠を構えるIT企業のサテライトオフィスも含まれ、典型的な地方都市のシャッター商店街は、わずか4年での再生に成功しています。


トライアル・サービスSHOP

トライアルサービスSHOPは、商品の手軽な利用体験を提供することで、実売に繋げようとする店舗戦略で、POPUPなどの期間限定での出店形態も存在しています。


ケース9:Peloton / POPUPショップでの商品体験(アメリカ、フィットネスサービス)

フィットネス事業のPeloton社のショールーム(POPUPショップ)では、消費者が実際に同社の提供するエアロバイク等に乗り様々なオンライントレーニングコースを体験ができたり、地域のユーザー同士を結ぶコミュニティイベントなどを開催したり、ブランドを中心とした様々な体験の機会創出の場となっています。
 

ケース10:B8ta / 商品体験

同店で販売している商品は、スマートホームデバイスやIoT製品、医療・ウェアラブルデバイスなど、まったく新しい分野のデジタルハードウェア製品が多く、ショーケースのようにゆったりとした空間に商品を並べ、商品ごとにタブレットを用意。商品説明のビデオ、利用事例コンテンツ、オーディオ製品であれば音声コンテンツなどを提供し、購買まで促進できるようにしているほか、メーカーにとってはテストマーケティングの場にもなっています。


 

フルフィルメント・サービスSHOP

フルフィルメント・サービスSHOPは、顧客がネットオーダーした商品に関して、顧客自身が店舗の駐車場等で受け取ったり(BOPUS:Buy Online Pick Up in Store)、顧客の住居近くの宅配業者がその近隣の店舗で商品をピックアップし、それを顧客宅へ届けたり、ということを行う店舗です。

通常の物販機能に加えて物流拠点としての機能・サービスを店舗の新たな価値・役割として提供する店舗戦略です。
このような事例(特に顧客自身がピックアップするタイプ)は、スーパーマーケットやホームセンターなど、日本でも数多く見られていますが、いち早いデリバリーの実現を目的とした後者の仕組みは、これから日本でも増えてくると予想されます。


 

サービスSHOPまとめ

サービスSHOPは、物販というこれまでの店舗の中心機能から少し離れ、物販をサポートする様々なサービスを展開する店舗戦略です。

ECでは足りない側面をサービスとしてリアルで補完し、ネット・店舗のいずれかでの商品購入に繋げていく形となっており、単に顧客データをネットとリアルで統合するだけではなく、企業組織のあり方からの見直しが必要と思われます。
*日本のよくある組織のように、店舗事業部、ネット事業部のように売上部門が並列的に存在する場合、お互いがライバルになってしまい、補完的協力体制が築きにくい。
 

それでは続いて、「ブランド体験」に重みが置かれた店舗戦略「エクスペリエンスSHOP」についてご紹介していきます。
<次回へ続く>
 

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