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まあ、滅亡。

  足首のところまで生い茂った雑草が上空から湧き出る夥しい風圧に靡いていた。比喩ではない。その時俺たちはまさに隕石を仰ぎ見ていた。今はまだ小さいが、予報では、何を言っていたか、まあ、滅亡。

「なんでそう思う?」

 なんでだろう。ハエが足元から這いずるように飛び上がって喉元。世界は正しく回っているが、美しく回っているが、なんでだろう。なんでだろう。
   彼の下瞼が正確な重さと清らかな円弧を有している僕の胸に留まる。瞬、ある意味で僕は唯物論者とも言える。言えるか?
   精神のみが正しいとするならば、彼内在の神秘や瞬く妖艶きらびやかな生をどう落とし前付けるっていうんだ。馬鹿が。
 波に削られ損ね佇む岩石のように、ずんとしてどうしようもない僕。そんな僕を垣間見た彼が順に話し始める。
「きっと入った方が良いぜ、久しぶりに火星で飲み明かして来いよ」
「でもお前は乗らないんだろ」
「ああ、その方が都合良いからな」
 なんの都合だよ。
 彼がポットに乗らない意志を見せるたび、苛立ちと悲しみが交互に訪れる。ある時は顔が真っ赤に腫れ上がるのではないかと思ってしまうほどの怒りが胸に込み上げる。
  またある時は彼と共にそうか死んでしまおう。好きな奴と共に死ぬなんてとんでもなくロマンティックで、尚且つエロティックで、すごく良いじゃないか。と浮き足立つ。性のために死んでやる。ああ然し、接続詞の途中でした。

  爆発音。地底が割れる入り込む裂け目の中僕達は火星との逆方向、より深紅へ近付くのだ青春。
  なんだかんだ死にたくないなあ。
「EVILCAR」のイントロと共に隕石は地上を吹き飛ばし、最後に触れた唇と唇にあった0.0001ミリの隙間が純情であるまま滅亡。
  束になった風が胸を掠める。

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