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あくまで

「生きてるんだ。」
「あくまで?」
「あくまで。」
 ぐちゃりと粘度を持つ泥にはスイカの種が混じっている。
 ──ピンと張った思考のセンサーがその事実に触れた時、直線的な畏怖を感ずる。もうそろそろ発芽する。胃の中に溜まった泥が食道を這いずりあがってきて、喉が詰まった。彼が此方を見る。
 涙交じりに見た彼の起伏の無い瞼。白眼視するな。お前は太陽だから、そういうジットリと濡れた歌舞伎町の阿婆擦れみたいな視線を誰かに向けちゃいけないんだ。
 湿気の籠った空気が暖かい皮膚に触れ結露を起こし、頬に丸い水滴を作り、そのまま死ぬ。風船が割れたような破裂音とともに生命機能が停止する。そして軽々しく黄泉の国まで行った私は、目を覚ます。
 …ボォ─────ン……ボォ─────ン……
 賽の河原の直ぐ傍。先までいた彼は居なくなった。代わりに、白いワンピースを着た幼気な少女が指遊びをし、黄色いパンプスを見ながら、唇を突き出し、不機嫌そうに此方を見る。整っているつむじ。少女へと指を指すと、口を開け、ア、彼の声が聞こえる。
「飽くまで?」
「明くまで。」
 睫毛の毛先が頬へと伸びて、脂肪で盛り上がっている顔をつつく。
 もう小夜も更けると、物思いに耽る。斯くして、夜更けと早朝の狭間が来る。

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