テーパリングが金利市場に与えるインパクト

市場はテーパリングが年内に始まると思っています。

実際にパウエルも年内スタートをJHで示唆しました。("At the FOMC's recent July meeting, I was of the view, as were most participants, that if the economy evolved broadly as anticipated, it could be appropriate to start reducing the pace of asset purchases this year.")

では、テーパリングがマーケットに与えるインパクトについて考えたいと思います。

理論上テーパリングには2つの効果があります。

1)シグナル効果: これは市場参加者がテーパリングの開始日とペースから、利上げのタイミングを推測することから得られる効果です。

2)ドゥレーション効果:QEによるストック効果兼フロー効果の逆流を意識し、タームプレミアムが上昇する効果です。

2)においては、日銀が2018年に「日本における市場分断・特定期間選好仮設のDSGEモデルによる検証」というペーパーにおいて、9割以上がストック効果によるものだと言っています。なんだか難しそうに感じるかもしれませんが、コンセプトは非常にシンプルです。Dynamic Stochastic General Equilibriumモデルは、基本前提として、長期金利水準は短期金利のフォワードレートに対する期待値によってのみ決定されるとしています。つまり、市場で観測できるフォワード金利とこのモデルから得られる期待値の差がざっくりタームプレミアムという事です。そして、QEからくるストック効果がタームプレミアムを大幅さげているという、当たり前の事を数字を羅列して説明した物です。

2013年に起きたテーパリングタントラムにおいては、この2つの効果が同時に発生したから、起こったものです。今回は、FED高官たちが必死にTapering終了=利上げではないと言っています。タカ派である、Harker, Bullard, Kaplanたちでさえもそう言っています。これは2013年のような急な金利上昇によって市場に不必要なショックを与えないようにしているのでしょう。つまり2013年との大きな違いの一つは、利上げの織り込みが大分低い事です。

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上のチャートでわかるように、2013年は、より多くの利上げが織り込まれていました。

9月のFOMCでは、2024年のDot Plotが出てきます。最低でも2024年の中央値は、2回分の利上げ。メインシナリオは3回と多くのエコノミストは予測しています。人によっては、2024年時点ではすでにAverage Inflationが2%達成しているので、従来のPre-emptive hikeに戻る可能性があり、4回の利上げが可能だと言っている人もいます。

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しかし、現在のカーブは、2024年末までに、計3.9回分の利上げしか織り込んでいません。(2023年末までは2.5回なので、2024年分はたったの1.4回分)

結論としては、今回のテーパリングからシグナル効果は期待できないでしょう。

2)のドゥレーション効果について見てみましょう。

2)の効果を考えるにあたって、ネットサプライが大事なってきます。なぜならば、8月のRefunding Announcementで11月から、利付債の発行が減額されるからです。Fedの買い入れが減ったところで、市場に与えられるサプライが減るとは限らないことです。

利付債の減額とテーパリングを加味した、Net Duration Supply Changeを計算してみました。

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ここでは11月スタートと12月スタートでやってみました。

仮定として、Taperingはconstant paceで毎月減っていくという計算です。現在、毎月UST80bln,MBS40blnを買っているのを線形で0に持っていくというシミュレーションです。例えば、taperingが5カ月で終了するペースで11月スタートの場合は、最初の月からネットサプライが増える事がわかります。この場合、ストック効果のインパクトが大きく金利上昇する可能性が高いということです。しかし、同じ5カ月ペースでも12月スタートの場合は、来年2月になるまでネットサプライがプラスに転じません。つまりそれまではストック効果が期待できないため、金利上昇も期待できないという結果です。

まとめると、FOMCで出てくる2024年のDot Plotによっては、そこからフォワードOIS上昇からくる金利上昇の可能性がある。そして、もし2024年のDOTが4回の場合、2024年末に1.5%の政策金利となるため、ターミナルレートの上昇につながる可能性があります。その場合高い確率でベアスティープするでしょう。そして、ストック効果はすぐには期待できないが、来年の2月から春にかけてネットサプライは大幅に上昇することが見込まれるため、Taperingのぺースがより明確化することによって、ゆっくりとタームプレミアムが上昇する可能性が高いという事です。ただ年内に大きくタームプレミアムが上昇する可能性は然程高くない事がわかります。つまり、9月FOMCでの注目点はDot Plotに集まる可能性が高いと思われます。

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