日本のターミナルレートについて考えてみる

2年ぶり位の投稿

昔米金利が利上げサイクルに入る前に、手前の金利と2s10sのカーブの分析の投稿をしたが、似たような事を日本でもやってみた。

円金利市場では、OISマーケットが確立されたのがあまりにも遅く、短期金利のヒストリカルデータに問題があるので、便宜上1年スワップを利用。

まずは2000年からの2s10sと1yスワップの推移を、2006-2008年の利上げサイクルにおいては逆相関になっている事が目視できる。しかし、その後長期に渡る低金利時代に突入し、投資家がドゥレーションを延ばし、より長期金利への投資が増えた結果2s10sは2010年以降は、アウトライトへの相関を高めて推移してきた。

下のチャートの青○は、2006-2008年の1y vs 2s10sの回帰分析です。1年スワップと2s10sの逆相関が確認できる。そして、この期間のデータの回帰分析のX軸の切片が(米国と同様に)当時マーケットが考えていた自然利子率という事が言えるかもしれない。というか、そうであるという仮定に基づき、分析をしてみたいと思う。そして、予想自然利子率(Nominal)は、1.73%だった事がわかる。実際に、当時の手前のフォワード金利のプライシングを見ると、最大で1.7%あたりまでの利上げを織り込んでいた事が確認できる。

緑っぽい線は、現在のspot 1y vs spot 2s10s, 1y1y vs 1y fwd 2s10s, 2y1y vs 2y fwd 2s10sを、plotしたものです。ここで、フォワーカーブ上で、将来の1yスワップvs将来の2s10sが、過去のspot 1y vs spot 2s10sとどういう関係性になっているかを見てみた。そして、右上にある線たちは、2006-2008の間の、「ある日のスナップショット」。不思議なのは、現在のカーブの関係性をみると、1y fwd 2s10sはspot 2s10s対比下がっていてるが、2y fwdから4y fwdまで再度上昇して、5y fwdからまた下がりだすという形状をしている。
捉え方の一つとして、先1年間は利上げがあるが、その先4年後までは利上げはなく、5年後位から利上げ再開という捉え方ができる。
もう一つの捉え方としては、日銀の10年以上による量的緩和による膨れ上がった巨大のバランスシートからくるストック効果により、spotからQTプランが出ている2026年途中まで(2yfwdあたり)まで、10年が押しつぶされるであろうという市場の予測が反映されている事が言えるかもしれない。

オレンジの点は、2024年からの1y vs 2s10sのデータです。とりあえず、今年に入ってからは手前の金利上昇に対して、2s10sはフラットニングをしてきており、利上げサイクルっぽい動きをしている。

先程の2006-2008年の回帰直線を、現在のspot 2s10sの位置までパラレルシフトをしてみた。すると、オレンジの線が、2024年のspot 1y vs spot 2s10sのクラスターにしっくり入ることが確認できる。このオレンジ線のX軸切片は、0.85%辺りで、今のマーケットのターミナルレートと照らし合わせてみると、なんとなくしっくりくる。


そこで、先日国会での答弁で、自然利子率のモデル値の下限が(インフレ2%前提の場合)1%という会話があったが、その1%が切片となるようにパラレルシフトさせたのが、緑の点線だ。

ここでわかるように、自然利子率の織り込みが上下するというのは、この青線を左右にパラレルシフトさせる事と同義だという事だ。

2006-2008年のデータを見ても、フォワード金利とフォワードカーブの線は、回帰直線よりもフラットであった事がわかる。

最後に、2024年のデータから得られる回帰直線の切片をみてみると、1.45%辺りであることがわかる。
この回帰直線は2006-2008サイクルよりもフラットであることが見てわかる。先述したフォワードカーブの捉え方2つ目が正しいという前提を置けば、一旦のターミナルレートは0.8%辺りという事になるから、2024年データの回帰直線へフォワードカーブが近づくべきだ。

2006年からの利上げサイクルの時のコアコアCPIはなんとマイナスだった。という意味では、前回よりもNominalでの自然利子率が高い可能性は十分あると思われる。

先程いった、2006-2008年回帰直線を左右にシフトさせることは、手前のフォワード金利が変わらない前提ならば、カーブに対してスティープニング圧力をもたらす。しかし、もしストック効果等の理由でこの直線自体がよりフラットになっている場合、ひょっとしたら2024年の回帰直線が正しいのかもしれない。その場合はフォワードカーブが今後2024年の回帰直線へ近づいて行くべきであり、フォワードカーブの大幅なフラットニングが見込まれる。

ここから日銀がどこまで金融政策正常化を達成することができるかは未知ではあるが、その正常化のpath対比、イールドカーブのフェアバリューを計るフレイムワークとしては有意な分析だった気がする。

まとめると大きく3つのシナリオがある。

  1. この利上げサイクルにおいて(2024年1月~のデータ)ここからデータを蓄積していき、過去の回帰直線と同じ係数へ収束していく。そして、ターミナルレートが0.8%から変化しない場合、オレンジの直線に向かってフォワードカーブがフラットニングして行くか、フォワード1年金利が大ラリーすることになる。

  2. ひとつめのシナリオと同じように、同じ係数へ収束していくが、ターミナルレートの見直しが起こりオレンジの直線が、2006-2008の回帰直線へ動いていく。これは恐らくspotカーブがスティープニングしながらフォワードカーブがフラットニングまたは動かない、端的に言うとバタフライが膨らむ動きになるだろう。

  3. 2024年のデータでの回帰分析の係数が結果正しいとなり、そして自然利子率が1.5%となると、フォワード1年金利vsフォワードカーブが、この回帰直線へ収束していくことが予想される。


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