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気がつけばnoteに公開した記事が300件を超えていました。 これまでに公開した記事のうち、たくさんの方に読んでいただいているものを集めました。
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記事一覧

さるかに合戦は、なぜ「猿」と「蟹」なのか? ー意味分節理論の超応用編(1) 『神話論理』で読む昔話の世界

一年生になった上の子が、毎週小学校から本を借りてくる。 今週の一冊は『かにむかし』。 いわゆる”猿かに合戦”の異文のひとつである。 「昔話は和むなぁ」 と、平和な気持ちでパラパラと眺めていると、なにやら気になる二項対立関係が見えてくる。 赤と青 頭と尻 固さと柔らかさ こういう対立と折り重なって、猿と蟹が対立している。 レヴィ=ストロースの神話論理の世界対立関係にある二極が、物語の中で過度に接近したり、分離したりする。 これはまさに、クロード・レヴィ=ストロース

¥2,550

AI、曼荼羅、深層学習。神話論理と言語の未来 -人間もしくはAIが「言葉の意味を理解する」とは

チャットAIの知性と、人類の知性ChatGPTの登場をきっかけに対話型の文章生成AIが注目を集めている。 わからないこと、知りたいことを対話型のAIに質問でも相談でもすれば、まるで親切でポジティブな人間のように的確な文を返してくれる。 例えば「○○とは何か?」式の質問(つまり「○○とはXXです」と答えることができる質問)や、学生のレポートや仕事の資料に使う文章やメールの文案といった、いままで私たちを「はて、どう書いたら良いものか…」と日々悩ませ、生産性と称されるものを低下

¥5,500

意識は比喩である ジュリアン・ジェインズ著『神々の沈黙―意識の誕生と文明の興亡』を読む

ジュリアン ジェインズ著『神々の沈黙―意識の誕生と文明の興亡』を読む。 『神々の沈黙』というタイトルからして「神様」について論じる本かな?と思うのだけれども、中身を読んでみるとこれはわれわれ人類の「意識」をメインテーマとする本である。 英語のタイトルは"The Origin of Consciousness in the Breakdown of the Bicameral Mind"ということで、意識の起源、意識のはじまりである。 なるほど、意識! といったところで

「私」という意味分節のカルマ -井筒俊彦著『意識の形而上学』を読む

◇ しばらく前から井筒俊彦氏の『意識の形而上学』を読んでいる。 今回は下記の記事の続編ですが、今回だけでもお楽しみいただけます。 ◇ さて今回は『意識の形而上学』の最後の部分、締めくくりを読んでみよう。このくだりのキータームは「薫習(くんじゅう)」である。薫習というのは香り(薫り)が移ることである。 例えば、雅な着物に香を焚き染め、香りを移すことは薫習である。 そしてまた、湿っぽい押し入れの中で布団がナフタリン臭に染まるのも薫習である。 よい感じの薫り(かおり)

¥238

複数の意味分節体系を共-変容させる ー井筒俊彦著「意味分節理論と空海」を読む

(この記事は有料に設定していますが、全文無料で立ち読みできます) * 井筒俊彦氏の『意味の深みへ』に「意味分節理論と空海」という論考が収められている。これがとてもおもしろい。 副題に「真言密教の言語哲学的可能性を探る」とある。 空海というのは弘法大師空海のことである。 空海は言語ということを徹底して考え、その秘密というか、通常の日常の言語の"表向き"の姿の、はるか向こうに隠れている深層を、動態として捉え、その運動展開の法則を記述してしまった偉大な人である。 平安遷

¥220

"声を聞くこと"のメディア・コミュニケーション史   - ジュリアン・ジェインズ著『神々の沈黙―意識の誕生と文明の興亡』を読んで考える

ジュリアン・ジェインズ氏の『神々の沈黙』を引き続き読む。 * (前回の記事の続きですが、今回だけでもお楽しみいただけます) (前回はこちら↓) * ジェインズ氏が描き出す二分心時代の始まりと終わりの物語は、今日の人類が直面している状況に通じるものがある。 二分心の時代は古代都市の誕生と同じ頃に始まった。 多数の人が集まって定住し時期を定めて一斉に農作業に勤しむ。ここで多数の人々に何をなすべきかを命じたのが二分心の「神」の部分の声、即ち、頭の中で聞こえてくる記憶され

深層意味論として読む空海『声字実相義』

このnoteは有料に設定していますが、最後まで立ち読みOK! 無料公開しています。 井筒俊彦氏に「意味分節理論と空海ー真言密教の言語哲学的可能性を探る」という論考がある。『意味の深みへ』に収められており岩波文庫で読むことができる。 「意味分節理論と空海」についてはこちらのnoteにも書いたことがある。 今回はその続きである。 もちろん今回の記事だけでもお楽しみいただけます。 「意味分節理論と空海」の最後の方で、井筒氏は次のように書いている。 「宇宙的「阿字真言」の

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「異なるが、同じ」と置く等価性の原理が意味分節システムを発生させる -中沢新一著『レンマ学』を精読する(11)

中沢新一氏の『レンマ学』を精読する連続note、前回に引き続き、第十一章「レンマ派言語学」の後半「詩的言語とレンマ学」(p.293)から読んでみる。 キーワードは「アーラヤ織」と「喩」である。 アーラヤ識アーラヤ織というのは「レンマ学」の中でも重要な概念の一つである。 アーラヤ織は人間の神経系-脳に生じる二つの動きが絡み合うことよってその姿を現す。 アーラヤ識の第一の動きは「区別をする(分別する、分節する)」ことである。アーラヤ識もあくまでも「識」である。 それと同

比喩の4項関係と、比喩としての意識 -ジュリアン・ジェインズ著『神々の沈黙―意識の誕生と文明の興亡』を読む

ジュリアン ジェインズ著『神々の沈黙―意識の誕生と文明の興亡』を読む。 ◇ (今回は下記の記事の続きですが、今回のみでもお楽しみいただけます) 上の記事で整理したように、ジェインズ氏は「意識」を生み出すのは「言葉の比喩」であるという。 どういうことだろうか? 比喩というのは何かを何かに喩える(「彼はまるで〜〜のようだ」というような表現)ことだけれども、それは単に気の利いた作文テクニックということではない。 比喩について、ジェインズ氏は次のように書いている。 「具

言葉は区別をする ―丸山圭三郎『言葉とは何か』より

(このnoteは有料に設定していますが、全文無料でお読み頂けます) ※ 言葉とは何か。 率直にそれがタイトルになっている本がある。 言語学者 丸山圭三郎氏の『言葉とは何か』である。 率直なタイトルの通り「言葉とはなんだろうか?」という疑問に答えるための言葉を与えてくれる。 言葉とは何か? 言葉について考えるために、最初に知っておくべきことは次の通りである。 私たちの生活している世界は、言葉を知る以前からきちんと区分され、分類化されているのではありません。(丸山

¥100

二分心とは何か? - ジュリアン・ジェインズ著『神々の沈黙―意識の誕生と文明の興亡』を読む

ジュリアン・ジェインズ氏の『神々の沈黙』を引き続き読む。 ーー追記ーー ーー追記ここまでーー 今回はいよいよ「二分心」についてである。 二分心とは何か? ジェインズ氏の仮説は次の通りである。 心のうちの「神」と呼ばれる部分が、「人間」と呼ばれる部分に「命令を下す」という。心のうち?神?人間と呼ばれる部分?命令?いったいどういうことだろうか?! 以下、二分心について、それがどういう精神構造なのか、二分心はいつ頃始まったのか、いつ頃崩壊し始めたのか、といった三点をま

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『ホモ・デウス』×『レンマ学』を読む−「知能」と「意識」と「知性」。進化するシンボル体系=意味発生装置の場所

(このnoteは有料に設定していますが、最後まで無料でご覧いただけます) 『サピエンス全史』の著者ユヴァル・ノア・ハラリ氏は、この本を通じて一貫して、人類の歴史における「虚構」の力に注目をしている。サピエンスの歴史は、虚構の使い方の歴史と言い換えてもよいくらいである。 虚構の力というのは、私たちが、目の前に存在しないもののことを想像・創造し、それについて言葉でしゃべったり、イメージを描いたり=物質化したりして、仲間と共有することができる力である。 そうして共有された虚構

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言葉から出て行こうとする言葉 -小田龍哉著『ニニフニ』を読む

しばらく前から安藤礼二氏の『熊楠 生命と霊性』を読んでいる。 今回はこの熊楠繋がりで、小田龍哉氏の『ニニフニ 南方熊楠と土宜法龍の複数論理思考』を読む。 カタカナ四文字が並ぶ不思議なタイトル「ニニフニ」は、漢字で書くと「二而不二」である。 二而不二、ニニフニ「漢字で書けるなら、どうして漢字で書かず、わざわざカタカナにしたのだろう?」と問いたくなる方もいるのではないかと思われるが、著者の小田氏は、まさにわざわざカタカナにしているものと思われる。なぜなら、二而不二もまた言葉

見ることも触れることもできない世界へ -広井良典著『無と意識の人類史』を読む

広井良典氏の『無と意識の人類史』を読む。 人類の歴史は、人間たちの「意識」のあり方の歴史でもある。 広井氏は意識について、それが「"脳が見る共同の夢"」としての「現実」を作り出すものであると書かれている(『無と意識の人類史』p.24)。 これはユヴァル・ノア・ハラリ氏が『サピエンス全史』や『ホモ・デウス』で論じた「虚構の力」にも通じるところがある。 "脳が見る共同の夢"は「現実」であり、「有」の世界、「ある」ものたちの世界である。それに対して「無」とは、意識が、自ら作

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