Wax.Ogawa

社会参加型アートの示す未来への備忘録。連綿たる断片。「それ」。

Wax.Ogawa

社会参加型アートの示す未来への備忘録。連綿たる断片。「それ」。

マガジン

  • 小説的なテクスト

  • よしなしごとについて

    waxogawaのよしなしごとについて。連ねたる日々。

  • SFC自主ゼミ

    SFCで開講されている自主ゼミについての資料です。

  • 映画について・作品について

    映画論、作品論。

記事一覧

占うこと。星を見上げる。あなたへ向かって(第2章)

2月。なぜかいつも、2月がいちばん寒い月のように思える。深夜2時。お茶を淹れるために水道の蛇口をあげる。ボイラーを点灯させればもちろん、暖かい(45度ほどの)湯が出…

150
Wax.Ogawa
2か月前
1

niẓḍás

運命からの審査。答えるべきもの、応答の責任(répondre/responsabilité)。異端審問への反駁。ボイジャー号の男女から拒否された、拒絶された「わたくし」に対する、私の…

Wax.Ogawa
3か月前

totally

Totally okay, totally. 手紙はこれきりだった。どう訳そうか、と思案する。全部大丈夫、全部。まったくかまわない、かまわないから。これっきり。もう次の手紙はなくて(そ…

Wax.Ogawa
5か月前
1

震える手紙

私はあなたを知っていた。いまはあなたの顔をもう清々しく思い出せない。断片的な印象だけが、例えば口角の微かな窪みや、いつも清潔に整えられた眉山だとか、僅かに上を向…

Wax.Ogawa
7か月前
14

綿飴とニューカレドニアで暗殺された首相

早く夏を抜け出したい。 祈りのように。きれぎれの言葉で。信じること、という。根源を持たないまま信じることを考えても、全ての瞬間でその思考が崩れ去っていくような気…

Wax.Ogawa
8か月前
6

宮崎駿と祖母と、マック。海辺の街から

しばらくぶりに正常な暑さだった。窓を全開にして緑の中を走り抜け、映画を見に行った。信号に止められるたびに蝉の声が車内に入り込んでくる。木々の向こうに見える公園で…

Wax.Ogawa
10か月前
33

無題、しいていえば、無題。

湿度。まとわりつくような。皮膚。ぐるぐると考えるよりこの頃はしゃきしゃきと考える。というか。それもできない。ぐるぐるしながら結局下にいく。なんだか。ハイフンの問…

Wax.Ogawa
10か月前

あまb-いにおu-いやr-まいy-(埋sweet-smell-disease葬)

ときめく、揺蕩う、立ち止まる、離れる。素直に書こう。 ときならずとも 対象にたいして、ずっとときめき続けるというのは、想像以上にエネルギーを費やす行為だと思う。…

Wax.Ogawa
1年前
3

この夜の気候区分/肉の等高線

軽やかに覚悟を共有すること。 知り合うことも分かり合うこともないけれど、星雲の色を名指すことは、例えば可能で、 犠牲にする、という言葉をよく考える(深く考える)…

Wax.Ogawa
1年前
4

九段下へ向かう電車のなかで

ここ3ヶ月ほど考えていることがある。「いいじゃん、めんどくさいし…」という言葉の持つヘテロセクシュアリティについて。飛び飛びの断片から、ほんの少しだけ・少しより…

Wax.Ogawa
1年前
28

凡庸な革命

卒論を書いた。書いたというより、書いてはじめて、スタートライン(の少し手前)に立っているような気がする。自分にできないことの感触だけが鮮烈に、例えばユリの茎をば…

Wax.Ogawa
1年前
7

全てはあとから

記録はなぜないのだろう? 薄々感じていたが、記録がないのではなく、記録は存在できないのだ。その全てが記録になりうる濃密な出来事の内側にあっては、何事も不可能で、…

Wax.Ogawa
1年前
3

12月をまだ許さない

sfcのメディアセンター3Fからオメガ館の外壁が見える。西日が鴨池周りの木を照らして、その木漏れ日に似た影がコンクリートに投影されて、モアレのような模様を作り出す。…

Wax.Ogawa
1年前
5

冬の朝が到来して・レモンジャムがない日のこと・政治

いつものことだ。いつものこと? いつも……そこで湧き起こるさまざまの逡巡は本当にいつもなのだろうか。何かを忘れているような気持ちで、薄ピンクに染まった夢の中を歩…

Wax.Ogawa
1年前
10

朝日の代わりにレモンを、夢の後始末

意を決して何かを書き始めているうちに、必要に迫られてさまざまの節々、襞の折り目、カーテンの隙間などを探すことになって、いつのまにか膝下までを水に浸していることに…

Wax.Ogawa
1年前
10

オレンジタルトと話した日のこと

ある曲を初めて聴くときいつも、それが一度でぴったりするすると調和を持って流れ込むことはない。何度も繰り返し聴くうちに、全体としての緩急、音の流れ込むタイミング、…

Wax.Ogawa
1年前
4
占うこと。星を見上げる。あなたへ向かって(第2章)

占うこと。星を見上げる。あなたへ向かって(第2章)

2月。なぜかいつも、2月がいちばん寒い月のように思える。深夜2時。お茶を淹れるために水道の蛇口をあげる。ボイラーを点灯させればもちろん、暖かい(45度ほどの)湯が出るのだけれど、お茶を淹れることにはおそらく、ほとんど凍りつきそうな水を(流れるたびに私は痛みを感じる)100度にまで沸かすその時間や、あるいは水の量によって左右される、そのときごとの時間の推移をこそ知ることに本質があるのではないかと思う

もっとみる

niẓḍás

運命からの審査。答えるべきもの、応答の責任(répondre/responsabilité)。異端審問への反駁。ボイジャー号の男女から拒否された、拒絶された「わたくし」に対する、私の運命へ、応える方法。

多くは知らない。いつもなら四柱推命で今年一年の大運を占うのだが、そんなことをしている暇はなかった。占うひまもなく、運命と人生に巻き込まれている。巻き込んでいる? あの道へ?

アポファティックな

もっとみる
totally

totally

Totally okay, totally. 手紙はこれきりだった。どう訳そうか、と思案する。全部大丈夫、全部。まったくかまわない、かまわないから。これっきり。もう次の手紙はなくて(そんな予感はほとんど確信に近くて、totally!)、わたしはずっとこの言葉を抱えていくのだ、と思った。

実際のところ、それを抱えていられる時間はあまりなくて、おっとそういえば、と気付いたときにもう一度抱えなおす程度

もっとみる
震える手紙

震える手紙

私はあなたを知っていた。いまはあなたの顔をもう清々しく思い出せない。断片的な印象だけが、例えば口角の微かな窪みや、いつも清潔に整えられた眉山だとか、僅かに上を向くその鼻梁だとか、ソマリアの子供が泥水から掬い上げた水晶の破片のような記憶の集積が、私の孤独の周りを衛星として周っている。けれど実のところ、周っているのは衛星ではなくて私の方なのかもしれなかった。あれだけあなたの孤独を知り、コンクリートブロ

もっとみる
綿飴とニューカレドニアで暗殺された首相

綿飴とニューカレドニアで暗殺された首相

早く夏を抜け出したい。

祈りのように。きれぎれの言葉で。信じること、という。根源を持たないまま信じることを考えても、全ての瞬間でその思考が崩れ去っていくような気がする。

傷をひらく。思い出したくないことと、思い出せないことと。思い出したくないことのなかにも、ひとがそうするように(侮辱や蔑視の匂いで)しむけるものと、自らが執拗におのれへ課す立ち入り禁止の標識がある。

前者によって縛られた記憶は

もっとみる

宮崎駿と祖母と、マック。海辺の街から

しばらくぶりに正常な暑さだった。窓を全開にして緑の中を走り抜け、映画を見に行った。信号に止められるたびに蝉の声が車内に入り込んでくる。木々の向こうに見える公園で親子が遊んでいるのが見える。どの水準であれ正常さはあって、私が気づかないだけなのだ、と思う。触発がいつも複数形で、それを嫌いながら、私自身、いつも複数形の触発に助けられてきたのだ。



いっしょに過ごしていた祖母は10年前に死んだ。7月

もっとみる
無題、しいていえば、無題。

無題、しいていえば、無題。

湿度。まとわりつくような。皮膚。ぐるぐると考えるよりこの頃はしゃきしゃきと考える。というか。それもできない。ぐるぐるしながら結局下にいく。なんだか。ハイフンの問題をずっと考えている気がする。と。と。と。et, et, et.. 2023年ももう半分が過ぎた。接続。比喩。換喩。実際に過ぎたのは半分ではないかもしれないのに。記憶、ひこばえ。冷たい水。日射病。

概念を、意味を、抱えきれない。あれこれと

もっとみる
あまb-いにおu-いやr-まいy-(埋sweet-smell-disease葬)

あまb-いにおu-いやr-まいy-(埋sweet-smell-disease葬)

ときめく、揺蕩う、立ち止まる、離れる。素直に書こう。

ときならずとも

対象にたいして、ずっとときめき続けるというのは、想像以上にエネルギーを費やす行為だと思う。ときめく、という言葉を使わないとしても、例えば「向き合う」とか「興味を持つ」とか「愛する」とか。

その意味では、会話という行為は「あなたに対していつもときめき直すこと」なのだと思う。あなたが次の瞬間に何を語るのか、唇の動きの奥底にある

もっとみる
この夜の気候区分/肉の等高線

この夜の気候区分/肉の等高線

軽やかに覚悟を共有すること。

知り合うことも分かり合うこともないけれど、星雲の色を名指すことは、例えば可能で、

犠牲にする、という言葉をよく考える(深く考える)。
物体運動の第三法則。

努力するという行為は美しさを生むことはあっても、
それ自体が丁寧で美しいだろうか、

たとえば、

ラジオ体操の帰り道に出会った、ドクダミの若葉にやや潰えた球体として残存している朝露の光の透過度など、
予定せ

もっとみる

九段下へ向かう電車のなかで

ここ3ヶ月ほど考えていることがある。「いいじゃん、めんどくさいし…」という言葉の持つヘテロセクシュアリティについて。飛び飛びの断片から、ほんの少しだけ・少しよりは多く・多くよりは少し。

どこから何を書こうとしたのだろう、悩みながら、ご飯を食べ、あるいはドラマを見たり、本を読んだり… いくつもの断片と継続と中断に引き裂かれながら、どのどれもが根源的に同じ違和をささやく。し損ねることについて。いつも

もっとみる
凡庸な革命

凡庸な革命

卒論を書いた。書いたというより、書いてはじめて、スタートライン(の少し手前)に立っているような気がする。自分にできないことの感触だけが鮮烈に、例えばユリの茎をばつんと切り落とした時の……アルデハイドやガルバナムの匂いのように……立ち現れている。

1月19日から(搬入は1月16日から)の展示が1月30日で終了した。歌舞伎町デカメロンにて約2週間、走り終えた展示の感触はもうどこかへ過ぎ去っていて、心

もっとみる
全てはあとから

全てはあとから

記録はなぜないのだろう? 薄々感じていたが、記録がないのではなく、記録は存在できないのだ。その全てが記録になりうる濃密な出来事の内側にあっては、何事も不可能で、それゆえに全てが可能になっている。記述と言い換えてもいい。一分一秒がその出来事の全てを完膚なきまでに指し示してしまうとき、そこから何事かを純化して、取り出すことはできない。切り取られた断片一つだけでは全く機能せず、出来事の〈一〉性を伝えるた

もっとみる
12月をまだ許さない

12月をまだ許さない

sfcのメディアセンター3Fからオメガ館の外壁が見える。西日が鴨池周りの木を照らして、その木漏れ日に似た影がコンクリートに投影されて、モアレのような模様を作り出す。人は生き急いで、むろん私もその一人ではあって、今年と来年の境界線を飾り立てようとしている。忙しい赤と緑の包囲網から抜け出して、透徹した冬の空気の中で、どうしたらよいかわからず、立ち尽くしている。もう十分やったと思うし、同時に何もできてい

もっとみる
冬の朝が到来して・レモンジャムがない日のこと・政治

冬の朝が到来して・レモンジャムがない日のこと・政治

いつものことだ。いつものこと? いつも……そこで湧き起こるさまざまの逡巡は本当にいつもなのだろうか。何かを忘れているような気持ちで、薄ピンクに染まった夢の中を歩く。片付けかけのテーブル、とうに冷め切った紅茶、責め立ててやまない締切、各種の書類、関係項のなかで生きる自分、賞味期限の迫った山型食パン、マーマレード、冷えた足の指先、目が覚める。冬の朝らしい弱い陽光に輪郭を浮かび上がらせるテーブル。羽毛布

もっとみる
朝日の代わりにレモンを、夢の後始末

朝日の代わりにレモンを、夢の後始末

意を決して何かを書き始めているうちに、必要に迫られてさまざまの節々、襞の折り目、カーテンの隙間などを探すことになって、いつのまにか膝下までを水に浸していることに気付いたりする。そのときの水温はいつも、たとえば寝付けないときの自分の体温に似ていたりして、妙にぞわぞわする生温さを称えていたりするのだった。それでいてあくまでも透明で、どこまでも覗き込めそうなほど、眼球にぴったりと当てはまっていく。踏み込

もっとみる
オレンジタルトと話した日のこと

オレンジタルトと話した日のこと

ある曲を初めて聴くときいつも、それが一度でぴったりするすると調和を持って流れ込むことはない。何度も繰り返し聴くうちに、全体としての緩急、音の流れ込むタイミング、言葉、あらゆる要素がようやくまとまりだして、一つの曲として聴けるようになる。いつも不思議に思う、ある言葉を聞いていて、その内容は覚えていられるのにどうして一言一句覚えていることはできないのだろう、と。それを思い出そうとするたびに常に流れ込ん

もっとみる