すべり台と雨

昔、雨が降って来た時に兄の表情が今思えばどこか安堵している様に見えた。

「なんでニヤけてんの?」

「雨が好きやねん」

「えぇー、雨降ってたら出来る遊びの幅減るし濡れるし、学校行くのもだるいやん」

「それを経験したから雨が好き」

「んー、わからんわぁ。」

こんな兄との会話を思い出して雨の中何故か傘もささず家を飛び出し、小さい頃遊んだ公園に向かった。
自分でもなぜそんな事をしたのかはわからない。
ただ、土砂降りの雨の中、1人で滑り台に登ってみた。雨に濡れる事を気にもせず。

そして意味もなく滑り台に寝転びすぐに消えてしまうとわかっていながらタバコに火をつけた。

湿気ている煙を吸い込み、吐き出す。

そして気が付いた。大きくなった自分の身体には滑り台がとても窮屈になっていた。ジャングルジムもそうだった。

昔はあの狭い空間の中でも自由に動き回れたのに今は窮屈に感じる。

だから兄の言っていた言葉の意味が少し理解出来た気がする。
濡れる事を諦めた、と言うよりかは濡れている事を忘れていた。

その中で思い出した事があった。


僕も雨が好きになった。

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