リバイバル・オブ・メモリー

 妻の古い日記を手に取る。生前の彼女はこれを懐かしむように読み返す事があった。
 
「よほど大切な思い出なんだね」
「私の人生で決して忘れてはいけない思い出よ」

 そんなやり取りを妻としていたのを思い出すと、途端に涙が溢れてくる。葬式も埋葬も終わり、これから新しい人生を始めなくてはならないのに、私は未だ妻の死を引きずっていた。
 
「私にもしものことがあったら、あの日記を開いて」

 病で亡くなる直前、妻は日記の鍵を私に預けてくれた。彼女の意図はわからないが、それがなんであれ、私を大切に思ってのことであると分かる。
 
 鍵を開け日記を開いた瞬間、私は絶句した。中に一丁の自動拳銃があった。これは日記に偽装した箱だ。

「なぜ……」

 銃を持つと、長年愛用した万年筆のように手に馴染む。人殺しの道具にも関わらず、私はそれに不思議と安心感を覚えた。
 
 日記の中には写真もあった。それは映画館を撮影したものだ。古い作品をリバイバル上映していて、私が妻と出会った思い出の場所でもある。
 
 写真の裏には「妻を失ったらここに向え」と私の字で書かれていた。しかし、私はこんなのを書いた覚えがない。
 
 困惑しつつも、私は未知の自分の言葉に従うことにした。妻もそれを望んでいるだろう。
 
 私は愛銃と共に家を出る。すると、玄関先には一人の男が立っていた。彼は私の隣人だ。
 
「奥さんのことは残念でした。貴方とはずっと良き隣人でいたかったが、本当に残念だ」

 隣人は悲しげな表情で懐から拳銃を取り出す。殺意を向けられていると感じた瞬間、私は自分の銃で即座に彼を射殺した。
 
 私は呆然とした。人を、殺した。呼吸をするかのように。私の身に何が起きている。
 
 あの映画館に行けば分かるはず。私は駆け出そうとするが、またしても立ちふさがる者がいた。妻と親しかった近所の主婦だ。彼女は散弾銃を私に向けていた。
 
「なぜ私を殺そうとする!」

 主婦は答えず、散弾銃の引き金を引いた。
 
【続く】

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