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芋煮でクリスマスを楽しもう! 白だし豆乳のホワイト芋煮【怪文書付き】

●材料(2人前)

・A
 鶏もも肉 150g
 大根 8分の1本
 にんじん 半分
 しいたけ 2個
 長ネギ 1本
 里芋 6個

・B
 無調整豆乳 200ml
 水 100ml
 白だし 40ml

●作り方
里芋は上下を切り落とし、皮をむいたら一口大に切りる
鶏もも肉は食べやすい大きさに切る。
大根、人参はいちょう切りにする。
長ネギは斜め切りにする。
しいたけは石づきを取る。

鍋にAとBの材料を半分入れ、中火にかける。

里芋が煮えたら完成。

●本編
 山形風はソ連、仙台風はアメリカの支援を受け、芋煮対立は超大国の代理戦争と化した。
 1962年、ソ連が山形に核ミサイルを配備。この緊迫状況に対話による問題解決を目指すも、核ミサイルの発射という最悪の結末を迎える。
 これによって勃発した史上初の核戦争である第1次芋煮大戦は人類に不可逆の断絶をもたらした。

 人類絶滅前にかろうじて休戦されたものの、しかし真なる和解には至らなかった。
 きのこの山とたけのこの里、焼鳥の塩とタレ、つぶ餡とこし餡、大阪と広島のお好み焼き、カトリックとプロテスタント、資本主義と社会主義。ありとあらゆる対立が山形風と仙台風の対立に集約され、世界はいつ第2次芋煮大戦が始まるかわからない緊迫した状況にあった。

 そんな中、二人の兵士が雪山で遭難した。
 一人は山形芋煮軍、もう一人は仙台芋煮軍である。お互い味方とはぐれていた。
 休戦中とはいえ非公式の小競り合いは頻繁にあった。二人の兵士はその戦闘に参加していたのだが、突如発生した吹雪により戦闘は大混乱に陥った。
 どうにかして吹雪を凌げる場所を探して洞窟を見つけたところで、二人の兵士は鉢合わせた。
 
「お互い、生きるのを優先しないか?」
「分かった。クリスマスイブに死にたくはないからな」

 その日は12月24日だった。
 二人は吹雪を避けるため洞窟にさらに奥へ進む。

「扉だと?」
「中立派のシェルターかもしれん」

 ある男が発表した鶏塩芋煮をきっかけに、どの陣営にも属さずに生きる者達が現れた。彼らは人里離れた場所にシェルターを建設してそこで暮らすという。
 二人の兵士が警戒しながら入る。
 シェルター内は異様な静寂に包まれていた。人の気配がまるでない。
 住人とおもしき男がいた。正確にはその死体だ。頭を拳銃で撃ち抜いている

「自殺か……」
「日記を見つけた。どうやら孤独な生活に耐えきれなかったらしい」

 日記には男が日に日に正気を失う様が書かれている。死んだのは昨日のことのようだ。

「幸いにも電力はまだ生きている。こいつには悪いが、シェルターを使わせてもらおう」
「ああ、そうだな。食料が残っているといいんだが」

 二人とも空腹に上、寒さで凍えていた。芋煮が食べたかった。
 しかし、食料庫には里芋と野菜はあったのだが、肉は鶏肉のみ。調味料は醤油も味噌もなかった。
 牛肉醤油味の山形にも豚肉味噌味の仙台にも属さないのであれば、必然であった。

「こうなったら仕方ない。今ある材料で無理矢理にでも芋煮を作ってやる」
「背に腹はかえられないか」

 その結果、出来上がった芋煮は山形風でも仙台風でもない、豆乳と白だしで作った奇妙な芋煮となった。

「ホワイト芋煮か」
「クリスマスらしいといえばらしいか」

 渋々ホワイト芋煮を食べ始める兵士たちは、口にこそ出さないがこれで良かったと思った。
 生き残る為とはいえ、敵の芋煮を食べるのは苦痛だった。
 そのため、このような芋煮と言えぬような芋煮の方がかえって抵抗がなかった。
 ホワイト芋煮を食べ終えた二人の兵士は眠りにつく。

 お互い不思議と相手が寝込みを襲ってくるとは思わなかった。
 同じ釜の飯ならぬ同じ鍋の芋煮を食べたためなのか、少なくともこの場限りの信頼が二人の間に生まれたのだ。
 一晩過ぎ、翌朝にはすっかり吹雪は晴れて気持ちの良い青空が広がっている。

「じゃあな。お互いもう二度会うこともないだろ」
「そうだな。これで永遠にお別れだ

 次に出会えば殺し合いになるだろう。そうなって欲しくないと願いながら、二人兵士は別れた。

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