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魔法使いの勉強

 神埼美奈は今ほど心が躍る時は、自分の人生において無かっただろうと思っていた。
 幼い頃、テレビアニメに出てくる魔法使いの女の子に憧れ、それを将来の夢としたのも過去の話。今は中学生で、大人につま先を入れていれば現実というものが多少なりともわかる。
 
 だが、美奈の幼い頃の夢は意外にも実現する。
 そう! 魔法は実在したのだ!
 そして! 美奈は魔力に覚醒した!
 
 事細かに説明できないが、しかし自分の中で何かが目覚めたと感じるようになってからわずか3日後、どうやって美奈の存在を知ったのかわからないが、魔法使いの保護と教育を目的とする政府の秘密組織が現れた。
 魔法とは全く縁がなさそうな、いかにも役人然としたスーツの男によって、美奈は夢見島という場所に連れてこられた。魔法使いたちが暮らす島であり、美奈は一人前の魔法使いになるまで、ここで勉強をするという。
 
 勉強は大の苦手だったが、学ぶのが魔法というのであれば話は別だ。
 がちゃりと扉が開く音が聞こえる。来た! と美奈の心は更に高鳴った。

「おお!」

 美奈は思わず声に出してしまった。
 魔法の先生は若い女性だった。服装こそ普通のレディーススーツを来ているが、マントを羽織って三角帽子をかぶっている。現代日本に生きる魔法使いそのものだ。
 
「こんにちは、あなたが神埼美奈さんね。私は赤木鳩美といいます。今日からよろしくおねがいしますね」
「はい! よろしくおねがいします」

 美奈は元気よく返事をした。
 
「それではまずはこのテストを受けてください」
「え?」

 鳩美からスッとだされたテスト用紙を見て美奈は素っ頓狂な声を出した。
 だがすぐに気を取り直した。事前説明で魔法には人によって向き不向きがると言われていたのを思い出す。もしかするとこのテストは適性を確かめるためかもしれない。
 とにかく美奈はテストを受ける。その内容は、どういうわけか科学知識を問うものだった。
 
「あの、先生」
「はい、なんでしょう」

 テストが終わった後、美奈はおずおずと尋ねる。

「これ、魔法と関係あるんですか?」
「大いにありますよ」

 美奈の質問は予想していたのか赤木はニコニコと答えてくれた。
 
「魔法とは、想像力を現実にする超能力なのです。なので想像力を養うためにいろんな知識が必要となります。たとえば火の魔法と使うには、火に対する科学的知識が必要です」
「そ、そうなんですか。じゃあ魔法の勉強って」
「半分くらいは科学の勉強ですね」

 その言葉を聞いた瞬間、美奈の脳裏の中で「ガーン!」という音なき音が響いた。
 
「そ、そうなんですね……」

 美奈はあからさまに落胆した。夢にまで見た魔法を学べるという喜びから一転! 美奈の心が曇り始める。

「大丈夫、安心してください。神崎さんが期待しているような側面はちゃんとありますよ。例えば私の本業は魔法の道具を作ることです」
「本当ですか!? 一体どんなのなんです?」

 魔法の道具! 美奈は思わず食いついた。
 
「魔物退治用の防護服ですね。魔物は魔法使いを積極的に捕食しようとする危険な生き物ですから」
「その防護服って、もしかして変身して着るやつですか」
「ええ、そうですよ。上から許可はもらっているので、ちょっとだけ見せてあげます」

 鳩美がダイバーウォッチのようにごつい腕時計にふれると、文字盤の表面に魔法陣が浮かび上がる。
 
「変身!」

 鳩美が発声すると彼女の全身がまばゆい光りに包まれる。
 美奈はそのさまを、魔法使いに憧れていた幼い頃のような表情で見ていた。
 流石に鳩美は大人の女性なので、プ○キュアのようなフリフリの衣装ではないだろうが、それでも変身は変身だ。
 
 きっと大人の魅力溢れた美しい魔法のドレス姿なのだろうと思っていると、光がおさまって変身した鳩美の姿が現れた。
 それは全身を赤い装甲で包まれたパワードスーツだった。その姿はプ○キュアというよりもむしろ……
 
「仮○ライダーじゃないですか!」

 またしても期待を裏切られた。
 
「防御性能を考えたらこうなりますよ」
「たしかに! たしかにそうですけど!」

 現実的に考えてフリフリ衣装で殺傷能力を持つ生物と戦うのは、あまりに危険すぎるというのは美奈を理解している。
 しかし。しかし、だ。
 
「思っていたのと違う!」

 叫ぶ美奈の瞳には涙が滲んでいた。

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