誰もが優しくしてくれるから



今までの私は、なりたくてなった「作り上げた」私だった。
どうやったら周囲に馴染みやすいか、面倒事が起きないか、生きやすくなるか。コミュニケーションが上手で、要領よく過ごしている人たちを観察して推測して実践して、良いところを集めて出来上がった私。

本来は自分から他人に話しかけないし、目立ちたくないし、やるべきことはきっちりやりたい。学校もバイトも、勉強(仕事)をするために行っているのだから遊ぶ必要なんてないじゃん、と思っていた。学校には友だちがいたが、塾やバイト先ではずっとひとりだった。それはそれで楽だった。自分のことだけ考えていればいいから。でも社会では生きにくかった。周囲の人たちから「この子の扱いはどうすればいいんだろう」という戸惑いを感じ取っていた。

だから生きやすくなりたいと思った。明るくて適度に抜けていて、最低限のことだけやる。徐々に自分を武装していった。すると驚くほど生きやすくなった。周囲の人からの態度も変わった。馬鹿な子ほど可愛いって本当なんだなって思った。それが私の生存戦略だった。

それが板につくと、今度はやめられなくなった。他人とあうと反射的に「社交モード」に切り替わり、求められる自分を演じるようになった。ヘラヘラして話しやすい子になった。前に仕事で出会った方に「ヘラヘラしようとしてわざとやってるでしょ」と気づかれたことがある。安心すると同時に、怖くなった。完璧に作り上げていると思っていたのに、まだ駄目なのか。

武装して強化して、なりたい自分を作り上げて。そうやって生きてきたから、これからもずっとそうしていくんだと思っていた。もう慣れっこだと、これが当たり前なんだと思っていた。でも違った。いくら外装が強くなっても、中身は何も変わっていなかった。変われていなかった。退職するときに上司に「なみさんは強く見えるから」と言われた。イメージ戦略大成功である。喜ばしいことなのに、心は叫んでいた。違う、私はそんなに強くない。もう頑張れない。

そこから人に会うのが怖くなってしまった。求められる、今までの私にならなきいけないと思ってしまう。休職していた1ヶ月間はひとりで過ごしていたから精神的に安定していることが多かった。しかし、新しい仕事を初めてすぐにまた怖くなってしまった。崩れた武装の欠片を集めて、ぼろぼろの盾で自分を守っている。

盾を強化できるか、また崩れてしまうのか。
毎日怯えている。




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