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20231126ふかいメルマガ26回 SDGsで新しい資本主義

おはようございます!
東京は雨のスタートですね。

ところで、COP26が11月12日に終わりました。
COP26とは、「国連気候変動枠組条約締約国による第26回目の会議」という意味です。
この会議は、地球の温暖化・気候変動・気候危機問題を解決するために
毎年各国の持ち回り主催で開催されています。

今年の最大の関心は、温暖化の元凶とも言われる「脱石炭」にどこまで踏み込めるかでした。
COP26 で決議される予定だった「石炭・化石燃料の段階的廃止」の議長声明は、なんと開始1分前に中国とインドが突如反対。
3時間以上のすったもんだの挙句、「石炭・化石燃料の段階的廃止」は「段階的削減」に弱められました。
シャルマ議長が「こんなことになって申し訳ない」と、声を詰まらせ悔し涙をぬぐいながら議長声明を出し、「残念だけどよくやったよ!」と、会場の各国代表がスタンディングオベーションで応えるという映像は、感動的ではあるものの、各国の複雑な思惑を浮き彫りにするものでした。
こういう対立は、実はSDGsの成立過程でもありました。

SDGs(Sustainable Development Goals持続可能な開発目標)は、
2030年までに「だれ一人取り残さない」という理念で、17の目標が設定
されています。
17のゴールには、169のターゲットと232の指標が紐づいていて、
17のゴールは漠然としていますが実はターゲットと指標で細かく定義されています。
日本では、訳しにくいからか話題にならないのですが、
SDGsの採択文書には「Transforming our world」というタイトルがつけられ、欧米では「だれ一人取り残さない」以上に取り上げられている言葉です。

「Transform」という言葉は直訳すると「変身」「変態」。
「change」「変わる」「変える」よりももっと強く、根本的に大きく変わることを意味します。
まさに、幼虫からさなぎになって蝶になることが「Transform」。
つまり、「根本的に世界のあり方を変えよう」というのがSDGsの本質だと言えます。

SDGsは2015年の9月25日に国連に加盟している192の国と地域の賛成によって採択され、2016年の1月1日にスタートしています。
もちろん日本もですが、当時はほとんど知られていません。
2年後の2017年12月に経団連がSDGsを企業憲章に盛り込んだことで、
上場企業の経営者がSDGsのバッジをつけはじめます。
日経新聞や神奈川県がSDGsのセミナーやイベントをはじめたのが2018年ごろ。
経営者だけでなく、企業として関心を持ち始めたのは2019年に入ってから。
私が事務局長を務める一般社団法人ソーシャルプロダクツ普及推進協会(APSP)に、SDGs関連のセミナーの問い合わせが入り始めたのも2019年に入ってからです。
だからAPSPでは、2019年を日本企業のSDGs元年と総括しました。

SDGsを発案したのは、コロンビア・グアテマラ・ペルーで、2012年のこと。
意外な国だとは思いませんか?
この背景には、先進国と途上国の綱引きがありました。

あまり知られていませんがSDGsの前にMDGsがありました。
Millennium Development Goalsの略で、2000年(ミレニアム)にスタートしています。
MDGsは8つの開発目標が設定されていました。

1飢餓 2教育 3ジェンダー 4幼児死亡 5妊産婦健康
6疫病 7環境 8開発パートナーシップ
この8つは、SDGsにほとんど引き継がれていますが、
問題はこのMDGsが、途上国の救済に絞られていたことです。
これには、途上国が反発しました。

地球を持続可能にするには、途上国の社会問題だけでなく、
先進国だって社会問題を抱えているはずだ、というものです。
こうして、SDGsがコロンビア・グアテマラ・ペルーから発案され、
SDGsの17の開発目標ができました。
それで、
1貧困 2飢餓 3健康 4教育 5ジェンダー 6水とトイレ
がどちらかといえば途上国の目標
7エネルギー 8働きがい 9産業と技術革新 10国と人の平等 11まちづくり
はどちらかといえば先進国の目標
13気候変動 14海 15陸 16平和 17パートナーシップ
は全世界の目標
、となりました。

ところで、SDGsの17色の丸いバッジをよく見かけると思います。
バッジ自体はアマゾンでも売っているので、誰でも付けられますが、
一番つけている業界があるのをご存知ですか?

それは、証券・銀行・信金などの金融業界です。

当然これには理由があります。
2006年、SDGsが採択される9年前。
当時のアナン国連事務総長がPRI(責任投資原則)を提唱します。
これはESG、環境(Environment)・社会(Social)・統治(Governance)の情報に基づいた投資をするように投資家に呼びかけたもので、今のESG投資やESG経営のきっかけとなるものです。

そのPRIが世界で注目されるきっかけをつくったのは、意外にも日本でした。

理由は、日本のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が、2015年にPRIに署名したからです。
GPIFは、日本人の年金を株や国債で運用する団体で、その運用資金は170兆円と世界最大の機関投資家でもあります。
ソフトバンク孫さんのビジョンファンドが10兆円ですから、その17倍です!
世界最大の機関投資家GPIFが、ESG情報を優先して運用する株は、当然世界中の投資家が注目することとなりました。
ここからESG投資が一気に広がります。

GPIFがESG投資を重視するのは必然です。
なぜなら、日本人の年金を運用する組織なわけですから、短期的な株の上げ下げで儲けるということではなく、長期にわたって安定して安全な株を運用したいわけです。
そうなれば、急激な成長が期待できる企業よりも、長い将来にわたって社会に必要とされる企業の方が良いのです。
それを見極める指標がESGでした。


それまでの株価、つまり企業価値を決めるものは、貸借対照表(B/S)・損益計算書(P/L)などの数字がベースでした。
しかしESGは、環境と社会にどのように配慮した経営がされているか、企業統治はきちんと行われているか、つまり悪いことをしていないか、という定性情報が中心です。
企業の価値を測るモノサシが、結果や期待値だけではなく、その結果をどのように導いたのかという、プロセスも重視されるようになったのです。

これは数字に置き換えるのが非常に難しいため、ESGが高いと言われている企業が本当に成長するのかという、批判もあります。
ですから、GPIFのHPでは、ESGを何で判断しているかその指標が明らかにされています。
今では世界中の証券会社、銀行、その他の金融機関が、自社のESGの基準となる指標を公表し競い合っている状況です。
そういう意味では、まだ試行錯誤の段階です。
こうして投資家がESGを注目するようになったことから、日本の金融機関もESGに力を入れるようになりました。
SDGsバッジを金融機関の社員のほとんどが付けているのは、こういう理由があるからです。

さらに付け加えるなら、金融機関の商品はおカネ・債権です。あとは人と建物があるだけ。
SDGsの17の目標にビジネスで貢献しにくい業種なのです。
モノを作るメーカーや仕入れて売る小売業に比べて、商売に具体的な社会貢献という付加価値をつけにくい業種なんですね。
だから、SDGsに取り組んでいる企業を支援(する金融商品を販売)していますよ、というアピールのためにSDGsバッジをつけているのです。

ところで、岸田首相が提唱する「新しい資本主義」。
そのカタチが見えないと批判されていますが、私はこのESGこそ新しい資本主義だと思っています。
業績さえ上げれば、著しい成長が見込めれば、企業価値が上がる、という従来の資本主義は、環境を破壊し分断化を引き起こした、というだけでなく、市場の量的な成長、言い換えれば人口増大によってでしか経済は成長しないという理屈に陥ってしまいます。
それによって、中国は急成長し、次にインドやASEANが伸びてくる。
少子高齢化で人口減少の日本は、取り残されるという図式が出来上がっていました。
しかし、世界は人口爆発によって環境破壊だけでなく食糧難の時代です。
人口は増やさなくても、豊かな社会と生活を追求する時代に入っているはず
です。
その一石を投じたのがアナン第7代国連事務総長のPRIであり、GPIFが影響力を発揮したESG投資なのです。

というわけで、今日はここまでで来週に続けます。
今回はちょっと固かったですね。
ここまで読んでいただいてありがとうございました。
来週は、MDGsの失敗とESGの流れをくんだSDGsが、
なぜここまで一気に日本で広がったのか。
その一方でSDGsへの批判も強まっています。
SDGsの光と影についてお話ししたいと思います。

今週もよろしくお願いします!

深井賢一

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