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眩しい記憶

「二人とも、もう少し右かな。あ、うん、そこで」
「本当にいいの?一緒に撮らなくて」
「いいの。撮るほうが好きだから。しかも、誰が撮るの?」
「タイマーとかあるだろ」
「あ、そうだった。んーでもやっぱり二人で!」

春先になり
温かい春風が吹いている青と緑を背景に
若菜は写真を撮りたいと言った。

「なんだよ、こんな時に男二人で」
ハジメは少し照れながら森下の右肩に腕を回す
筋肉質の腕と体重が森下の身体を押してくる
ハジメは昔から身体が大きいほうであったが
高校二年から筋トレを始めてさらに大きくなっていた

上半身に筋肉を付けたほうがスパイクが強く打てるようになるんだよ
ハジメはそう言っていたが
学校では女子から見えるところで
偶然を装い服を脱ぎその上半身を披露していたから
恐らくはモテたかったんだろうとも思う
小学校一年から通い始めた書道教室以来
高校卒業まで書道漬けの森下からしたら
そんなハジメが面白くもあり
また羨ましくもあった

ハジメと森下と若菜
この三人は元々一緒の書道教室に通っていた幼馴染だ

若菜は小学校卒業まで続けていたが
中学からは吹奏楽部に入部し
書道教室では会うことはなくなった
だが、若菜の書く字はとても美しく
中高で毎年のように書道の賞をもらっていた
森下も賞をもらっていたが
部活でも充実して友達がいるなか
一種の特技として賞をもらっている若菜を
器用な奴だなと思う反面
やはり羨ましくもあった
高校になり若菜は
たまに父親から借りたという
カメラを持って遊びに出かけていた
白くて細いその身体には似合わない
黒くて重量のあるカメラを首にかけていた

森下は人付き合いが苦手なほうではあるが
この田舎の町のおかげで幸いにも
学校生活はそれなりに楽しめた
書道教室でハジメと若菜に出会い関われたことも大きかった
小学校から高校まで
ほとんど同じ人びとで構成されており
中学の時は全校生徒が100人ほどしかいなかった
高校になり少しは人も増えたが
やはり少数で形成されたこの町が森下には居心地がよかった
ある程度顔見知りで
ある程度いい距離を保てていた

そんな森下をハジメと若菜はいつも
お前はそんなはずじゃないと
冗談交じりに、だが若干の本心を込めて言っていた
お前の良さを知っているから言えるんだけど
もっと俺らといるときの感じを出せばいいのに
ほらこの前もさ、お前って面白いんだよ
みんなに伝わってほしいなー
そう言って思い出し笑いをし
くねくねと蛇行しながら自転車で走るハジメと
けらけらと笑う若菜の笑い声が
汗をかいた匂いと長い髪の毛に包まれ
夏の風がそれらを運んできた
森下の鼻をツンと刺激した下り坂を思い出す


隣で肩を組んできたハジメからは
あの頃とは違う匂いがする
若菜の髪の毛は短く切り茶髪になって
重そうなカメラから小型のデジカメに変わっている

田舎の小さな町の
海と山に囲まれた場所から
僕たちは旅立つ

あの頃の日常がすべて
過去となり色褪せない記憶として
刻まれていく
この瞬間を僕は忘れないだろう

この町を去ることが
少し寂しくなった
また集まろう、お互い頑張ろう
若菜の撮った写真を囲み
三人の間を流れた沈黙
海と山の音が
僕らを祝福してくれた



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私たちは日々

人と関わって生きていく

呆れた 当り前じゃないか

まぁまぁ のんびりして聞いてくれ

この「関わる」ということを今一度考えたい

関係を持つ、影響する、問題する
似た意味はたくさんあるが
関わると聞いて何を思うだろう
人との関わり、仕事への関わり、命に関わる

私はかかわるときいて
人との関わりを考えさせられる
人と関わって生きていく
無自覚のうちから
母親との関係や家族との関わり
そして義務教育などの
ある程度年が近い者同士との関わり
それから大学や社会に出た時の多様な人々との関わり

かかわるということはとても力がいることだ

皆思っていることだと思うがどうだろう
別に自身を卑下しているわけではなく
ふと思うことがある
そんな日々を繰り返し蓋をしていると
過去に馴染んだ記憶を美しいものに感じる
そんなことを考えている

少しだけ甘酸っぱさも感じながら書いていました。
今日も皆さん、お疲れ様です。
見てくれてありがとうございました。
次の更新もぜひ見てください。

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