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迫真

影森 スズ 『最後の言葉』
 
目を瞑ってベッドで眠る時
切り離された孤独の世界を感じる時
青々とした芝生の上で
光り輝く空に顔を向け
陽の光に照らされると
目の前に現れる
赤褐色の瞼の色を見た時
僕は安心を覚える
 
母を想う時
大切な誰かと愛を交わす時
煌びやかな街と風景に
多勢が押し寄せ
取りこぼさないように
この瞬間は二度とないという
眼差しに満ちた海へ
放り出される時
僕は強く不安になる
 
人は愛情や友情を与え受け取る
情という言葉があるから
あげるもの、もらうもの、になるのだ
なにもない、そこには本来
そうしたかったという
衝動的なものでいいのではないのか
愛情をもらった分、何かの形で返したい
友情をもらった分、誠意ある行動をしたい
実に立派である
僕は人間として欠落している部分が多くあり
そのせいで沢山の失敗をしてきた
全てが戯言で片付けられるほど
生きているこの時代は
宇宙的に見たら
ただの埃にすぎないだろう
 
然し当の本人達は終わりのない旅路を
次の行き先がわからぬ船に乗せられ
必須の死の事実と共に流離う
旅の途中で大きく頑丈な船を
手にしたとしても
流れに逆らい続けると
いつかどこかで
破壊され侵食され蝕まれ
知らず知らずのうちに重くなった船が
気付いた時には壮大な海に飲み込まれる
そしてまた
何事もなかったかのように
不規則な流れが水面を漂う
これまでの軌跡の数々
それら全ては大きな存在の中で
塵となって消える
どこかで皆
その事実に蓋をして
この世界を謳歌する術を
身につけ育み残そうとする
 
この命が終わる時に
僕は何を思うのだろうか
朽ち果てる命だから
好きなことを好きなだけやろう
その言葉を聞くたびに
魚の骨が喉に刺さったままのような
違和感を感じる
放置していたら
身体の調子が悪くなり
心の平穏を保てなくなりそうだ
だから壊したくなる
未来への希望や体のいい言葉達
それらに沿って船を航海させたくはない
自分の目の前で起こること一つ一つ
ほんの少しの波の流れの変化に
ことごとく敏感になり
いつでも沈みゆく船であると
空から眺めた目線で
人生の只中を感じていたい
僕は非情な人間に映るだろうか
そんなことは皆分かったうえで
楽しもうとしていると
咎められるだろうか
生を受け取ったその瞬間から
人間としての営みに
物質的な快楽に身を投じ
私は生きていると
実感することが最善だろうか
確かに僕は非情だろう
数々の裏切りと
保身のための言葉で
逃げ隠れしてきた人生だった
人の気持ちに共感することは難しく
いつでも僕が僕を感じるだけである
それが家族や大切だと思う人に対しても
僕にしてみれば
数多あるパズルのピースの中から
合致するピースを見つけるほど困難だ
他者との関わりの中で
僕が常に気にしていること
それは誰とも深く関わらないこと
それだけだろう
どんな人間にもその側面はあるというが
僕から見ると皆
心を許し愛情を注ぎ
本当の意味で繋がっているようにしか見えない
深く関わらないということは
いくつもの自分を持ち合わせているということでもある
掴みどころのない空虚な男だ
まさに今、いつもの独りの部屋で
最後の言葉を綴る機会を得られたら
これまでの自分が嘘のように
皆には見えなかった場所があらわになる
驚くだろう
これもまた僕である
それでは、さようなら
僕が消えても何も変わらない
すべては海の底に沈み
次の日には綺麗な朝日が海を照らす
 
 
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最後の言葉はこうなるのかもしれない
完全に自分の言葉ではあるが
ほかの誰かの言葉にもなり得る
そんな言葉たちを残していきたい

今書いている小説からの抜粋です。

また次に会うときは
違う自分になっているのかも

ありがとうございます

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