クイズと記憶

クイズに強くなるための方法論についてはこれまで様々に書かれてきましたが、知識をベースとする競技クイズで特に重要となる「記憶」について深く掘り下げたものはあまり多くないように思います。ここ最近、記憶の心理学や記憶術について色々と調べていたので、クイズにどのように生かすか、という観点で少しまとめてみたいと思います。


記憶の心理学

記憶の心理学をクイズにどう生かすか、を具体的に考える前に、記憶の心理学の概要を、特にクイズに関わる部分についてざっと整理しておきます。知識をベースとしたクイズでは、ある知識について問題が出され、プレイヤーはそれに対して解答しますが、記憶の心理学という観点でこれを見ると、根幹にあるのは「意味記憶」の「長期記憶」の「再生」です。それぞれについて、順を追って説明します。

なお、この節の内容の多くはガブリエル・A・ラドヴァンスキー『記憶の心理学:基礎と応用』(Radvansky, 2021)に基づいています。より詳細な内容を知りたい場合は、まずこちらの本を読んでみることをおすすめします。

再生

心理学の学術研究において、記憶をテストする際には「再生」と「再認」の2種類の方法が主に利用されます。再生テストは記憶したものを実際に提示させる、というもので、再認テストは見覚えのある項目かどうかを同定させる、というものです。知識をベースとしたクイズは、ほとんど再生テストと同じものを行っていると見なして良いでしょう。また、早押しクイズにおいては「どこで押すか?」の判断に際して再認の能力が寄与している可能性があります。

長期記憶

人間の記憶は感覚記憶、短期記憶、長期記憶などに分類され、それぞれ保持期間や容量が異なります。感覚記憶は感覚器官の処理の中で一時的に保持される記憶で、視覚の処理で用いられるアイコニック・メモリなら250ミリ秒程度、聴覚の処理で用いられるエコーイック・メモリなら4秒程度と、非常に短期間だけ保持されます。

短期記憶はもう少し保持期間が長く、おおよそ数秒程度の間、わずかな情報を保持する記憶です。積極的な注意なしには、短期記憶は30秒以内にほぼ全てが忘却されます。短期記憶の容量については、Miller(1956)によって"マジックナンバー"と呼ばれている7±2程度の要素しか記憶できないと言われます。ただし、例えば「09012349876」という数字の列を「090-1234-9876」と分けるような具合に、情報をより大きな意味のある単位にまとめる「チャンキング」を使うことで、より大きな容量の情報を記憶することができます。

短期記憶の期間を超えて固定化された記憶を長期記憶と呼びます。これは保持期間が幅広い範囲にわたっていて、数日で消えるものもあれば、一生涯ずっと覚えているようなものも含みます。神経科学方面の研究では、長期記憶には脳内の"海馬"と呼ばれる器官におけるシナプスの固定化と、大脳皮質における固定化との2段階が存在するとみられており、前者は数日〜数週間程度、後者は数年〜一生に至る期間保持されると考えられているようです。

知識をベースとしたクイズでは、主に問題となるのはこの長期記憶となるでしょう。特に、あらゆるジャンルから出題されるクイズの場合、解答に必要な知識をインプットするのにはそれだけで膨大な時間がかかるので、少なくともその期間から実際のクイズの場までの間は長く記憶を保持し続ける必要があります。

意味記憶

心理学において記憶を分類する方法には観点の違いによりいくつかの分け方が知られていますが、その1つとして「エピソード記憶」と「意味記憶」という分け方があります(なお、これは厳密には宣言記憶の分類で、これとは別に手続き記憶などの非宣言記憶も考えられます)。エピソード記憶は人が個人的に経験した出来事についての記憶で、意味記憶は世界に関する一般的な知識を指しています。例えば、あなたが先週の日曜に参加したクイズ大会について思い出すのはエピソード記憶ですし、「クイズ」とは何かを思い出すことは意味記憶です。クイズ全般としてはエピソード記憶をベースにしたものも考えることができますが、現在競技クイズで一般的に見られるような「知識」を元にしたクイズは、意味記憶をベースにしたものといえるでしょう。

意味記憶では、例えばクイズについて考える時に個別のクイズ大会について具体的に一から検討することはないように、ある程度の情報が捨てられて抽象化された形で記憶されます。意味記憶として保持される各種の概念についてのモデル化には様々なものが提案されていますが、現在のところおおよそ定説となっているのは、Collins & Loftus (1975)やAshcraft(1976)で提案されているような意味ネットワークモデルをベースにしたものです。ここでは様々な概念がノードとしておかれ、それらが関連性によって様々にリンクづけられている、という構造を考えます。

このモデルは、意味記憶に見られる「プライミング」という現象をよく説明します。プライミングとは、ある概念の想起が別の類似概念の想起を促すという現象で、例えば"potato"の後に"doctor"が提示されるより"nurse"の後に"doctor"が提示される方が反応速度が速くなる、という形で表れます。意味ネットワークモデルに従うと、"nurse"を想起したときにネットワーク上で周辺にある"doctor"も合わせて活性化されることでこのプライミングが起きていると考えることができます。

意味ネットワークの各項目となる概念は具体的な事物を抽象化したものとなっています。この際、何かしらの類似性によって様々な形で事物が「カテゴリー化」されています。また、このカテゴリー化は複数の段階にわたって行われるため、カテゴリー同士をさらに抽象化して上位カテゴリーが作られる、ということもよく行われます。

この時、カテゴライズされた1つの概念はその各要素の平均となるような心的表象によって決定づけられます。こうした表象のことを「プロトタイプ」と呼びます(Rosch, 1975)。なお、プロトタイプによるカテゴリーの代表化が行き過ぎて、捨象されている部分も含めて同質なものと捉えてしまうのをステレオタイプと呼びます。ステレオタイプは偏見を引き起こす原因になるものですが、一般論としてプロトタイプそのものは意味記憶による適切な情報処理のためには欠かせない重要な働きです。

どのように抽象化しカテゴリー化するかは状況によって様々なものが考えられますが、人が生活する中で遭遇する様々な状況の中では頻繁に出会うものが多々あるため、人の脳内には特定の状況に対して瞬時に理解できるようにするための枠組みが用意されていると考えられます。こうした枠組みのことを「スキーマ」と呼びます(Bartlett, 1932)。Alba & Hasher(1983)によれば、スキーマは「選択」「抽象化」「解釈」「統合」「再構成」の5つの主要な機能を持っています。

スキーマの内容は、その人がどのような文化的共同体に属しどのような生活をするかによって変わってきます。Hirsch(1983)ではこのような文化的なスキーマの集合体を「文化リテラシー(カルチュラル・リテラシー)と呼びました。石田 佐恵子, 小川 博司 (2003)『クイズ文化の社会学』では、一つの説にすぎないと断った上でですが、クイズの題材はこの文化リテラシーだとする説を示しています。

記憶力を良くするには?

記憶に関する心理学の研究成果からは、記憶力を良くするための様々な方策が考えられます。

チャンキングと意味ネットワーク

クイズのための記憶では膨大な容量が要求されますが、容量の増加については上でも触れた「チャンキング」が特に重要になってきます。チャンキングは情報をグループ化することで短期記憶の容量を増やすという戦略です。長期記憶される内容は一旦短期記憶に格納されてから脳内に固定化されると考えられるので、長期記憶の容量を増やす上でもこの戦略は有用です。

上で、意味記憶について述べる際に「カテゴリー化」というプロセスが登場しましたが、これも一種のチャンキングの過程とみることができます。クイズの問題文ではしばしば「ドイツの物理学者は誰でしょう?」とか「白樺派を代表する作家は誰でしょう?」とか「バラ科の落葉高木は何でしょう?」といった落としが出てきますが、「ドイツの物理学者」「白樺派の作家」「バラ科の落葉高木」といった形で人物・事物を捉えるのは一種のカテゴリー化といえるでしょう。

また、上で言及した通り意味記憶は概念ネットワークとして記憶されると考えられるので、記憶の際にはその事物を他の概念と結びつけることが有用となります。特に、新しい物事を覚える際に、既に記憶している事物と関連付けることは重要です。

チャンキングと既有知識との関連付けとは、教育心理学においてAusubelが提唱している「有意味学習」の概念と関連しそうです。Ausubelは学習を受容学習-発見学習と機械的学習-有意味学習の2つの軸によって4分類する考え方を提唱しています。この後者の軸は、学習者によって意味のある内容を学習するものを有意味学習、そうでないものを機械的学習といったもので、特に学習内容と既有知識の関連性の有無を主眼としています。

Ausubelは教室での学習に際して、学習内容に意味を持たせるため、具体的な学習内容に入る前に「先行オーガナイザー」を提示するのが良いとしています。この先行オーガナイザーにはいくつか種類がありますが、「説明オーガナイザー」と呼ばれるものは学習内容を包括的に記述したもので、記憶の側面で言えばチャンキングに寄与する側面があると思われます。また「比較オーガナイザー」は既有知識との類似点や相違点を提示するものですが、こちらは意味ネットワークの形成に直接的に寄与しているでしょう。

心的イメージの形成

記憶の強度を増すという側面では、心的イメージの形成が重要とされています。記憶に際して、脳内でより深く処理されるものの方がより良く記憶されることが実験的に分かっており、中でもイメージの寄与が特に大きいことが知られています。これは経験的にはかなり古くから知られているもので、後に述べる"記憶術"の中でもイメージの有用性は非常によく強調されています。

心的イメージは視覚的なイメージのみならず、聴覚・嗅覚・味覚・触覚などの他の感覚も交えてイメージすることで、さらに脳内でよく処理され、よく記憶されることが期待できます。また、情動の記憶はニュートラルな記憶よりも優れており、とくに激しい情動は記憶が固定化しやすいことが知られています。これは悪く働けばトラウマのような記憶がなかなか消えずに苦しむといった症状にも繋がるものですが、うまく使うことができれば記憶を効果的に強めることができます。情動の種類については、ポジティブな情報をネガティブな情報よりよく想起する、という「ポリアンナの原理」が指摘される一方で、ネガティブな出来事が鮮烈に記憶されるフラッシュバルブ・メモリのようなものも知られています。

反復と干渉の防止

記憶をする際に、暗記カードなどを使って反復して記憶することでより定着させやすくする、というのがよく行われていると思います。実際、記憶の再生テストでは高頻度情報の方が記憶が固定化されやすいことが実験的に明らかになっています。

効果的な記憶方法について調べると、反復記憶の際に、Ebbinghausの古典的な研究を引いて、忘却曲線にそって反復タイミングを考えると良い、というのがよく言われているのを見かけます。Ebbinghausは子音-母音-子音の3文字からなる無意味綴り語の再生テストによって、記憶してから経過した時間が長くなればなるほど保持記憶量が少なくなっていくこと、また忘却の多くは学習された直後に起きていることを発見しました。また、忘却速度については「Jostの法則」というものも知られており、等しい強度の記憶については、古い記憶ほど新しい記憶よりゆっくり減衰する、と言われています。

記憶の忘却については、研究史の初期には単に時間に応じて減衰していく、もしくは記憶の不使用が忘却を生み出す、と考えられていました。ですが、現在は忘却はむしろ「干渉」によって引き起こされるとする考え方が主流となっているようです。すなわち、古い記憶と似たような新しい記憶がなされた際に、重複した記憶痕跡同士が干渉して、新しい記憶が忘却される「順向干渉」もしくは古い記憶が忘却される「逆向干渉」が生じます。

記憶を良くする方法の1つとして「寝る前に学習する」というものが挙げられることがありますが、これは寝ている間に新しい情報の記憶が少なくなるため、干渉が抑えられるという原理から成り立っているものと考えられます。これは、必ずしも実際に睡眠するだけでなく、単に学習に休憩を挟むだけでもある程度の効果が得られることが知られています。

干渉による忘却は、類似の記憶が積み重なることによって起きるので、日常生活で入ってくる情報と競合しないような物事の方が干渉の影響を受けにくいと考えられます。このため、記憶術においてはしばしば、心的イメージを形成するにあたって、日常で遭遇しないような奇妙なイメージを使うことが効果的と言われています。

空間記憶と時間記憶

記憶の中でも空間の記憶は特に優れていることが知られています。単なる相対的な位置関係だけでなく、距離や面積のような計量的な記憶についても良い成績を示します。神経学的にも、場所細胞・格子細胞・境界細胞といった空間情報の処理に特化したニューロンがあることが知られています。後述する記憶術の「場所法」では、この空間記憶の特性を利用して順序づけられた物事の記憶を強化しています。

空間の記憶と比べると、時間の記憶は少し信頼性に欠ける側面があります。順序に関する相対的時間の記憶は比較的よく記憶されますが、時間的距離や時間的位置の記憶は誤りが発生しやすいとされます。後述の記憶術においても、時間記憶を積極的に使うものはあまり見られず、空間的な情報に置き換えて覚えるなどの手段が取られるようです。

記憶術

物事を効果的に記憶するためのテクニックが古くから様々に考案されており、「記憶術」として知られています。ここではいくつか主要なもののみ挙げるので、より詳細な内容については以下の書籍を参照してください:

  • ジョシュア・フォア『ごく平凡な記憶力の私が1年で全米記憶力チャンピオンになれた理由』(Foer, 2011)

  • ドミニク・オブライエン『記憶に自信のなかった私が世界記憶力選手権で8回優勝した最強のテクニック』(O'Brien, 2011)

  • ネルソン・デリス『全米記憶力チャンピオンが明かすどんなことも記憶できる技術』(Dellis, 2018)

  • 平田直也『世界最強記憶術 場所法』(平田, 2019)

  • 青木健『記憶力日本チャンピオンの 超効率 すごい記憶術』(青木, 2020)

  • 桑木野幸司『記憶術全史 ムネモシュネの饗宴』(桑木野, 2018)

語呂合わせ・イメージへの転換

一般に最もよく知られている記憶術は語呂合わせでしょう。例えば元素の原子番号順の並び(H, He, Li, Be, B, C, N, O, F Ne, ...)を「水平リーベ僕の船〜」と覚えたり、√2(≈1.41421356...)を「一夜一夜に人見頃」と覚えたり、歴史の年号を「鳴くよ(794)ウグイス平安京」などと覚えたりするものはよく見られます。

記憶術の基本戦略は、覚えにくい物事を覚えやすい形に変換する、というものです。特に、変換して心的イメージを形成できれば記憶の固定化に有利に働きます。

日本語の語呂合わせでは、音韻の類似によって連想させた(記憶しやすい)事物を使って覚える、という形式が主に取られます。連想は必ずしも覚えたい言葉全てを使うとは限らず、頭文字などの数文字ずつだけで構成することも多いです。

覚えやすいイメージへの連想ができれば良いという点を見ると、必ずしも音韻による連想に頼る必要はなく、類似の記憶術としては形態による連想を使うものも知られています。例えば夢虹二作詞の童謡『すうじのうた』を引いて、1という数字を煙突のイメージに、2という数字をガチョウのイメージに連想させる、というような方法でも効果的な記憶術として使えます。

ストーリー法

複数の要素を関連付けて覚えたいとき、各要素を記憶しやすいイメージへと変換した後、それらを繋げてストーリーを作る、という方法が知られています。例えば「リンゴ」「猫」「ドーナツ」という3つを順番に覚えたいとき、「リンゴを猫が食べると猫が輪っかになってドーナツになった」といったストーリーを考え、そのイメージを記憶することで、順番を記憶します。覚える量が多くなってくるとストーリーを考えるのが大変になってきますが、少量であれば比較的手軽に実践できます。

ペグワード

これは既有知識との組み合わせによって記憶を強化する方法の1つです。予め順序づけられたイメージのリストを用意しておいて、それを記憶しておきます。これは覚えやすいものであれば良いので、アルファベットとか数字とかと対応づけたイメージで作っておきます。このイメージ群を「ペグ」と呼んでいます。ペグワードを使って記憶をする際には、記憶したい内容をイメージ化したものを、ペグのイメージ群と結びつけたイメージにして覚えます。

例えば『すうじのうた』に沿って煙突、ガチョウ、耳……といったイメージ群をペグとして用意したとして、「リンゴ」「猫」「ドーナツ」というイメージ群を新たに覚えたいとしましょう。この時には、例えば「煙突から枝が生えてリンゴがなっているイメージ」「ガチョウが猫をくわえているイメージ」「大きな耳にピアスのようにドーナツが刺さっているイメージ」といったものを想像して記憶します。

場所法

ペグワードのように既有知識と覚えたいものを組み合わせる上で、空間記憶と組み合わせることで記憶の強化を図るのが場所法です。ここでは家の中の玄関から奥の部屋までのルートとか、通勤・通学路のような見慣れた景色を使い、覚えたいもののイメージをそのルート上のものと結びつけて覚えます。通学路にカレー屋、橋、ガソリンスタンドが並んでいたとして、「リンゴ」「猫」「ドーナツ」を覚えるなら、例えば「カレーにリンゴが入っている様子」「猫が橋から川に落ちそうになっている様子」「ガソリンスタンドの給油ノズルにドーナツが引っかかっている様子」などを想像して記憶します。

場所法は空間記憶の優れた特性を生かすことができるため、短時間で多量の物事を記憶するのに適しており、メモリースポーツなどでよく用いられています。

クイズのための記憶戦略

クイズにも記憶術を応用することは効果的ですが、どう使うかには少し考慮の余地がありそうです。メモリースポーツでは長くても1時間程度の比較的短い時間の記憶が求められることが多いですが、クイズでは何年にもわたる長期記憶が必要となってくるので、細かな戦略は変わってきそうです。メモリースポーツでは無作為な対象を順番に沿って記憶するのが重要ですが、クイズでは問題文と解答は意味上の繋がりがありますし、必ずしも順番に沿ったものばかりではありません。なので、場所法の重要度はメモリースポーツよりは落ちることになると思います。もちろん賞の受賞者を順に覚えるなど、順番に沿ったものが対象の場合は場所法やペグワードは効果的です。

クイズの問題は大雑把に言うと事物の説明や関連事項の説明から解答を導く、という形式になっています。従って、意味ネットワーク上で隣接した概念を想起するというプライミングのプロセスが重要になります。なので、問題文中に出てくるワードから解答候補のワードをいかに連想できるか、という部分を強化するのが基本戦略になると思います。旧twitterで動いていた語呂合わせbot(おひでんぽ語呂合わせbotくいず語呂合わせbotなど)では語呂合わせというよりは連想を扱っていますが、非常に有用な方法とみて良いでしょう。

ノンジャンルのクイズでは非常に広範な領域にわたる多量の知識を要求されます。この量に対応するためには、チャンキングを使った記憶戦略が特に威力を発揮すると思われます。例えば、歴史について覚えたいときは一旦「古代」「中世」「近世」「近代」「現代」とカテゴリー化して、その中で例えば「古代エジプト」とか「古代ギリシャ」などと細分化して、さらに「古王国以前」「古王国〜」「中王国〜」「新王国〜」「アレクサンドロス以後」などと細分化して、というように細分化の階層を作っていきます。本などで説明する際にもこうした階層を立てて章立てされることが多いので、基本的にはその単位を使うのが良いでしょう。

カテゴリー化の基準には「時間」「空間」「ジャンル」の3つのパターンが特に使いやすいように思います。また、基本的に最初はどの分野も歴史から入ることで、自然とカテゴリー化しやすいように思います。

意味ネットワークは既有知識との関連付けによって構築されるので、既有知識の守備範囲が広ければ広いほど、日常生活で新たな知識を獲得し固定化できるチャンスが大きくなると考えられます。なので、まずはできるだけ広いジャンルにわたって、各分野の基礎的な知識を浅く身に付けておくのが重要そうです。浅くでも知っているものがあれば、たまたま耳にしたより深い知識を自身の脳内の意味ネットワークに位置づけられる可能性が高くなります。私は昨年から日本十進分類法(NDC)をベースに作ったジャンル表を元にランダムにサジェストされたジャンルを調べる、という勉強法を行っていますが、基本的にはこの基礎知識のカバー範囲を広げることを企図したものです。

クイズの問題集や暗記カードを元に記憶するのは、幅広く知識をつける上では有用でしょう。Ankiなどを使って適度に時間を置いて復習する形で記憶するのは効果的と思われます。ただ、その際に、既有知識との関連付けがない状態で丸暗記するのはあまり効率的でないので避けた方が良いと思います。可能であれば事実ベースで既有知識と関連づけるのが理想的ですが、事実を調べる部分でどうしても時間がかかってしまうので、最低限連想イメージなどでも既有知識と結びつけた方が良いでしょう。

言葉を覚える際には、できる限り語源を辿ってそれを元に連想づけるのが良いと思います。ただ、語源が分かっていない場合や固有名詞などで特に語源がない場合には、任意に考えた連想方法を使うことになると思います。その際には、正しい語源と勘違いしてしまわないような奇異な連想イメージを使うのが望ましいと思います。

1つの知識を覚える上で、できるだけ様々なソースにあたって覚えると効果が高そうです。異なる情報源では異なった物事との関連付けがなされるので、意味ネットワークの形成に有利に働くからです。また複数のソースにあたることは情報の信頼性の確認と重要度・知名度の判断にも役に立ちます。複数の情報源にあるものの方が信頼度が高く、また知名度も高くなると考えられます。情報の信頼性を判断できるのは間違った情報による誤答のリスクを下げるのに繋がりますし、知名度を知っておくことは問題傾向から解答候補を絞るのに役に立ちます。

記憶の再生の訓練としては、問題文から1つのワードを思い出すよりは、1つのワードから複数の関連物を連想する形式にした方がより効果的と思われます。なので、問題集を使って記憶する際も、問題→解答の方向だけでなく、解答→問題の方向で思い出す練習もしておくと、応用を利かせやすいと思います。これは特にデリバティブ(前フリ昇格)問題への対応力を増す上では直接的に効いてくるトレーニングになると思います。


色々と雑多に書いてきましたが、記憶の心理学研究の成果を知っておくことで、他にも様々に実践的な記憶に役立てるものがありそうです。ここまで書いてきた内容の多くは、クイズに取り組んでいる読者の方々ならおそらく、断片的には聞いたことがあるような内容も多いだろうと思いますが、こうして整理することで、何かしらの参考になれば幸いです。

参考文献

  • Alba, J. W., & Hasher, L. (1983). Is memory schematic?. Psychological Bulletin, 93(2), 203.

  • Ashcraft, M. H. (1976). Priming and property dominance effects in semantic memory. Memory & Cognition, 4(5), 490-500.

  • Bartlett, F. C. (1932). Remembering: A Study in Experimental and Social Psychology New York: Cambridge Univ.

  • Collins, A. M., & Loftus, E. F. (1975). A spreading-activation theory of semantic processing. Psychological review, 82(6), 407.

  • Dellis, N. (2018). Remember It!: The Names of People You Meet, All of Your Passwords, where You Left Your Keys, and Everything Else You Tend to Forget. Abrams.(ネルソン・デリス, 吉原かれん(翻訳)(2020)『全米記憶力チャンピオンが明かすどんなことも記憶できる技術』 X-Knowledge, ISBN 978-4-7678-2751-3)

  • Foer, J. (2011). Moonwalking with Einstein: The Art and Science of Remembering Everything. Penguin. (ジョシュア・フォア, 梶浦真美(翻訳)(2011)『ごく平凡な記憶力の私が1年で全米記憶力チャンピオンになれた理由』X-Knowledge, ISBN 978-4-7678-1180-2)

  • Hirsch, E. D., Jr. (1983). Cultural literacy. American Scholar, 52, 159-160.

  • Miller, G. (1956). Human memory and the storage of information. IRE Transactions on Information Theory, 2(3), 129-137.

  • O'Brien, D. (2011) You can have an amazing memory. Watkins. (ドミニク・オブライエン, 梶浦真美(翻訳)(2011)『記憶に自信のなかった私が世界記憶力選手権で8回優勝した最強のテクニック』 X-Knowledge, ISBN 978-4-7678-1421-6)

  • Radvansky, G. A. (2021). Human memory. Routledge.(ガブリエル・A・ラドヴァンスキー, 川﨑 惠里子(翻訳) (2021)『記憶の心理学:基礎と応用』誠信書房, ISBN 978-4-414-30634-7)

  • Rosch, E. (1975). Cognitive representations of semantic categories. Journal of experimental psychology: General, 104(3), 192.

  • 石田 佐恵子, 小川 博司 (2003)『クイズ文化の社会学』世界思想社, ISBN 978-4-7907-0979-4

  • 青木健 (2020)『記憶力日本チャンピオンの 超効率 すごい記憶術』総合法令出版, ISBN 978-4-86280-753-3

  • 桑木野幸司 (2018)『記憶術全史 ムネモシュネの饗宴』講談社, 講談社選書メチエ 689, ISBN 978-4-06-514026-0

  • 平田直也 (2019)『世界最強記憶術 場所法』Discover, ISBN 978-4-7993-2428-8

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