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今年に寄添う物語(GAMEBOYS)

フィリピンBL「GAMEBOYS」を見た。
僕の中で「2020年を代表する作品」になった。

「In this pandemic and age of physical distancing,every relationship feels like a LDR(long distance relationship)」

「このパンデミックと物理的な距離がある時代では、すべての関係は"遠距離恋愛"のように感じる」

世界中で「ソーシャルディスタンス」が声高に叫ばれるなかで、BLドラマ以前に"人と人が出会う物語"をどうやって作るんだ・・・このドラマの制作チームはその問題に真正面から取り組んで「コロナの状況に負けないで作った」ではなく「この状況だからこそ作ることができた物語」だと思わせてくれるまでの完成度のものを見せてくれている。
コロナ禍の2020年の5月から9月にYouTubeを通して世界中に配信された。このスピード感にも驚く。

物語の舞台は2020年のフィリピン。Covid-19(新型コロナウィルス)の感染者増加のために市中閉鎖が行われ、不要不急の外出が制限されている。
まさに現実世界と同じ状況だ。

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(使用画像はすべてThe IdeaFirst Company公式Twitterより)

平和の天使と勝利の都

物語の主人公はCairo(画像左。以下Caiと呼びます)とGavreel(同右。以下Gavと呼びます)の2人。

オンラインゲームの実況が趣味のCaiの実況ライブにGavが対戦を申し込んだことがきっかけで、2人は出会う。
2人はお互い車で片道2時間ぐらいかかる場所に住んでいるが、実際に会ったことはない。

初登場から人見知りせずぐいぐい話しかけてくるGavのとびきりの笑顔と駆け引きなしのまっすぐなメッセージは、Caiだけでなく視聴者の心の深いところにまでググッと入り込んでくる。
リアルタイムで見ながら不安な気持ちを抱えているだろう視聴者に、Gavの存在は本当に救いだ。彼がCaiに呼びかける「Baby」って言葉を聞いて、自分が呼びかけられたような気持ちになった人、たくさんいるはず。

一方、Caiはちょっと引っ込み思案で素直に自分の気持ちを表現するのが苦手。典型的なツンデレとも言える。
劇中、何回も何回もメッセージを書き直して送るか送らないか迷う様子を見て、彼がとても繊細な人だということがよくわかる。
そしてまさに今、大好きな父親がコロナ陽性で入院している。

2人の名前にも製作者の願いが込められているように思う。
劇中でも触れられるがCairoはエジプトの首都の名前(お兄ちゃんは”London”)で、「勝利の都」という意味があるらしい。旅行好きという両親がいつか行きたいと付けたそうだが、現実にロックダウン中の視聴者の「いろんな所へ行きたい」気持ちとリンクする。
Gavreelは平和の天使の名前。これもメッセージ性が強いネーミングだ。

ロックダウン中に作られたドラマ

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はじめにも触れたが、このドラマはロックダウン中に製作が開始されている。
当然、スタッフやキャストは簡単に集合することはできない。その状況を逆手にとって、物語前半はSNS上の会話だけ、ネットサーフィンや投稿画面のみで展開する。各登場人物は別々の場所にいたまま物理的に触れ合うことはない。でも、SNS上の2人だけのやり取りをのぞき見しているような生々しさがある。

まるで”第三者に見られていること”を意識していないような2人の自然な様子や、メッセージを送る前になんども文字を打っては消し推敲を繰り返す様子、画面上に表示されるメッセージ通知、返信しようか、電話に出ようか揺れ動くカーソル…そういうひとつひとつを見ることで「2人は2020年のいま現在、この世界のどこかに生きている」という確かな存在感を感じることになる。
これは想像以上に見ているこちらを作品の世界に引きずり込む。現実とフィクションの境界があいまいになる。ものすごい感覚だ。 

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今はドラマの視聴者のほとんどがパソコンかスマホを使って見ている。それがこの作り方とうまくマッチした。僕もはじめはスマホで見たため、何とも言えない臨場感というか、登場人物が「実在している」ように感じた。

SNSで出会うということ

SNSのおかげで存在を身近に感じる一方で、SNSだけの繋がりしかない関係はとても弱い。ブロックしたりアカウントを削除したら、もう二度と話すことはできないからだ。
作中ではその設定も効果的に使われている。

僕も日本での緊急事態宣言での外出自粛がきっかけで「タイ沼」にハマり、そこからSNSで知り合った人たちがたくさんいる。とても近くに感じているが、どこに住んでいるのか、どんな人なのか、お互いほとんど知らない。
もし自分がアカウントを削除してしまったら、二度とやり取りできなくなってしまう人がほとんどだろう。

このドラマはただSNSを設定として取り入れているだけじゃなく、その特性をよく分かってストーリーが作られている。これも、急ピッチで作られたとは思えないところだ。

コロナ禍におけるマイノリティ

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中盤から登場するTerrence(画像左)という人物はとても印象的だ。
彼はロックダウンで気軽に出歩けない状況の中、強い孤独を感じている。
SNSで新たな出会いを探そうとするけど、本当に心から繋がれる相手を見つけるのは難しい。
今までのつながりを取り戻そうとするけど、それだって簡単じゃない。

職場でも家庭でもクローゼット(カミングアウトしていない)で、唯一友だちと会うときだけが自分らしくいられる時間だったのに、コロナ禍によってその場が奪われてしまったというような性的マイノリティが世界中にいる。
もちろんどんな人も同じように友だちと会うのは難しいけど、カミングアウトしていない家族とずっと一緒にいなきゃならなくなったりすると、簡単にオンラインで話すことも難しい状況だったり、家族の押し付ける価値観からの逃げ場がなくなったりするので、特に若年層の性的マイノリティの人たちにとって、外出自粛の状況は本当にきついと思う。

心理的な孤独感に物理的な孤立が加わり、この状況がいつ終わるのかも分からない。そういう絶望的な状況で、こういうドラマがあることがどれだけ救いになるだろう。
製作チームには当事者もたくさんいるそうだから、そのようなことも考えながら作っていたのだろう。GavとCaiが成人男性にしては幼い雰囲気なのも、若い世代に寄り添いたいという思いがあったからなのかも。

作品の精神的支柱、Pearl

Pearlという女性も非常に魅力的。深刻になりがちな設定のなか、常にテンションが高く元気。見ているだけで前向きな気持ちになれる。

彼女はGavが昔付き合っていた人で、Gavとはいろいろあったらしいが、今は親友同士になっている。「一緒に過去のことを笑えるのはいいわね」と言える彼女は、ただの"都合の良いキャラ"じゃなく、きちんと自分の意志がある強くて素敵な人物だ。
また、GavとCaiの間をおせっかいにならない絶妙な距離感で取り持ってくれる、気配りのできる人でもある。そして耳が痛いことでも言うべきことはバシッと言う。

こんな友達いたらいいな。自分がこんな友達になれたらいいな、と誰もが思うはず。(実際、このドラマ放送直後から彼女が主人公のスピンオフシリーズ「PearlNextDoor」が制作されている。彼女を脇役にしとくなんてもったいないですからね) #PearlNextDoor

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いまだから響くメッセージ

劇中、明るく話していたGavが急にせき込む場面がある。
Caiも見ている僕たちもドキッとする。
「大丈夫?熱はない?」
近くにいないからこそ、そしてコロナが何なのかも、この先どうなるのかもよく分からない今だからこそ、余計に心配でたまらなくなる。何かあっても見ていることしかできないって意味では、視聴者もCaiも全く同じ立場なのだ。

今、世界中のみんなが不安の中にいる。
今までのように好きな人に会うために好きなときに好きな場所に行くことができるようになるまでには、まだまだ時間がかかるだろう。

でも、絶望しないで。
どんなときだって人は誰かと出会い、心を通わせることができる。
いつだって、きみは一人じゃない。
このドラマを見ている間、ずっとそんな声が聞こえてくる気がした。

僕の生活や仕事もコロナによって大きな影響を受け、何度も挫けそうになった。その度にこの作品を見て、物語のみんなに勇気づけられた。
初見のとき、2話より後はずっと泣きながら見ていた。
個人的な話になるが、いま簡単には会えない距離で遠距離恋愛をしてることも、この設定が心の奥底まで響いた理由だと思う。
これから何年後に見返しても、見るたびに今年感じた不安や寂しさや、この状況だからこそ気づけた自分自身や大切なもののことを思い出すだろう。

今年この物語を世界中の人に届けてくれた制作チームに、心から感謝したい。僕の心はこの作品に救われました。
今年一年、寄り添ってくれてありがとう。

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(第1期はYouTubeで公開中。ネットフリックスでは「Level-Up Edition」という特別編集版が見られます!)

追記(2021.11.20)

劇場版の日本公開が決定し、それに伴い今月いっぱいで日本国内でのYouTubeでの無料配信がジオブロックされることが発表されました。

『ゲームボーイズ THE MOVIE ~僕らの恋のかたち~』


公式Twitter(@GAMEBOYS_jp )より

作品の性格上、誰でもアクセスできる身近な作品でなくなることはとても残念ではありますが、来年1月の劇場版を楽しみに待ちたいと思います。

劇場版公式サイト(日本)
https://www.gameboys-jp.com

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