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社会と戦う3人(Hello, My Love)

韓国映画「Hello, My Love」を見た。(原題:시작하는 연인들)
あらすじだけを見るとそれほど珍しいストーリーではないが、とても引き込まれた。キャラクターの描き方、役者の演技、設定が上手だからだと思う。
コメディなのに、誰かを笑いものにするような描写も少ない。
2009年公開だそうだが「韓国BLドラマ」が話題になったのはつい最近のことで、10年以上前にこのようにセクシャリティについて真正面から描いた作品が韓国で制作されていたことに驚いた。

Hello My Loveポスター

仕事熱心なラジオDJのホジョン。彼女は恋愛相談のコーナーを担当し、リスナーの悩みに答える飾らないトークで人気者だった。
ホジョンには学生時代から付き合って10年になる恋人のウォンジェがいる。
パリへ2年間の料理留学に出ていたウォンジェが帰国することになり、あとはプロポーズを待つだけ・・・と思っていたホジョンだったが、ウォンジェは一緒に帰国したソムリエの後輩ドンファと実家を改装してワインレストランを開店すると言い出す。
2年ぶりの再会なのにそっけない態度のウォンジェが気になるホジョン。そしてある夜、彼女はウォンジェが同性愛者でドンファがパートナーであることを知ってしまう。
ショックを受けた彼女はドンファに「ウォンジェと1か月だけ付き合わせてほしい」とお願いする・・・・。

Hello My Love 시작하는 연인들 予告編

https://youtu.be/_lZYzOnwzN4

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魅力的な主人公

主人公のホジョンがとても魅力的だ。
仕事でもプライベートでも前向きで、誰かのことを悪く言わない。
そのポジティブな感じがリスナーからも好評なのだろうし、逆にその誰にでもいい顔をしてしまうようなところが、好意を寄せられた相手に変に気を持たせてしまうことにもなる(この作品は女性が仕事で成功していく大変さも、さりげなく描いている)
ウォンジェに対しても(冒頭の学生時代の行動はだいぶヤバいが)、恋愛に消極的な彼に対して過度に追い詰めたりはしない。
何より、彼がゲイだと知ってしまった後の彼女の描き方に感動した。
10年前の韓国(日本だって)は今よりずっと同性愛者への偏見があったし、何よりそういう偏見を表に出しても今ほど問題にされなかった。
彼女はウォンジェが自分に内緒で新たな恋人を作っていたことに、もちろんひどく傷つくが、彼が同性愛者であること自体を大きく否定したりはしない。
小学生からの幼馴染であり、付き合って10年。誰よりも味方だと思っている彼の本心に気づけなかった。そのことにショックを受けているようにも見える。
ゲイカップルの前に立ちはだかる敵!というようにならない女性キャラに、とても好感を抱いた。

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もちろん、相当辛い役回りではあるのですが・・・。

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本当の自分を見つけた男

ウォンジェの実家は超保守的だ。伝統的な様式の家に住み、両親は日常的に韓国の伝統的な服を着て、作法にも厳しい。そこをきっちり描くことで「ウォンジェはカミングアウトしたり、自分自身をゲイだと認められる環境で生きてこなかったのだ」ということが分かる。
韓国で保守的な両親の一人息子にかける期待は相当なものだろう。

そんな彼がはじめて親元を離れ自由を手に入れたパリの2年間。彼はそこでようやく自分の本心と向き合えたのではないだろうか。
そして、素敵なパートナーと出会った。
ほぼ婚約者である女性がいることも分かったうえで、実家にその恋人を連れて帰郷するというのは、よほどの覚悟があったはずだ。
それだけ、ウォンジェは2年間で自分という物を確立したのだと思う。

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素敵な関係性を築いてきたんだろうな・・・と思える2人。

「3人」を描く

この物語の面白い所は、ゲイだと発覚した後もホジョン、ウォンジェ、ドンファの3人のつながりが切れず、むしろ積極的に関わろうとするところだ。
ウォンジェもドンファも、関係がバレた後もホジョンを遠ざけようとはしない。
恋愛関係でなくとも、ホジョンはウォンジェの小さいころからの「味方」であり、それはドンファも理解している。
ホジョンとウォンジェは思い出の場所に行くし、ホジョンは自身の番組のゲストにドンファを招くし、3人で家飲みもするし、ウォンジェとドンファは毎晩一緒に寝る。
3人での関係性を模索しようとするところが見どころの一つだと思う。

3人ともが居心地のいい関係性を築くことができれば、これほどハッピーなことはない。
でも今の韓国社会にはそれを認めてくれない状況があり、社会人として生きていこうとすれば、そこを無視することはできない。

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3人のむかえる結末がハッピーエンド・・・とは正直言えない。
彼らは今の”社会の常識”の犠牲者であり、その中でもがいた人たちでもある。
勝った、とはいえないけれど、僕はこの3人の物語にちょっと救われた。
「自分と同じように苦しんでいる人々がいる」というドラマが、時として現実で同じような苦しみを味わっている人の救いになるときもあるのだ。

後半、先輩DJの最後の放送が胸に刺さる。
(このシーンが個人的にこの作品のハイライト)
社会のなかでもがいている人は、今あなたのすぐ隣にもいるのだ。きっと。

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引っかかりポイント(ややネタバレあり)
☆どれも「今から10年以上前なら仕方ないか・・・」って事案ですが。
・睡眠薬
→これは作中突っ込まれているけど、男女逆でもコメディ調にしても微妙。
・「女と寝てみたら」発言
→これはゲイとしたら嫌な発言だし、ウォンジェをストレートに戻そう・・・みたいな発想もしんどい。ホジョンが辛くて、必死なのはよくわかるけど。
・バイなのかゲイなのか問題
→作中、ウォンジェもドンファも「過去に女性と交際したことがある」と言っている。軽く触れられているだけだが、ゲイとバイセクシャルを混同して描かれているようにも思えた。


「Hello My Love」
2009年製作/95分/韓国
配給:CJエンタテインメント・ジャパン
監督脚本:キム・アロン
出演:チョ・アン、オ・ミンソク、リュ・サンウク

日本のいくつかの配信媒体(Amazon primeビデオ、Hulu、U-NEXTなど)
で配信中。


画像は以下サイトのものを使用。
https://www.koreanfilm.or.kr/eng/films/index/filmsView.jsp?movieCd=20090574

#韓国映画 #시작하는연인들 #HelloMyLove #映画

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