ハグ

　　一時は手に職が欲しいと整体のスクールにまで通っていたわとりですが、どうも性的じゃなくとも人に触ったり触られたりすることが苦手なようだ、と気づいて２０万以上の受講費をどぶに捨てる羽目になったことを思い出す９月。

　虐待や性犯罪被害によってわとりは自己崩壊のきわに立ったりうつや離人感を抱えたりしてきたけれど、ようやく事件カウンセリングも行える公認心理師に相談できるチャンスを得て、７年かけて現在の状態（こうして記事も書けるまで）になったところ。

　余談ですがカウンセリングって今必要だと思っても、予約で１ヶ月くらい待たされるなんてことはザラなので、「まだ大丈夫」と思ってないでなんだかおかしい、と思ったらすぐ行動に移してほしいです。
　わとりはギリギリまで我慢した後で予約が一か月後からしか取れないと聞いてさらに絶望に追い込まれたり。
　もし身近な方に様子がおかしいな、という方がいたり、自分でもここの所とても気分が塞いでいるとか何でもない時に急に涙が出るとかいう状態を認識しているなら、すぐにかかりつけ医やカウンセリングでの受診を段取りしてください。
　ちなみに私が自己崩壊の危機にあったときのことを母は「なんか様子が変だと思ったけどほっといた」と言っております。流石だ（褒めてない）。

　わとりが離人感とか焦燥感とか孤独感とかでいっぱいいっぱいになった時は、だいたい体中に力を入れて石のように自分を固めて、ひたすらその嵐が過ぎるのを待つってことが多かったんだけど、もちねこくんがやってきた後すぐの頃に小さなその嵐の兆候を感じて、メンタルの安定効果があるという「ハグ」を試させてくれないかお願いしてみた。

　その昔、カウンセラーを探していた頃に出会った女性カウンセラー（自称）に、これまでのことを話したあとで急にハグされたことがあった。
　彼女はわとりを安心させたくてそうしてくれたんだろうけれど、わとりはそれが気持ち悪くて体がこわばってしまった。
　けど、彼女に気まずい思いをさせるのが嫌で笑顔でお礼を言って帰った。謎の掃除のコツＤＶＤを持たされて。
　この掃除ＤＶＤに出てくる男性が、ソファに深く座って大きく足を組んで偉そうに話すので部屋の掃除より心の中に降り積もるイライラを掃除するためにさくっと捨てることにした。
　その後再び彼女に会うことはなかった。


　実際のところハグって信頼してる相手じゃないと効果がないみたいなんだけど、同居したての頃のもちねこくんは新しい生活で自分を立て直す気概に満ちていたし気の合う友人でもあったからもしかしてとちょっと期待していた。それで安心感がどっとでもじわっとでも沸いてくれるならと。

　彼の返事は
　「俺そういうの好きじゃないんだよな。」
　だったので、わとりはまた体を硬くして数日をやり過ごすことになった。
　まじか。

　いや、でもこれは仕方ない。相手が嫌なことをやらせてまで試せないし、ハグによって彼がストレスを受けるのも望まない。
　わとりにとっては助けを求めるという行為の一つだったけど、それに応じるかどうかは相手が決めることだし応じてもらえないことのほうが圧倒的に多かった人生だ。返って変に甘えグセが生じなくてよかったのかもしれない。などと考えていた。
　
　

　もちねこくんは地震が嫌いで、就寝中もわずかな揺れで目がさめてそこから眠れなくなるそうだ。
　同居が始まってから４～５か月目くらいの頃、数日おきに１～３程度の揺れがおこる時期があって、その度眠れない、とても怖いという。
　わとりは３１１の時震度６エリアにいたので地鳴りが聞こえると一瞬ぞわっとする。しかし震度や震源地を確認したらまた眠れるタイプだった。

　「なー、ハグしてくれない？」
　そんな時、もちねこくんからお願いされた。
　おま・・・わとりの時は断っておいて？と一瞬頭をよぎったけど、不安で苦しい気持ちは分かる。それにハグの効果が彼に出るのなら、わとりが今後お願いする時にはＯＫしてくれるかも。

　この時の感想を聞いてはいないんだけど、その後も何度かハグをお願いされたので恐らく彼には少しくらいはいい効果があったんだろうと思う。

　ただ、結果的に最初に断られて以後わとりから彼にハグをお願いすることはなかった。彼にお願いされてハグしている間、わとりの心は「無」になっていた。彼がハグをお願いするのは、同居期間の終盤にあたる時期だったんだけど、そのころにはわとりの彼に対する信頼みたいなものがだいぶ薄れてしまっていたし、わとり自身まだケアを必要とする状態ではあったので彼のケアに自分のエネルギーを使ってしまうのは少々負担だった。
　最初に断られたことも少なからず尾を引いていたと思うし。

　少ないどころか結構根に持っているのかも。
　こんな記事書くくらいだし。