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2024花園高校ラグビー1回戦でいちばんの接戦は、長野の公立進学校 飯田高校が、盛岡工業と繰り広げた、モールにこだわっての大接戦でした。

 2024年高校ラグビー(通称・花園)が27日、28日の二日間で一回戦19試合が行われた。

 ラグビーは接戦(10点差以内、どっちが勝つか分からないという内容)になることが可能な実力差の幅がきわめて狭い。ちょっと実力差があると30点差くらいの一方的な試合になり、かなり実力差があると50点差以上かつ、負ける方が1トライも取れない、0点で終わる、100点近い差がつく、という試合になりがちである。番狂わせは、まず起きない。

話は日本代表の方に飛ぶが、

国際試合で「強豪国グループティア1」その下の「ティア2」に分けて、同一グループ内でテストマッチを組むようにしているのも、実力差がちょいとあるだけで大差になって、強い方弱い方どちらにとっても強化の意味が薄くなるせいである。現在の日本代表はティア2の実力なのに、前々回ワールドカップでのベスト8実績の効果が残存していて、ティア1の国とテストマッチが組めてしまう。しかし30点以上の大差がついてしまうので、なんか試合してくれた相手に失礼、みたいなかんじになったのがこの秋のテストマッチシリーズであった。謙虚に今の実力をみつめて、ティア2中心のテストマッチにしたほうがいいと思う。

花園の話に戻って、

一回戦19試合の内、10点差以内の接戦になったのは4試合。

40点差以上の大差がついたのは9試合あった。100点以上差があって負けた方が0点という試合も1試合あった。ラグビーという競技特性からして、自然な点差の分布だと思う。

 10点差以内点差4試合にも二種類あって、

例年シード校になる超強豪校(高校ラグビーの世界でのティア1)に、近年力を伸ばしてきた地域・学校が善戦するというのが二試合。こちらはラグビーの内容も選手の体格技術も、高校ラグビートップクラスの質で、二回戦、三回戦のような対戦がたまたま一回戦であたってしまった、というような試合であった。

秋田工業35-29高川学園(山口)

佐賀工業29-19松山聖陵(愛媛)

あとの二試合

〇東海大翔洋(静岡)21-17山形中央●

は勝った側の東海大翔洋のほうが松山聖陵よりやや実績実力下くらいで、それに山形中央がくらいついたという好ゲーム。

そして、この投稿の本題は

〇盛岡工26-24飯田(長野)●

 負けた飯田は長野の公立進学校で週三回2時間くらいの練習時間しか取れない。体格も立派な大学に行っても通用しそうな選手が半分くらいいるが、あとの半分は、細かったり小さかったりする。どこかで見た感じ、そう、うちの長男次男が高校でラグビーをしていたときの、そのラグビー部ってこういう感じだった。

 2番プロップが162㎝71㎏、ちょうど長男と同じサイズ
7番フランカーが165㎝57㎏柔道経験 これが次男と同じサイズ経歴。

 というか試合をしているチームの絵面が、長男や次男の試合を思い出させる感じなのである。

 県大会であれば、これである程度は戦える、次男は関東大会までいけたが、全国レベルでフォワードを体重57キロのフランカーがやるのは、さすがにしんどい。対面の相手が80㎏以上あるのである。

 なので、この記事によると、モールに絞って練習して勝負する、ということにしたのだという。その練習通り、攻める時はモール一本、徹底的にモールにこだわり、モールが二度止まり審判「ユーズイット」の声がかかっていったんボールを出しても、またすぐにモールを組んでは前進する。

 この飯田ラグビーの「モール一点へのこだわり」が、もう一回戦最大の切ない感動を生んだのである。

 このモール作戦が前半は通用して前半を19-12とリードして終わる。しかし後半逆転され、残り7分で24-26となってしまう。

 残り5分、自陣ゴール前まで攻め込まれこのまま負けてしまうのか。いやもうこれしかない。モールで反撃開始、じわじわ前進し始める。自陣ゴール前から進み続け、何度も「ユーズイット」でモールを解消してもまたすぐに組んでは前進し、ついに相手ゴール前までたどり着く。相手は途中で何度かモールを故意に崩すコラプシングをしていて、アドバンテージもある。

 ゴール前でラックになりやや膠着。しかしまだ飯田がボールを保持している。このまま攻め続ければ逆転トライ、と思ったところで、審判はラックからボールが出ないと思ったのか、ゲームを止めてアドバンテージ、コラプシングがあった地点に戻っての再開を指示。えー、攻めさせ続けて上げなよ、と思ったのだが、再会地点はゴールほぼ正面ちょいと左側、ゴールへの距離は15mくらい。この絶妙な位置、距離がドラマの原因となる。

 ここから再びモールを組むには①タッチにキックしてラインアウトからモール。しかし、タッチキック失敗したりラインアウト失敗したりしたらそこで試合終了・リスクが高い。②スクラムで再開、もスクラムで負けて反則したりしたら試合終了である。③タップキックして突撃、そこからまたモール・うん、これだと思ったのだが。

 しかーし、ここでペナルティゴールを成功すれば3点追加、27-26で劇的逆転勝利。難しくない距離と角度には思える。

 監督さん試合後インタビュー記事から

 小林監督は「僕は『モールで』と思ったんですけど、でも『キャプテンが決めろ』とベンチからは言ったので。キャプテンが選んだ結果なので、」

日刊スポーツ記事から

 キャプテン10番と、モールの中心であろうでかいフォワードの子が話し合って、ショットを選択した。10番キャプテンくん、すごく緊張している。スクラムハーフの子かな、風で倒れないようにうつぶせになりボールを押さえる。

 審判はなんでだか、相手に下がれと指示したりして、キッカー10番のまわりをうろちょろする。キッカーが慎重に歩数を数えながら下がっているところに、審判がぶつかりそうになる。おいおい邪魔しとんのか。微妙に距離と角度が狂うじゃろ。

 もう時間は36分と近く、高校ラグビーは前後半30分なのでロスタイム、もうこれがラストプレー。

 でも、この距離と角度なら、きっと決まって逆転だろう。相手の盛岡工業の選手もベンチも覚悟は決めた表情である。

 そして、キックは右に逸れて行き、外れた。大きくではないが、それでも、蹴った瞬間から、あ。外れるなという軌道で、惜しくないくらいの外れ方をした。

 ここでノーサイド。というかユーミンのノーサイドの音楽が、僕の頭の中で鳴った。歌詞が、あれはもともとはおしゃれな80年代の大学ラグビーの、秩父宮か国立の、東京のおしゃれラグビーイメージの曲だが、泥臭い、地方の高校生の青春の、花園のしかも第二グラウンドといういちばん普通の運動公園みたいなグラウンド上の切ないシーンにノーサイドの歌詞がぴったりとはまって、なんだかもう、ドラマチックだった。(※上の画像は第三グラウンド)

 もちろん逆転勝ちしたら劇的だったけど、この、決まりそうな確度と距離の逆転PGを、モールでもいけそうだった中でキックを選択した、みんなで練習してきたモールではなくキックを選択したときのキャプテンの北原くんというのか、その気持ちはどんなだったろうな。

 大学に行ってもラグビーを続ける子も、やめてしまう子もいそうなかんじの飯田高校だけれど、この仲間たち、一生、集まるたびにこのときのことを話しては熱くなるんだろうなあ。1回戦でいちばんの感動シーンは、これでした。

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