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高校ラグビー花園の準決勝二試合、東海大大阪仰星×東福岡、桐蔭学園×國學院栃木を、昼間にJスポーツ生中継で一人で見た後、帰宅した妻と録画していたのをもう一回見た。夫婦で観戦の思い出記録用。

準決勝 第一試合 東海大大阪仰星×東福岡

感想というか、妻と観戦思い出の記録を書こうと思います。

 私は昼間に生放送で準決勝二試合を見たわけですが、妻は仕事が始まっていたので、夜、帰宅してから、妻と一緒に、晩御飯を食べながら、もう一回見ました。妻は結果を知らずに帰ってきましたので、いろいろ悟られないように気を使いながら。


 妻はラグビーのルールを完璧に把握しているわけではありませんが、見ている試合数と見てきた試合の質が尋常ではないので、そのラグビー審美眼というのは、もうなんというか、すさまじいレベルです。試合をしばらく見ると、どちらがどう、いいラグビーしているとか、この試合の質がどういうものかをきわめて的確に判定しつつ、あれこれ自由な感想を述べながら、ラグビーを観戦します。ルールのあやふやなところや、選手知識のない所について、私がときどき解説を加えますが、そのチームの本質的な特徴や、試合のクオリティについての判断では、妻の意見が間違ったことは一度もないと、自信をもって言えます。妻とラグビーを見るのは、そのいい加減なようで本質を突く感想を聞けるという意味で、最高に楽しいのです。


 花園のベスト16以降の全試合を20年近くフルに見ている、トップリーグや大学ラグビーを網羅的に見ている、トライネーションズや6ネーションズをずーっと見ている、ワールドカップを何大会もフルに見て、ついには日本大会では、生で10試合も、準決勝決勝も全部生観戦しているという女性が、日本にどれだけいるかというと、まあ、ほとんどいないですよね、それでいて、ルールがちゃんとは分かっていない、というのも、すごいですよね。
 妻の観戦のスタートは息子二人の中学高校の神奈川県の大会、生観戦がスタートなので、高校ラグビーというものが、チームの名前ではなくて、大会の中で成長していく「なまもの」、どれだけ成長できるかの勝負であるということ。また、指導者の質や関り次第で、ものすごく大きな差が出るということ、そういうこともよく分かっているので、妻は「花園はワールドカップに一番似ている。大学やトップリーグはあんまりワールドカップに似ていない。だから、花園とワールドカップが好き」といいます。その気持ちは、なんとなく、わかる。


 東海大仰星と東福岡が準決勝でぶつかるというのは、ワールドカップの準決勝で、ティアワンの中でも圧倒的優勝候補同士がぶつかってしまうのに似ています。そして、両チームとも、ここまで圧倒的内容で勝ち上がってきて、過去の対戦成績も互角で。なんというか、南ア×NZとか、NZ×イングランドとか、そういう試合が、期待通り、いや、期待を上回る好勝負になったときのような、ラグビーファンである幸せをかみしめたくなるような、素晴らしい試合でした。


 一試合の中で、流れが大きく両者の間をいったりきたりして。そのきっかけや伏線が、分かる人には分かるように張り巡らされていて。


 風が強い中で、コイントス。東福岡が勝って、風上を選ぶ。ということは、前半に大きくリードして試合を支配しようとしたということ。その狙い通り、キックオフからそのままトライ。その直後にモールでトライ。狙い通りでなかったのは、キックを2本とも外したこと。風上だから、距離ではなく、計算が難しかったのだと思う。追加点を狙ったPGを外したところで、ついにラグビーの神様は流れを仰星に渡してしまう。前半で逆転。仰星のキッカーは、全部、ひとつも外さずに、決める。こういうところで、決まるよなあ。そういう感じが強くする前半。


 後半も仰星が、二番のジャッカル、六番のものすごいトライで差をつける。


 ここで、普通のチームなら、「仰星の勝ち」を確信するのだが、東福岡だから。

妻と「桐蔭と両校優勝のときも、桐蔭がかなり差をつけたのに、最後、追いつかれちゃったよね。東福岡だけは、わからないからね」と話し合う。
予想通り、直後、東福岡もモールで即座に点を返す。流れがもう一度、東福岡に行きそう。


 ここからの、東福岡がさらにもうワントライとって差を詰めるか、仰星が許さないかが、試合の流れを最終的に左右する最重要ポイント。東福岡が自陣から全くミスをせずにじりじりと前進する。仰星も粘り強くディフェンスする。ミスが全くなくプレーが切れない中で、息詰まるような攻防が続いて。Jスポーツ解説者が、「ことばを失います」と仕事を放棄したくなるほどの攻防。妻も、息をつめて、その極上の、最高のプレーを楽しんだのでした。


 昨年の同点引き分けと較べると、最終的には点差がつきましたが、これぞ花園の、Aシード同士の激突。その期待を、さらに超えていく、素晴らしい試合内容。


 妻が、大満足で「(桐蔭)藤原監督は、仰星でよかったと思ってるかなあ」と感想を言ったのだが、そう、妻は、この試合の結果はもちろん、桐蔭×国学院栃木との結果も知らずに見ていたのだから。私は悟られないように、努めて無表情に、というか、桐蔭が勝ちあがるのは当然だよね、というふうを装って「そうだねえ、どうかなあ」と答えたのでした。昼間、生中継で見ていた時の僕も、妻と同じように「桐蔭の相手が仰星に決まった」「多少苦戦はしても、桐蔭が決勝に上がるだろう」と思っていたのだよなあ。

第二試合 桐蔭学園×國學院栃木


 我が家の六人の子供のうち、長男は桐蔭学園と同じ敷地にある別学校「桐蔭中等教育学校」の一期生。中学入試では桐蔭学園中学として入学した後、進学特別コースのような形で別学校化した中等教育学校の一期生となった。本格的に柔道をやる気で入ったのだが途中で挫折し、後期課程(高校にあたる)では、中等教育学校に新設されたラグビー部創設メンバーとしてフッカーをやった。最終的に県でベスト16、シードの日大高校に惜敗して終わった。桐蔭学園のほんちゃんラグビー部と同じグラウンドで練習したのである。まあ、大きな意味で桐蔭学園は母校なのである。


 次男は公文国際学園という学校で中高ラグビー部。高校二年の県新人戦では決勝まで進み、桐蔭と対戦のはずが、雪で中止となり両校優勝だった。関東新人大会に出場し、国学院栃木と対戦している。その直後、骨折で次男は半年ほど試合に出られなかったが、関東大会予選でも決勝まで進み、慶應に敗れたが、学校として関東大会には出場している。次男は松葉づえで応援だったが。


 三男は桐蔭学園の柔道部で、青葉寮というところで寮生活を送り、そこにはラグビー部員も多数いた。ラグビー部の友人も多かった。


 ということで、まあ、桐蔭学園は我が子の母校だったりいろいろ縁があるので、一貫して、花園は、桐蔭学園を応援していて、毎年のチームの特徴や出来については「今年は体がちょいとちいさいよね」とか「なんか、ちょっとハンドリングミスが多いよね」とか、まあ、ついつい過去と比較してしまうのだが。うん、しかし、やはり二連覇したチームと較べると、「ぽろぽろ球をこぼす」印象が強く、今年は大会途中に、そういうミスをどこまで減らせるかが課題だよね、というのが、私たち夫婦の間でも、Jスポーツ解説の見解としても、共通認識だった。Aシードとはいえ、東福岡、東海大仰星の完成度と比較すると、いろいろ欠点、未完成な部分の多いチームだよなと。あと、解説者も妻も「今年の桐蔭は、足が太い」と言っていて、コロナで対外試合が少なかった分、ウェイトなどの体力トレーニングが多かったそうだ。そのため、なんだか、例年に増して足が太い。代わりにハンドリングミスが多いのである。


 一方の国学院栃木は、ここまでの勝ち上がりは本当に素晴らしいのだが、3回戦も流通経済大学柏と、関東勢同士、準々決勝も対戦相手が長崎北陽台だったから、「関西勢とは当たらなかったからベスト4まで来られたのかも」と、思われていた。大阪京都奈良東福岡桐蔭。ここに勝てる実力が国学院栃木にあるのかは、まだ証明されていなかったのである。関東大会では優勝しているが、桐蔭が準決勝で流通経済柏に負けちゃっているので、直接対決はしていないし。


 未完成な桐蔭と未知数の国学院栃木。とはいえ、毎年見ている私も妻も「なんやかんやいいつつ桐蔭が勝つ」と思って見はじめたわけだ。


 この試合、両校とも、セカンドジャージ。桐蔭はいつもの濃紺ではなく、白いジャージ。試合が始まってしばらくして、「これ、いつもの桐蔭じゃないよね」と妻が言い出した。「桐蔭中等?のわけはないけど、ちょっとなあ」と。ちなみに桐蔭中等は、桐蔭ほんちゃんと配色が逆の、白いジャージがファーストジャージ。だから、白いジャージ着て、予想外に劣勢に立たされて苦しんでいるのを見て「桐蔭中等?」と言ったわけだ。長男のときの桐蔭中等は、県立高校にもぼろ負けするところからスタートしたので、白いジャージで苦戦する姿を見て、思い出しちゃったのだと思う。


 この試合、というかこの大会、接点における反則の取り方が、攻める側のボールの上への倒れこみも厳しく取るし、ジャッカルしようとする選手が立っていないことも厳しく取る、と申し合わせがされていたように観戦していて思った。
 そんな審判の傾向に対して、この試合、桐蔭の攻撃は、ボールキャリアが倒されたところを後ろからフォローの選手が素早く入ってボールを保持しながら攻撃をつなごうとすると、何度も倒れこみととられ、一方、国学院栃木のディフェンスは、ジャッカルがうまい。しっかり立ってボールを絡む。つまり、攻めても守っても、桐蔭がペナルティを取られる展開となった。前半はほぼそれがすべてで、桐蔭は全くリズムがつかめず、国学院栃木は絶好調。これに加えて、キッカーの調子が、国栃12番田中くん絶好調、桐蔭10番は不調。(というか、キック機会も少ない。)


 それでも前半終了間際の、桐蔭は二回のうまいキック攻撃から、相手フルバックのやや処理ミスという、ちょいとラッキーもあったトライで一本返し、18-5、国学院栃木リードで折り返した。


 このトライで、流れをつかむか。コンバージョンを外したこと(角度が難しかったから仕方ないのだが、流れをつかむには入れたかったキック)で流れをつかみ損ねたか。妻も「微妙だねえ。どうかなあ」と。


 妻もわたしも、桐蔭の最大の強みは「大会中でも、一試合の中でも、欠点を修正する能力」だというのは一致する見解。もし桐蔭らしさが出るとすれば、前半の課題、倒れこみやノットロールアウェイの反則を絶対にしないことと、相手のジャッカルを食らわないように、倒れた後の体の向き、球のおき場所、フォローの速さを一段階集中力を上げて遂行すること、この点が修正できれば桐蔭が勝つはず、ということを妻とも確認。さて、後半はどうか。


 後半立ち上がりのプレーは、「お、修正できたじゃん」という感じ。しかし、それで得た、かなり遠目(センターラインと10メーターラインの間くらい、正面だが45メートルはある)PGを、風上だからと狙ったが、惜しくも外れた。ここが試合の流れでいうと、大きな境目だったと思う。あれが決まって18-8と、後半開始直後になっていれば、「ワントライワンゴール+PG一本」差だというプレッシャーが国学院栃木にかかったはず。妻も「惜しい惜しい」と悔しがる。


 しかし、PGが外れたあと、すぐに今度は桐蔭がまたジャッカルを食う。前半の欠点が、すぐにぶり返してしまった。妻も「これはまずい。ダメだ」とあきらめモードになっていく。

 国学院栃木が、ここからさらに素晴らしくなる。特にディフェンス。10番伊藤君の「立っている状態で、相手にからみついて、ボールと腕の間に手を差し入れて、ボールをひっかきだしてターンオーバーする」技術が炸裂。(ちなみにこの技、我が家の次男も得意だった)。12番田中君も、ジャッカルもうまい。大きいフォワードだけでなく、10番12番や、あと11番のウイングもトライゲッターなだけでなく、ジャッカル上手かったな。ハーフ、バック陣まですごいディフェンスだった。このため、桐蔭は、攻めがつながらず、逆に、国学院栃木が、キックパスや流れるようなつなぎという、昨年までの桐蔭を見ているような、華麗な攻めでトライを取る。


 藤原監督が「完敗」と認め、Jスポーツ解説者が「国学院栃木は、実力で勝った。番狂わせでも金星でもない。」と言った通りの内容だった。なんか、ここまではっきりやられると、むしろすがすがしい気持ちになれるなあ。桐蔭を応援する立場の私も妻も、全く同意見。国学院栃木が素晴らしすぎた。一方、桐蔭は、弱点欠点は彼らのことだから、自分達でもわかっていて修正しようとしたけれど修正しきれなかった。それは、コロナでのトップレベルのチームとの練習試合とか交流経験不足のようなことがあったのだと思う。しかし、今回の桐蔭は二年生一年生も多かったので、ぜひ、来年、さらに完成度の高い桐蔭らしいチームになって帰ってきてほしい。


 とはいえ、神奈川県内の競争も、年々厳しさを増している。東海大相模が、元・仰星の土井監督が指導するようになって以降ラグビー内容劇的進化していて、従来の桐蔭・慶應二強から、相模を加えた三校が、毎年、接戦を繰り広げるようになった。二強が切磋琢磨する奈良や京都と比較しても、競争は厳しいと思う。「なぜ神奈川は代表一枠なのか」問題が深刻化している。予選参加校数ではなく、本大会での成績と、予選試合内容からして、東京ではなく神奈川が二枠が正しいと思う。一歩譲っても、東京も神奈川も1.5枠ということで、東京・神奈川の二位校同士でプレーオフをするのが良いのではないか。

 ついでに言えば、大阪を二校にして、京都、奈良、兵庫の二位校と、大阪の三位から一校出場という関西プレーオフというのをやればいいように思う。


 あと、妻が「桐蔭が共学になったのもあるかなあ。」とまた面白いことを言いだした。そう、数年前まで、桐蔭は「男子部・女子部」に分かれていた。男女別学で、通学のバス、バス乗り場でだけ女子と同じ空気を吸える。高校三年になって初めて選択授業でいくつか女子と一緒に授業を受けられる、という学校だったのだが。長男などは、妄想ばかりで女子とは口をきいたこともない桐蔭生活だったようなのだが。


 それが、今は完全男女共学化してしまったので、「もしかして、いろいろ気の迷いというか、共学ならではの青春的なものも増えているのでは」という、妻ならではの、面白意見。女子ラグビー部もできたらしく、なんだか、そういうことで気の迷いが生じる子も、たしかに、出てくるかもな。

 それもまた青春でいいじゃん。桐蔭の運動部の文化も、「文武両道」「意識高い」は定着しているけれど、それに加えて「共学校青春ときめき」みたいなものが付け加わったら、それはそれで素敵かもと思う。話はずれたが。


 県内も、関東地方もレベルが上がって、「東日本は桐蔭一強」という時代が、ついに終わる、というのも高校ラグビー界にとってはいいことだと思う。そういう歴史的な試合だったと思う。


 さて、完璧な強さを見せた東海大仰星と、桐蔭を破ったが「今年の桐蔭がいまひとつだったのかも」の疑念はあり、関西勢+東福岡と当たらずに決勝まで来た国学院栃木。国学院栃木がどこまでやれるのか。興味は尽きません。決勝は地上波TBSでも生中継予定。土曜8日の昼間14時です。お時間あれば、ぜひ。

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