見出し画像

世界陸上8日目女子400mハードル、アメリカのマクフーリン、50秒68という驚異の世界新記録を、「ハードリング技術のパラダイムシフト」可能性として考察する。

世界陸上8日目女子400mハードル、アメリカのマクフーリン、50秒68という驚異の世界新記録を、妻と見直しながらいろいろ会話をしていて考えたこと。

まず、一緒に走ったオランダのボル 52.27 アメリカのムハマド 53.13、世界二位と三位の記録を持つ実力者がシーズンベストを出したのに、10m以上の圧倒的大差がついたこと。

自分が6月の全米選手権で出した世界記録51秒41。そこから0.73という縮めた幅が尋常でないこと。

解説の高平氏のコメント、「今日の周回競技(トラックを回る競技)、それほど記録が出ていなかった」という発言通り、トラックコンディションでも、トラックサーフェスが何か特別速いというわけでもない。だからこそ高平氏も驚いたのである。

去年のことを思い出すと、世界記録があまり多くなかった東京五輪で、男女とも400もハードルで世界記録が出た、という事実を思い出す。女子はマクフーリンだが、男子は・・・当時の読売新聞記事を引用する。

「陸上の男子400メートル障害で驚異的な世界新が誕生した。カルステン・ワーホルム(25)(ノルウェー)が自身の世界記録を0秒76更新する45秒94で、金メダルに輝いた。2位の米国選手も従来の記録を上回っており、ワーホルムは「五輪の歴史で最高のレースだったと思う」と胸を張った。」

なんと、このときも0.76秒という驚異的な短縮である。

他の短距離系トラック競技の記録では世界記録が出にくくなってきているのに、400mハードルで男女とも、たった一年の間にものすごい記録の短縮が起きているのは、何か、技術革命が起きているのではないか。

 妻は陸上競技は、というかあらゆるスポーツについて全くの素人、いや私も全くの素人だが、妻は私と一緒に生活しているために、おそろしく大量のスポーツを「漠然とだが」見続けて40年、しかも医者という職業柄(リハビリ科の医師)のせいか、スポーツ選手の動作を漠然と見て、何か特徴的なからだの動きを見つけ出す能力が高い、

 そういう妻と話し合って検討・考察した結果を書いておく。

400mハードルには10台のハードルがある。

平地を走る走力では、マクフーリンと二位三位の選手の間に、ここまで大きなタイム差が生じる力量の差はない。

しかし、ハードルをクリアする動作部分に、例えばハードル一台0.1秒の差を生じさせる「何かの違い」があれば、10台のハードルで1秒の差が生じる。

動作の印象で言うと、ハードルをクリアした着地一歩目に、「何か」違いがある。

解説の高平氏はマクフーリンの走りの特徴を「ハードルを越えた後もブレない走り」と、このレースの中継中に解説している。

私の印象も、着地した足首が、他選手よりも「ブレない」という印象である。

一般にハードルを越える時は、前に伸ばした脚を素早く真下に振り下ろし、「次の一歩」に素早く移行するという「早さ」「速さ」を意識して指導される。そのために、他の選手のハードルクリア後の着地足の動作を見ると「素早く地面をひっかく」「そしてできるだけ早く次の一歩も地面をかく」、着地のリズムが「パーン、タタ」(パーンが飛んでいる状態、初めのタが伸ばした足を下に早く振り下ろして着地する動作、次のタはすぐに次の足で走り始める」というリズムに見える。着地足とその次の足の間の幅が狭い。

 一方、マクフーリン選手は、伸ばした脚を振り下ろした、その足首が強く、その着地の一歩目から加速している。着地足から次の足までの時間も距離も、間隔がわずかだけ長い。

ふつうの選手のハードリングが「パーンタタ」だとすると、マクフーリン選手だけ「パンダッダ」ハードル上にパンと伸ばした脚を振り下ろしたその足首が強くダっと加速して、次の一歩に移行していく。

「ハードルが無いかのように走ることが理想」⇒「ハードルの一歩は時間的にできるだけ短縮する」⇒「ハードル超えた足の着地は素早く軽くつき、すぐ次の一歩に移行する」というのが、他の選手の「パーンタタ」だとすると

 マクフーリン選手のハードリングは「ハードルが無いかのように走ることが理想」⇒「ハードル直後の一歩は強く蹴る。飛んで振り下ろす力が加わっているのだから、普通の一歩より、さらに加速するチャンスだと考える」という発想の転換があるのではないか。それが「パンダッタ」である。

高平氏の言う゛「ハードリングした後も走りがぶれない」というのは、ブレないだけでなく、ハードリング後の一歩目で、強い足首で加速しているために生まれる印象ではないか。

ハードリング直後の一歩について「いかにして減速ロスを減らすか」という従来常識に対して「ハードリング直後の一歩で、いかに加速するか」と、意識を変革して技術を変革する。

実際にはハードリングが減速要素であるのは変わらない。が、「減速要因をいかに減らし、短時間でハードリングを完了するか」というアプローチより「加速要素を最大化するように技術内容を見直す」という革命が起きているのではないか。

こういう「意識&技術革命」が起きていない限り、400mハードルでの男女、世界記録の異常な大幅更新というのは、説明できないと思うのである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?