第7回 「不死」への憧れ、テクノロジーと人間」(死についても不死についても、人間の意識についても、考えない日本人について)BS1スペシャル「欲望の資本主義2020スピンオフ ジャック・アタリ大いに語る」を7つのテーマに分解・解説 最終回

連続投稿、この番組を7パートに分解して、各回ごとに以下のように進めます。

⑴アタリ氏の言葉を、番組字幕を写経しました。アタリさんの言うことだけ興味のある方は、ここだけ、お読みいただければ、と思います。

⑵インタビューが、ただつながる番組構成上、論理の筋道が⑴だけだと、ちょっと追いづらいので、ざっくりと私がそれを整理します。

⑶そのあとに、私の感想、意見を書きます。個人的なこともあれば、今、日本で問題になっている政治的テーマと、アタリ氏の発言の関係を論じる場合もある予定です。ここは、もし興味があればお読みください、というパートです。

ついに最終回、第七回は、「不死」への憧れ、テクノロジーと人間」(死についても不死についても、人間の意識についても、考えない日本人について)

これまでの話からは飛躍したテーマの、ごく短いインタビューで、唐突に、番組は終わります。テクノロジーによる不死へのアプローチについて。

このことの意味を、解説する回です。

昨日も、日本人は確実に起きることがわかっている未来に対してさえ、考えようとしない、とアタリさんに怒られたわけですが、このテーマも同様。

数年前から、僕もこのテーマで何度も文章を書いたり友人に話したりしますが、「私も前から興味があって考えていた」というのは10人に1人。「初めて考えたけれど、面白い、興味ある」っていうのが10人に3人。残りの六割は「別に、おれ、死んでもいいし、永遠に生きたくねえし」というボケ反応。君が生きたいかどうかが問題じゃないの。人類が本気でそっちにテクノロジーを使っていくと、世界が、社会が、とんでもない変化をして、『永遠に生きたくねえし』の君の未来も、とんでもないことになるんだよっていう話をしているのに。しかも遠い未来の話じゃないよ。現在進行形。

内閣府も、これと重なるプロジェクトを、すでに立ち上げています。全てに後手後手の日本政府さえ動き出しているということは、アメリカや中国やロシアでは、どれくらい先に進んでしまっているか、想像してみてください。「ぼーっと生きてんじゃねえよ」、で終わります。

⑴番組中継 文字起こし

◆番組VTR ナレーション
未来への想像力。今、世界で高まりつつある機運に、常に冷静なまなざしを注ぐジャック・アタリが、取材の最後に口にしたメッセージ。それは、否応なしに突入していく、テクノロジー社会への警鐘だった。
アタリ氏
「私たちには人間味が必要です。実現には何十年もかかりますが、テクノロジーの明らかなトレンドの1つに人類の「不死」への憧れがあります。そして、肉体の一部を人工物に換えれば、不死になれる確率が高まると人間は単純に信じています。我々は、あなたも私も死ぬ運命だけど、このテーブルという物体は不滅だと思っています。この考えはバカげています。イノベーションの主なトレンドは人間を人工物に換えることで、これは本当に危険です。なぜならもし我々が人間と自然を人工物に変えてしまったら、死んだも同然だからです。エレクトロニクス技術やバイオテクノロジー等、100%テクノロジーを用いて人間を人工物に変えたら、人間は死んだことになるのです。忘れてならないのは、どうやって人間の本質を守るかです・腕を換えることはできます。昨日、研究室で、人間に3本目の腕をつける実験を見ました。3本の腕を操れるのです。ダメではありません。ですが、人間の人工物化には一定の制限を設けるべきです。これは話し合うべき重要なテーマで、話し合わなければ人類には死が訪れますよ。」

インタビューを終え、笑顔で席を立つアタリ氏。

番組ナレーション 「世界の秩序をすべて力の絡み合いによる動的平衡と捉えるアタリ氏。そのバランスを破壊するのは皮肉なことに、いつも、人々の純粋な欲望なのか。欲望の資本主義の探求は続く。」

⑵論理の流れの整理
 流れも何もないですね。不死への憧れが、テクノロジーによって実現の方向に進みだしている。具体的に。そこで人間を人工物に完全に置き換えたら、それは「死」だ。と哲学者らしいことを言って、ちゃんと人類みんなで話し合えよ。という提言で終わっています。

最後の、番組ナレーション。せっかくのアタリ氏の豊饒な中身に対して、ちょいとザックリまとめすぎ。

⑶僕の意見、感想。

 最終回なので、ふたつのパートに分けます。まずは、今日のテーマの深堀・その背後に、その先にある、途方もない問題の広がりを理解してもらうパート。
 第二部は、ここまでの六回の問題意識と、今回の話が、どうつながるのか、と言うパートです。

 まず、「不死とテクノロジー」について。

 アタリさんは、主に機械・メカニズムによるサイボーグ化のようなことを話していますが、今、テクノロジーによる不死の研究は、大きく、3つの流れに整理できるかと思います。(以下、書くのは僕のここ数年の研究思考の結論・ダイジェスト)

一つ目は、遺伝子工学、医学からのアプローチでの不死化。人間が老化したり死ぬのは、遺伝子にプログラムされているから。その「老い」と「死」に関する遺伝子部分を解明し、そこを削除したり書き換えちゃえば老いないし、しないじゃん、というアプローチですね。

 二つ目は、サイボーグ化。まずロボットとかサイボークとか言うと、「金属パーツ」をイメージしちゃって、機械のカラダに置き換える銀河鉄道999みたいなことをイメージしちゃいますが、置き換えパーツ自体も、遺伝子工学とバイオテクノロジーで、生体分子を積み木みたいにくっつけたり、あるいは自分の細胞(iPS細胞とか)から復元増殖したりということで、傷んだり欠損した器官を置き換え続けていくことで、人間は死なない、というアプローチ。

 三つめは、人間の人格とは「記憶と、思考パターンの組み合わせ」であり、それは、どちらも脳の神経細胞の配列つながりによって形成されている。とすると、人間の脳神経細胞のつながりをまるごとスキャンし、かつ、そこにおける電気信号の伝わり方(化学物質の放出による、特殊な伝達方法なので、従来の電子回路では再現できない)を再現できれば、人格・記憶は、コンピュータ上に移植できる。肉体が死んでも、サーバー上に人格は移植できる。ときどきパソコンの中身を、ハードディスクが壊れたとき用にまるごとバックアップ保存するように、サーバー上に人格記憶情報を定期的にバックアップしておけば、肉体が死んじゃっても、肉体を遺伝子工学で再生したところに、ある時点の記憶&人格をリロードすれば、生き返れちゃう。人間は不死になります。

 この人格のサーバー上への移転を推し進めると、もう肉体で生きるのはやめて、サイバー内だけで生きるという選択肢もある。地球上の場所、空気、食料などが限られるのに、人間が死ななくなると、人口増加と資源食糧の物理的物質的限界が来るでしょう。だから、物理的肉体は死んで、情報サイバー人格だけが永遠に生きる、という選択肢を多くの人にはとってもらう。という未来が想定される。

 サイバー上の人格は移転した時点でもう変化成長しないかと言うと、そんなことはなくて、新しい体験をし、記憶が増えることにつれ、人格も変化進化する。思考回路の進化の仕方の個性(それが人格)もサーバー上にプログラムできれば、サイバー空間内で、永遠に「体験を積み、人格を深化させながら」生き続けられる。

 そういうサーバー内人格同士が交流して生きるサイバー内別世界(サイバー天国)というものも生じうる。もう、それはサイバー天国です。幸せならばね。不幸や苦しみが永遠に続くならば、サイバー地獄。

 この、①遺伝子的老化と死の克服 ②身体パーツの置き換えによる老化と不死と病気怪我障害の克服 ③サーバー上への人格の移植。(その付随的拡大としてのサーバー上に新しい世界が形成される。)

これら、それぞれの実現速度と組み合わせで、「老いと死」の克服は、今後30年から50年くらいの間に、急速に進む。っていうか、すでにかなりの程度進んでいる。

 米国、中国、ロシアでは、主に富豪の方たちが、死にたくないので、ものすごい巨額の投資をして、研究が加速していると言われている。

 日本でも進んでいる。ふたつ紹介しておきます。

ひとつは内閣府のムーンショット計画「ムーンショット目標1 2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現」

なんと、動きの鈍い日本政府、あの安倍内閣でも、こんなことをしている。ということは、米中ロが、どこまで進んでいるか。

もうひとつはWIREDの記事が伝える「2019年3月に設立された「MinD in a Device」は「20年後までに人間の意識を機械にアップロードする」というヴィジョンを掲げるスタートアップだ。その共同創業者である渡辺正峰(東京大学大学院准教授)は「機械に意識が宿る」と証明すべく、ラディカルな理論を打ち立てようとしている。」

 下線部クリックすれば、それぞれリンクに飛ぶので、興味があれば。

 これで社会、世界に何が起きるかと言うと、究極の差別「死ぬ人間と死なない人間」に、人類はわかれる。しかも、それが「いくら金を持っているか」というような、現在の社会階層に応じて、「金持ちは永遠に生き、貧乏人は死ぬ」になる。過渡期には「貧乏人が実験台になって、失敗しては地獄を見る」というのも、きっと起きる。

 僕らが100歳くらいまで生きると2070年。そのときは「どうします、そろそろ、死にます?肉体ごと若返って、もう50年ほど生きます?それともそろそろ、サーバー上の永遠の人生に移行します?」と、お医者さんと相談する、なんていうことが、起きているのである。「保険適用されるのは、サーバー上だけで生きるやつですよね。でもなあ、もうちょっと、肉体でも楽しみたいことあるんだよなあ」なんてことを、貯金と相談しながら、考えることになるかもしれない。

 かつて宗教が「老いと死の恐怖」から、人類全体に広まったわけだけれど、救済の確実性については、どこか一点で「信じる」という飛躍が必要。科学的根拠はなかった。

 しかし、今回の不死へのアプローチは、科学的実験実証を積み重ねての「確実に不死に至る道」。人類社会が激変することは間違いない。

 アタリさんは、それでも、この不死へのアプローチのどこかで、「実はもう人間ではなくなってしまう」という断絶が存在するリスクに警鐘を鳴らしているわけ。ノア・ハラリさんだと、もう人類ではない「ホモ・デウス」に進化してしまうので、彼らの考えることは現生人類には理解できなくなる、という形で予言しているよね。

 このあたりについて、映画だと、ジョニーデップ主演の『トランセンデンス』というのが、何が起きるか、イメージしやすい。映画としては、かなり失敗作だと思うが。テクノロジーの未来を理解しやすいです。

 あと、こうした不死テクノロジー進化と、世界情勢変化の中で、日本がハイテク鎖国化する未来を描いた「ベクシル 2077日本鎖国」という2007年のアニメーションも、テクノロジーと社会、世界の関係を考える上で、参考になります。(アタリさんのこの番組を解説するきっかけをくれた、Oさんの大好きな、黒木メイサが、ヒロインの声優をしています。)
中国字幕版ですが全編がYouTubeに上がっています。よろしかったらぜひ。

 不死とテクノロジー、単体の話はここでおしまい。

さて、一回目から今回まで、アタリさんの話を全部をつなげると
①一回目 日本の課題は、「将来世代の幸福」を基準にした様々な指標でOECD各国中、最低の地位にあることだ。女性の地位や、教育などへの取り組みや投資が先進国中最低である。だから、少子化が止まらない。今、子育てをしにくいだけでなく、暗い未来に向けて、子供を持とうという意欲がなくなってしまうからである。特にまずいのが、社会流動性が低いこと。社会階層間の移動が起きにくい社会になっている。親世代より、子供世代が豊かに幸せになれなければ、普通は革命がおきる。日本は革命が起きてもおかしくないくらい、社会流動性が低い。

②二回目 そういう社会を変えるにはケインズ的政策が必要。中央銀行は時間の猶予を与えるだけだから、政府がその間、サボらずに仕事しろよ。でも、政府はサボるもんなんだ、残念ながら。

④(順序反対になるが四回目)利他主義、合理的な利他主義は、時間軸で考えるのがいちばん難しい。
未来・将来世代の利益に立って、現在の意思決定をするのは、資本主義・民主主義ともに難しい。グローバル資本主義は短期利益追求、民主主義は目先の利益誘導による人気取りに陥りやすいから。

③三回目 民主主義、資本主義のこうした「短期志向に陥りがちな欠点」に付け込んで、将来世代のため、という美名のもとに、過激なエコロジストと宗教過激派が手を組んだ「全体主義」が勢力を伸ばす危険がある。それが、将来におけるもっとも大きなリスクのひとつである。

④四回目続き。全体主義化のリスクを回避するには。資本主義と民主主義を、未来志向の、ポジティブなものに進化させければならない。そのためには、「自分の子供が、孫が」と考えることが大切。とアタリさんは言うが、少子化が極限まで進んだ日本では、「いい親ならどう考え、行動するか」「自分の孫が生きる世界はどんなか」を、自分事の切実な問題として考えられる人が、すでに少数派になっている。子供を持っていないし、親になっていない人がどんどん増えているから。

⑤五回目 グローバル化の中で、GAFAの支配のリスクもあるけれど、言語の多言語主義が加速して、それとつながる文化や宗教によるマイクロバルカン化で紛争が多発するよ。 グローバル法規はアメリカ法規の治外法権化、世界法規化が進むことに、抵抗した方がいいね。

⑥六回目 日本は、世界の中でも苦しい未来を迎えるよ。国際状況の必然的進行の中で、確実に起きる「中国の内部崩壊」「米国の内向き化」、そのはざまにある日本に、大きなリスクがあることは明らかなのに、日本人はそのことを考えようとしない。「未来は予測できない」といって、考えることから逃げるばかりの愚か者だ。

という、ここまでの問題認識に対して、「テクノロジーによる不死の追及」は、諸刃の剣ではあるが、ブレークスルーのカギとなるかもしれない。

どういうことかというと、「自分が永遠に生きる可能性があるとしたら、長期的未来志向で、現在のことを考えなければならなくなる。」

でしょう?

「どうせ、もうすぐ死ぬから、地球だの人類だの、どうなってもいいよ」と言っている、50代60代のあなた。普通にしていても、あなたたち、90歳近くまで生きます。今の人の平均余命だと。そうすると、技術的には、さっき説明した、どれかの「不死の技術」が、実用サービス化されています。

どうですか、そのとき、「金持ちは生きられるけれど、貧乏人は死ね」の世界になっていてもいいですか?

いいもん、死ぬから。気にしない?いやいやいや。

「お前ら、貧乏人は永遠に働くために、死ぬこと禁止」になってたら、どうする? 安倍麻生コンビなら、言いそうじゃない?これ。死ぬよりつらいですよ。

 というわけで、少子化がそう簡単に解決しない、そのための将来世代の立場で考えての、民主主義と資本主義の進化についても本腰が上がらない、未来に確実に起きることも考えようとしない日本人のことを脅かそうとして、最後の最後に「永遠に生きちゃうかもよ、それが天国的未来になるか、地獄の未来になるか、決めるのはあなた次第」というメッセージを、アタリさんは番組の締めにしたということなのですよ。(NHKの人、そこまでわかってないぽい作りだったけど。)

予告編から含め八回、おつきあい、ありがとうございました。


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