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『反穀物の人類史――国家誕生のディープヒストリー』 ジェームズ・C・スコット (著), 立木 勝 (翻訳)  メソポタミア文明って、中学高校、歴史で何回教わっても、なんだかボヤーっとつかみどころ無かったのはそのせいなのか、とわかる本。あと新型コロナと地球温暖化は、今に始まったことじゃなく、似た原因・理由で何度も文明は崩壊しているのじゃ。

『反穀物の人類史――国家誕生のディープヒストリー』 2019/12/21
ジェームズ・C・スコット (著), 立木 勝 (翻訳)』


Amazon内容紹介
「豊かな採集生活を謳歌した「野蛮人」は、いかにして古代国家に家畜化されたのか。農業革命についての常識を覆す、『Economist』誌ベスト歴史書2019。」


って、ちょっと、簡単すぎるな、この内容紹介。もっと長いやつもあった。
「世界観を真に変革する、稀な書だ。
――A. サリヴァン(『ニューヨーク・マガジン』)
われわれの農業に偏った歴史観は、見直しを迫られるだろう。
――S. シャブロフスキー(『サイエンス』)
人類が文明と政治的秩序のために支払った大きな代償を、ずばり明らかにしている。
――W. シャイデル(『暴力と不平等の人類史』)
 「ある感覚が要求してくる――わたしたちが定住し、穀物を栽培し、家畜を育てながら、現在国家とよんでいる新奇な制度によって支配される「臣民」となった経緯を知るために、深層史(ディープ・ヒストリー)を探れ、と…」
 ティグリス=ユーフラテス川の流域に国家が生まれたのが、作物栽培と定住が始まってから4000年以上もあとだったのはなぜだろうか? 著者は「ホモ・サピエンスは待ちかねたように腰を落ち着けて永住し、数十万年におよぶ移動と周期的転居の生活を喜んで終わらせた」のではないと論じる。
 キーワードは動植物、人間の〈飼い馴らし〉だ。それは「動植物の遺伝子構造と形態を変えてしまった。非常に人工的な環境が生まれ、そこにダーウィン的な選択圧が働いて、新しい適応が進んだ…人類もまた狭い空間への閉じこめによって、過密状態によって、身体活動や社会組織のパターンの変化によって、飼い馴らされてきた」。
 最初期の国家で非エリート層にのしかかった負担とは? 国家形成における穀物の役割とは? 農業国家による強制の手法と、その脆弱さとは? 考古学、人類学などの最新成果をもとに、壮大な仮説を提示する。」


これは、かっこいいけど、長すぎるか。


ここから、僕の感想と意見。


 ハラリ氏の『サピエンス全史』の、はじめの方、農業革命による国家の成立のあたりの話を、より地域と時代限定して、詳細に論じた本なので、あれを読んでいると、まあ、だいたい何を言っているかはすぐに把握できる。著者は、「いままでの常識に挑戦して、覆す」意気込みが強くて、自説を何度も何度も繰り返すから、まあ、言っていることは、読めばいやでも頭に入る。


 僕にとって、新鮮と言うか、「そんなこと、知らんかった」という驚きは、これがメソポタミアの地域での文明の発生を中心に論を進めてくれたおかげで、あそこの古代から旧約聖書時代あたりの、成り立ちというか歴史の流れ(歴史が残っていない暗黒時代も含め)そういうことだったのか、と整理できたこと。


 同じ古代文明でも、エジプトの話っていうのは、漫画だったり、映画だったり、「なぜどうやってピラミッドは作られたのか」みたいな「世界ふしぎ発見」的テレビ番組、みたいな形で、なんとなくいろいろと子供の時から刷り込まれていたのに対し、メソポタミア文明って、歴史の教科書では中学でも高校でも出てくるけれど、断片的な知識しか教えてくれない(ハムラビ法典だの楔形文字だの、)で、あそこで、どういう理由で文明が起きて、それがどう発展して、その後のどの国や文明に引き継がれていったのか、というイメージが全然分からなかったんだよね。


 で、この本を読むと。イメージがはっきりしないのは、それもそのはず、都市文明とか、国家が成立したか、と思うと、すぐに消滅しちゃって、歴史が残らない暗黒時代が、結構長く続くわけ。農耕が始まったのもエジプト文明よりかなり古いし、国家らしきものの成立もエジプトよりちょい早いのに、都市文明も、初期の国家も、わりと短い期間しか持続せずに、歴史の闇に消えてしまって、暗黒時代が続く。


 その、今まで「暗黒時代」と思われていたのが、「農耕による国家」に対する、野蛮人(非国家民)に戻っちゃう時代が結構あって、それは、野蛮人の方が豊かだし栄養もいいしあんまり働かんでいいし、いろいろリスクヘッジが大きくて有利だったから、あやういバランスでなりたっていた初期の農耕基盤都市や国家は、崩壊しやすかった、と著者は考えるわけだ。


 コロナ時代かつ地球温暖化危機の今、現在に、この本を読むのがすごくタイムリーなのは、農耕による集住定住が、人、家畜、それにくっついてくる鼠とかカラスとか、ハエとかノミとか、それにくっついている細菌、ウイルスとかが密集してたくさん集まるから、疫病が発生しやすくて。それで農耕により成立した国家は、わりとすぐ、頻繁に滅んじゃうということを、まず、言うわけ。そして、その痕跡って、あんまり遺跡に記録として残らないから、「謎の消滅」を繰り返すというの。中国南部で新型ウイルスが定期的に出てくるのはまさに、人と家畜がすごい密度で固まって暮らしているからだからな。それで文明は何度も崩壊しそうになるわけ。


 疫病じゃなくても、都市、国家は、木を燃料その他で大量に使うので、川の上流の木を切っちゃうと、都市、国の中心があるところが、洪水にあったり、あと、山の土壌が流れてきてしまうことで、下流の畑の排水が悪くなって、収量が落ちたり、土壌塩分が増えて収量が落ちたり、という、環境破壊による国家崩壊が、疫病よりちょっと長いスパンでなのだけれど、頻繁に起きて、滅亡しちゃうわけ。しかし、滅亡とか崩壊とか言うと、人が全滅しちゃうイメージだけれど、そうではなくて、狩猟採集牧畜移動の「野蛮人」に戻るだけで、あんまり困らないから、むしろ、野蛮人の方が栄養もいいし体格もいいし、疫病リスクも低いし、わざわざ定住農耕するメリットは少なかったから、農耕を「光」とすれば暗黒時代だけれど、農耕社会、それをもとにした国家なんて、大半の人にとっては不幸というか、不健康だし労働時間は長いし、いいこと無かったのよ。と著者はいうわけ。

 都市文明を維持しようとすると、環境破壊が起きて、農業もダメになって、文明は崩壊するということを、人類史の初めの方から、人間は繰り返してきたわけだ。地球温暖化も、スケールはでっかくなったが、同じことを繰り返しているのだな。メソポタミアでは、農耕ベース都市文明が崩壊したら、野蛮人に戻っちゃえば良かったのだが、地球上、全部をぶっ壊すと、今度こそ逃げ場がないんだけどな。どうする、人類。


 もうひとつ、戦争とか、奴隷化とかいう話。野蛮人からすると、農耕による定住都市、国家は、「新しい、すごく簡単に狩れる獲物」ができたみたいなもので、馬だったり船だったり、移動が自由な狩猟民が、都市国家を襲っては滅ぼしちゃう。その歴史が残らないので、「暗黒時代」に現代からは見える。都市が、国家が始まる前から、戦争と暴力と奴隷は人間の営みのもとからあって、都市や国家ができると、それはますますひどくなるわけだ。


 それでもやがて、野蛮人と都市・国家の定住民との間に、いくつかのパターンの共生関係が築かれるようになり、継続する国家が生まれてくるわけだ。でも、著者は、本当にそうなるのは16世紀くらいで、それまでは、ギリシャもローマも、全盛期の後に、急に暗黒期・空白期が生まれて、文明程度が衰退する時期が来るのを繰り返したと言い、国家・定住民が人類全体で多数派になるのは、16世紀過ぎてくらいだって言うんだよ。日本史も、秀吉の検地を経て、江戸時代になって、やっと本当の意味で定住民の国になったんだろうな。この著者の分析で合っている感じがする。
 

そんなわけで、メソポタミア地域の古代文明についての知識をクリアにしてくれながら、人類史全体の見方に新しい視点を注入してくれるという、一粒で二度おいしい本なのだが、文章がくどい。って俺に言われたくないか。読み物として面白く書こうというより、論文として押し出し強く書こうっていう感じで書かれているので、ちょいと読みにくかったです。

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