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2014年サッカーワールドカップ、ブラジル大会での、日本代表(ザックジャパン)グループリーグ敗退直後、一次リーグを勝ち抜くための考え方を連続投稿したFacebook投稿を転載。今、読むと、どうでしょう。

2014年7月1日投稿

 世界のラグビー界は、実力差により、IRB主要8協会(英仏アイルランドウェールズスコットランド、NZ、豪、南ア)にアルゼンチン、イタリアを加えた10カ国で構成されるティア1、それ以外でワールドカップに出場できる程度の実力を持ち合わせるティア2、およびそれ以下に分けられ、国際試合の組み方などを工夫している。ジャパンや、ともにパシフィックネーションズを構成するサモア・トンガ・フィジー・カナダ・アメリカなどはティア2である。


 ラグビーはサッカーと違い、実力差がそのまま結果に表れやすい。NZと日本がやれば、ひどいときは100点差、健闘しても50点差近い差がつく。実力の近い国同士でまずは切磋琢磨、ときどきティア1に挑戦、というのが現実的で効率的なのである。こうした努力の結果、先日のイタリア戦での勝利、世界ランク10位=ティア2の中でもティア1の下位となら互角に戦える、というところまできたのが、ラグビー日本代表の現状のポジションである。


 サッカー界では、FIFAランキングはあるが、こうした「ティア1」「ティア2」としての色分けがされていない。番狂わせ下剋上が起きやすいのがサッカーなので、ラグビーほどくっきりと区分けがしにくいのである。


 とはいえ今回のワールドカップ一次リーグの勝ち抜け国の得失点の状況を見ると、「ティア1型勝ち抜け」と「ティア2型勝ち抜け」があることがわかる。その間には「サッカー文化の差(守備的とか攻撃的とか)」を超えて、実力的断層があることが見て取れる。


 得点-失点 で整理すると、オランダ10-3 コロンビア9-2 フランス8-2 ブラジル7-2 ドイツ7-2 アルゼンチン 6-3 あたりまでがティア1型勝ち抜けと言える。得点力が高くディフェンスも安定している。


 一方メキシコ4-1 チリ5-3 ギリシャ2-4 ウルグアイ4-4 ナイジェリア3-3 米国4-4  ベルギーは一位通過だが4-1と、勝ち抜け方としては実はティア2型である。 3試合で4得点程度の攻撃力しかないところを、失点を3試合2点程度にすることでぎりぎりの勝ち抜け方をしている。


 ティア1型勝ち抜けをした国がいずれも、優勝または決勝戦の常連国なのに対し、ティア2型の国はメキシコや米国のようにベスト16の常連国ではあっても、それ以上になかなか進めない国が多い国である点にも注目。(スイスの7-6とアルジェリアの6-5というのは例外的なパターンだろう。)敗退したチームではクロアチア6-6が例外で、あとは4得点以下で得失点が0かマイナスである。


 ティア2の国が一次リーグを勝ち抜けるには、一次リーグ3試合で4得点2失点を目標とするのが現実的である。


 ちなみに日本代表 過去のWCでの一次リーグ得失点は、フランス大会1-4 日韓大会5-2 ドイツ大会 2-7 南ア大会 4-2  ブラジル大会 2-7 である。 勝ち抜けたときも5-2 4-2というティア2型得失点パターンである。「攻撃的サッカー」を標榜して機能せず、最終戦で玉砕、2-7となったドイツ大会とブラジル大会の轍を踏まないためにも、日本はティア2の国が一次リーグを勝ち抜けるのに必要なサッカースタイルを確立すべき。

2014年7月1日 その2

 一次リーグを4得点2失点で乗り切るチームを作るには、2失点、というところからスタートする。


 まず、岡田監督のチームづくりを見てみよう。

  岡田監督はフランス大会も南ア大会も、「バティストゥータやスーケル」(フランス大会)「エトーやロッペン」(南ア大会)という世界最高のストライカーのいる同組相手に、どうやったら0点で抑えきれるか、を最大のテーマに本大会に臨んだ(はず)。アジア予選を勝ち抜けるときには、引いて守るアジアのライバルに対してどう点を取るか、と考えて作ったシステムを、本大会に向けて変更した。


 フランス大会でいえば、加茂さんの混乱から引き継いだチームを「北澤の前線から守備的トップ下MFシステム」で復活させたのに、本大会では北澤もカズも不要、とばっさり切った。基本、5バック+山口の六人で守るシステムに変更。


 南ア大会でも、予選では使わなかった阿部勇樹アンカー(センターパックの闘莉王・中澤と、ボランチ長谷部遠藤の間に、バイタルポジションを消したり相手のエースにマンマークにつかせるための阿部勇樹を置く。中澤闘莉王はハイボールには強いが足は速くない。下がってハイボールをたたき出すと、バイタルエリアがあく。マンマークも無理。だから阿部をアンカーにおいた。) そしてサイドバック右を攻撃的内田から、守備力の高い駒野に変更。端的に言って、岡田監督は本大会では「守備的6人と攻撃4人」システムにモデルチェンジしている。これは敗退したフランス大会でも守りだけを見れば成功しており、バティストゥータ全盛期のアルゼンチン、得点王になったスーケルのいるクロアチアを、それぞれ1点に抑え込んだ。


 日韓大会トルシエも、「フラット3」という守備戦術からチームを作り始めた。フラット3だから3人で守るかというと、さにあらず。最終ラインが3人だが、ボランチの稲本・戸田のうち、戸田は守備専任。サイドハーフの小野(または三都主)、明神のうち右サイド明神はほぼ守備専従。やはり「守備に5から6人か」「攻めるのは4人」システムが基本。もちろん相手が弱くてひいてくれば、稲本は攻めに重心を置くから、守り5攻め5になるが。


 対してジーコジャパンやザックジャパンは「日本の強みは攻撃的中盤+攻撃的サイドバック」という攻め重心アジア勝ち抜きシステムを基本変更しないまま、本大会に臨んだ。
ポゼッションを高く、選手間の距離を短く、サイドバックもどんどん攻め上がった結果、「7人で攻め3人で守る」が常態化するサッカーになった。


 ジーコジャパンとザックジャパンの不幸な共通点は、直前の親善試合で、この攻撃的システムがうまく機能して、好調に点がとれてしまった、という「親善試合絶好調」という点もある。


 ジーコジャパンは直前親善試合で開催国ドイツに高原2ゴールで引き分け、「いけそう」感のまま、攻撃的システムのまま本大会に臨んだ。


 しかし、この攻撃型システムの場合、攻撃中心選手からのパスをカットされた瞬間、強烈なカウンターを食うことになる。アジア予選と、本大会の違いは、アジアの敵はカウンター攻撃をしても、シュートが下手で、そんなには点を取られないが、本大会の敵は、カウンターをしかければ、ものすごい確率で得点してしまう、ということ。この弱点は去年のコンフェデでも露呈していたのだが、修正されないまま本大会を迎えてしまった。


 この日本の「人数かけないと守れない」の理由は、実はシステムの前に、個人のサイズと身体能力の問題が大きい。ふたたびラグビーを引き合いに出すが、ラグビーは「体の大きさ」と「走る速さ」の能力差が得点力、防御力に与える影響がサッカーよりダイレクトにわかりやすく表れる。同じ幅をラインになって守るときに、185センチ平均のサイズがある人間が並んだ時と、175センチ平均の人間が並んだ時では、単純に「人と人との間の、通れそうなスキマ」が違うことは理解できると思う。また、球を持って100メートル10秒で走る人がいったんラインブレイクしたら、後から100メートル11秒の人間が追いかけても、絶対阻止できない。というか追いつけない。


  実は、サッカーのディフェンスでも、体のサイズと走る能力は、同じような影響力がある。高い位置に最終ラインを上げて守っていたとき、100メートル10秒のFWに突破されたら、足の遅いDFは追いつけない。吉田麻耶が、俊足FWにぶち抜かれてカウンターで失点、というシーンを何度も見たことがあると思うが、足が遅いのだから仕方ない。


  こういう身体サイズと走力の差を補おうとすると、ディフェンスにかける人数を一人増やす、という岡田ジャパン阿部勇樹システムというのが、いかに合理的、というか現実的対応かがわかる。小さいんだから一人増やすのだ。空中戦に勝つには大きくて足の遅いDFを最終ラインに置いておくしかないなら、足の速いマンマーカーを別に用意しないと仕方がない。


  4得点2失点のうちの、2失点を実現するには、基本的に「守備人数を6人はかける」というものすごくシンプルな結論に落ち着いた。今大会でいえば、スペインを封じ込んだオランダの5バックシステムや、死の組を首位通過した(イタリアとウルグアイを粉砕した)コスタリカのフラット5バックシステムなど、守備に5バック+ボランチで6人かけるシステムは、実は世界的にも別に珍しくないのだ。


 じゃあ、どうやって、残り4人で、4点取れるチームにする?
それはまた今度。

7月3日 投稿

 ワールドカップ一次リーグ3試合で4点取れるチームとは。どんな戦術を取ったら、そういうチームになるか。そんなことがわかったら誰も苦労しない。攻撃は水物で、取れないときはスペインだってイタリアだって点が取れずに敗退する。
と開き直っては論が進まない。


 私はここで、ふつう言われていることとはかなり違うことをいくつか提案したい。


 まず、それは「日本らしいサッカー」を作ろうなどという抽象的で無意味な目標を捨てたほうがよい、ということだ。そうではなく、日本が一次リーグを勝ち上がれるサッカーを本気で追及したとき、(3試合4得点2失点でいけるサッカーを追及したとき)その結果としてできあがったサッカーが、どんなに不格好でも、世界から尊敬されなくても、それが日本のサッカーだと思おう。まずその覚悟を持つこと。


 それから、構成する選手が変わっても永続する「日本らしいサッカー」などというものがあると考えるのはやめよう。そのときいる選手の特性に合わせて、勝てるサッカーを組み上げればいいのだ。そのとき、最も世界に通用する能力を持った個を活かすように、チーム全体の戦術を組み替えればよいのだ。


 今回のブラジル大会でも、アルゼンチンは「メッシ頼り」と言われているが、まさに、前回ワールドカップでメッシが機能しなかったことを反省して、メッシが生きるシステム・戦術・選手選択に変えたことで、ここまで勝ち上がっているのだ。戦術=メッシ頼り、でどこが悪い。華麗なパスサッカー戦術でメッシが生きなかったから、南ア大会ではアルゼンチンは勝てなかったのだ。今大会はメッシと相性の悪い選手は全部、選ばす、メッシに無理なディフェンスの負担もかけず、メッシが攻めで輝くことに集中してチームを作っているのだ。


 たとえばオランダ。オランダというと、みんなクライフのトータルフットボール、という神話の色眼鏡で、すごく先進的な全員攻撃全員守備のサッカーをしているようなイメージで見るけれど、今のオランダは「ロッペン」という特殊能力のあるスーパーマンがいることを前提に、がっちり守って、とにかくロッペンに球を預けてゴール前まで持っていき、そのまま決めきってくれれば最高、そうでなければそこにディフェンスが集中するところにスナイデルが走りこむ、という「戦術=ロッペン」サッカーをしている。そしてロッペンがもし不調でも、ファンベルシーというスーパーマンがもうひとりいるから、同じような「戦術=ファンベルシー」でokなのだ。


 ポルトガルを例にとっても、ルイコスタ・フィーゴがいた当時の「黄金の中盤パスサッカー」のポルトガルと、「クリスチャーノ・ロナウド」を活かすポルトガルが、同じ戦術であるはずがない。


 つまり、チーム内で卓越した特殊能力を持つ選手がいたら、その能力を活かすようにチーム戦術を組み上げるのが正しいアプローチであり、サッカーとはそもそもそういうスポーツなのではないか。


 日本にはメッシもロナウドもロッペンもいないのが問題、というが、そういうことでもない。


 日本の攻撃的タレントで、本当に、「この能力なら世界トップ10に入る」というような能力を持っていたのは、(というか現在進行形、今でも持っているのは)中村俊輔のセットプレーだけだと私は思っている。止まっているボールを思い通りに蹴る能力では、俊輔はピルロと並んで、いまだに世界のトップに位置していると思う。それが唯一、世界に通じる武器ならば、それを最大限に生かす戦術を採用すればよい。ペナルティエリア近くでファールを取れるフォワード&コーナーキックで競り勝てるヘディングの強い選手を選ぶ。それ以外はべたで守る。そしてフリーキックとコーナーキックにすべてを賭ける。俊輔在籍当時のセルティクが、チャンピォンズリーググループリーグで俊輔のフリーキックでマンチェスターユナイテッドを撃破して決勝トーナメント進出したときのようなサッカーをすればよいのだ。俊輔は今も現役で、昨年のJリーグMVPなわけだから、私のこの戦術の代表と、今大会のザックジャパンと、どちらが一次リーグで戦えたかは、わからないと私は思っている(俊輔&闘莉王ジャパンの方が戦えると今大会選手選び前から友人たちに力説していたのは、友達のみなさんはご存じのとおり)。(栗原・中澤のマリノスディフェンスに闘莉王も加え、マリノス斉藤やレッズ原口元気などペナルティエリア外側からドリブルでつっかけるタイプのFWをそろえて、フリーキック、コーナーキックを狙い続けるサッカーの方が、俊輔がいれば点は入ったと思っている。) 日本のサッカー解説の世界では「流れの中で点が取れる」ことが大切で、セットプレーでしか点が取れないのはダメ」みたいな論調があるが、どっちでとっても一点は一点。セットプレーだけで一次リーグ3試合で4点取ればいいのである。


 これは「俊輔の能力だけが世界に通じるなら」という前提での話だが、別の特殊能力を持つ選手がいたら、それを核に戦術をくみ上げればいいのだ。たとえばロンドン五輪の男子ベスト4の原動力も、実は「戦術=永井」だったところが大きい。圧倒的俊足の永井がいたために、日本のサッカーとしては本当に珍しく、強烈なカウンターを相手が恐れる、という状況が作り出せた。


 準決勝以降、永井がけがで機能しなくなって、日本の快進撃はあっさり止まり、魔法がとけたみたいに、準決勝も三位決定戦も負けてしまった。一次リーグでスペイン・モロッコに勝ち、ホンジュラス引き分け、決勝トーナメントにエジプトに勝った時に「日本サッカー全体が強い」みたいな気分になったが、永井がダメになったとたん、メキシコにも韓国にもやられてしまったことからわかるとおり、ロンドン五輪男子は「戦術・永井」が世界に通用しただけのことなのだ。


 別にこれは日本だけの話ではない。今回のウルグアイは「戦術=スアレス」のチームだった。守備は強固だったが、攻めに関してはスアレスなしには普通のチーム。スアレスがいればティア1だが、スアレス抜きではティア2のチームだった。フォルランに全盛期の力は全くなく、カヴァーニも一生懸命頑張ってはいたが決定力の面では不調。ただひとりスアレスだけは別次元の強さを発揮。スアレス欠場のコスタリカ戦は1-3で負け。スアレス登場のイングランド戦はスアレスの2点で快勝。イタリア戦もスアレス得点で勝ったが、かみつき事件発生。決勝トーナメントはスアレス不在で、コロンビアに一方的にやられてしまった。


 「卓越した個」をスーパーフォワードだけだと考えるとないものねだりになる。セットプレーでも、ただ足が速いでもいい。とにかく、戦術の核になる卓越した個性を何人か育てること。そして
① 卓越した個(を活かす自分たちの型)  ロンドンでの永井とか、セルティックの俊輔とか。
そのうえで、本大会で攻撃・得点の核になりうる別のオプションをいくつか持つ
② 自分たちの型(エースが不調でも攻めが組み上がる自分たちの型)その2 を用意しておく。
(ア) スアレスや永井がいなくなるともうダメ、にならないように戦術核の選手が不調だったり怪我だったり出場停止になっても成り立つ、別の戦術型を用意しておくこと・
(イ) それは、単純にスアレスや永井の役割をほかの控えの選手に託す、ということではないはず。それではチームは機能しない。中心選手を変えた時には、戦術もそれに合わせて変える、という準備をしておく必要がある。ドログバ投入時のコートジボアールは、それによるチーム戦術の変更をきちんと準備していた。
③ ラッキーボーイ・新星候補を用意して、試し続けること。
(ア) コロンビアのハメス・ロドリゲスはたしかに「期待の新星」ではあったが、ここまでブレークすると思っていた人は少ないはず。ファルカオの不在でエース不在、というのが下馬評だったわけだから。こういう「伏兵・新星」の可能性ある選手を用意しておく。古くはイタリア大会のスキラッチとか。

 
 というわけで、「こういうサッカーをやろうと選手を選ぶ」のではなく「突出した才能を軸にサッカーをくみ上げる」というのが、攻めに関して言えば、サッカーの王道なのだと考え、柔軟かつ現実的に攻めの形を考えるのが、「3試合で4点を取る」ための唯一の道だ、というのが今のところの私の結論・

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